第133話 下ダンが消えちゃった

 冴羽との会談を終えたアンリは、その足で下関ダンジョンへと向かった。

 ダンジョンリフトでボス部屋の奥へと移動するとダンジョンコアの台座へと向かう。


(ここでギフトを発動すればいいって事だな)


 【アコード契約


 アンリがギフトを発動すると、ダンジョンコアは砕け散った。


(俺のギフトは攻撃スキルじゃないからダメかと思ったが問題無く使えたようだな)


 その直後ダンジョン内は大きな揺れに襲われた。


 下関ダンジョンはダンジョン通信も使える事から、今、世界一人気のあるダンジョンと言っても過言ではない。

 アンリがダンジョンコアを破壊した時点で深夜であるにも関わらず、二千名弱の探索者が活動していた。


 そのすべての人々がダンジョンの崩壊によって、ダンジョンの入り口があった場所へと強制転移をさせられた。

 いきなりのダンジョン消失により現地は大混乱へ陥っていた。

 隣接するダンジョン協会からも職員が総出で事態の収拾に努めるが喧騒は収まることが無い。

 幸いにもダンジョンの消失による負傷者は軽傷者が数名だけで、すぐにダンジョン協会から供出されたポーションにより治療され事なきを得た。


 その状況を尻目にアンリは一人下関ダンジョンを後にする。


『冴羽、任務完了だ』

『お疲れさまでした。これから一度博多へ来れますか?』


『なんの用だ?』

『ダンジョンマスターを鑑定すれば、なにかわかることがあるかと思いまして』


『なるほどな、どこに行けばいい?』

『心愛ちゃんの食堂はわかりますか?』


『ああ』

『そこでお願いします』


『今から車で戻るから朝の六時頃になるがいいか?』

『大丈夫です。私もその時間に向かっておきます』


◇◆◇◆


 一方ダンジョンの消失した下関ダンジョン協会では、関連各所への連絡で慌ただしくなっていた。


『結城常務理事、この現象はどう収拾をつければ良いのでしょうか?』

『ダンジョンの消失現象についてはケニアで一件確認されている。その事例を参考に、こちらでも原因の特定を行う。下関においてはリアルタイムで配信や撮影をしていた探索者もいたはずだ。そのデータを出来る限り供出してもらえるように声掛けをしてくれ』


 下関からの一報を得て全理事に非常招集をかけ緊急でZoomによるミーティングが行われることになった。


 今回の参加者は会長、副会長を除く理事六名『結城常務理事、轟常務理事、三田理事、桜田理事、仙崎理事、澤田理事』の参加となる。


結城:『夜分遅くに召集をかけてすまんな。事前に通達したように下関ダンジョンの消失が確認された。これに関して意見を聞きたい』


轟 :『ダンジョンの消失に関してのルールに当てはめれば、ダンジョンコアへのゴールドランカーによるギフトの使用が行われたという事だろうな』


澤田:『金沢の葛城一佐にも連絡を取りましたが国内唯一のゴールドランカーである君川一尉に関しては現在護衛任務にあたっており、博多に滞在中で所在も確認されています』


三田:『他の八名の所在はどうなっている?』


桜田:『結城から指示を受けて各国へ確認を取った結果だが、ランキング四位のザ・シーカーを除きそれぞれの母国へ居るという返答をもらっているが、虚偽の情報を与えられていたとしても確認の取りようがない』


仙崎:『アメリカの二人に関しては除外しても構わないだろうが、他の六人は可能性は消せないな』


澤田:『まだ予想の範囲内ですが、国軍に所属している人物が行ったと判断するのは、難しいと思われます』


結城:『それは何故だ』


澤田:『各国のゴールドランカーは中国の二名及び四位のザ・シーカーを除けば、全員ガリッサの攻略に参加しており、ダンジョン消失の事実と条件を認識しています。その上で行動を起こすとなると、国際的な紛争になる事も十分に理解出来ていると判断できるからです』


轟 :『そうなると、中国の二名とザ・シーカーに絞られるのか』


桜田:『私は先日から中国、天津の情報を中心に集めています。中国のトップチーム『蜀組』に関しては、正式な外交ルートでの入国を打診して来ています。スタンピードの対応を行うためにリミットブレイク取得の引率という名目ですが。この事から考えて、日本との関係悪化は避けたいはずですので、今回の可能性は薄いでしょう』


三田:『そうなってくるとザ・シーカーが怪しい? 彼の所在はわからないのですか?』


結城:『彼は元々がレジオンの所属であり、様々な国籍での身分証を所持しての行動にも慣れているはずです。日本に潜入していても不思議は無いでしょうね』


仙崎:『彼女はどうなのですか? 日本のミラクルガールは』


澤田:『消失させるには、ゴールドランカーである事が条件ですので今回は違うと言えるでしょう』


仙崎:『俺が疑っているのは、そのゴールドランカーが条件と言う部分だ。そもそも誰がそう言ったんだ?』


澤田:『あ、確かに柊心愛さんの鑑定により判明した事実となっています』


仙崎:『他の第三者の意見が聞けてない以上、百パーセントの信用をしろと言っても無理があるだろう。専任管理官による所在と事実関係の確認を急がせるべきだ』


澤田:『疑いたくはないが意見としてはもっともだ。早急に担当の大島に連絡を取り確認させよう』


◇◆◇◆


 杏さんから電話がかかってきて起こされた。


(んー……まだ朝の五時半だよー)


 杏さんが到着したのはその十分後で早朝の訪問に駐車場で待機していた君川さんも外に出てきた。


「心愛ちゃん。下関ダンジョンが消失したの、心当たりは無いよね?」

「えっ? マジですか?? 私は何も聞いてないし、わかんないです」


「そっか、良かった。良くないけど……」

「なんですか、その微妙な反応……」


 君川さんも会話に入ってくる。


「大島さん、それは本当ですか? 今、国内に私以外のゴールドランカーは滞在しないはずだが……」


 その言葉を聞き、ちょっと気まずくなっちゃったよ。


「心愛ちゃん? 何か知ってるのかい。顔に出てるよ」


 君川さん鋭すぎ……

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