第126話 四人とも来るんだ……
私と杏さんと冴羽さんの三人で金沢にテレポで移動すると金沢ダンジョン協会にある、作戦本部で葛城一佐と君川さん、美咲さん、樹里さん、美穂さんの五人と改めてミーティングになった。
「心愛ちゃん、今回の協力本当にありがとう。ダンジョン特務隊としても海外に対して格好がついた」
「無事にガリッサの攻略が出来てよかったです」
「心愛ちゃんは、天津の事に関しては何か情報を持ってるのかい? 中国政府からはこちら側からの質問に対して明確な返答が無いから状況がよくわからないんだ」
「あ、はい。諸葛さんから一応連絡は貰っています。天津の攻略は成功したけど流出した魔物の数が膨大なのと、北京が近いこともあって殲滅作戦が大変だと伺ってます。どちらにしてもリミットブレイクの所持者が不足するでしょうから、金沢に無制限のリミットブレイクを獲得するために部隊単位で来るんじゃないですか?」
「そうか……来る人数にもよるが、他国からも同じ要請は来ている。中国だけを優先するわけにもいかないから調整が大変そうだな」
そこで、冴羽社長が意見を口にした。
「当面、リミットブレイクのスキルオーブで対応してもらう方がいいでしょうね。中国のダンジョン協会から魔石を供出してもらえればとりあえずの対応はさせていただきます」
「それが現実的な案になるのかな……ただ、天津から北京までを考慮すると包括的な人口は四千万人を超えてくる。その人々に犠牲が出る事を見過ごすわけにはいかないから、起死回生の手段が欲しいところだな」
葛城一佐の思いを聞き私は案を出してみた。
「さっきですね、JDAの轟さん達に金沢を結界で覆って魔物を流出させないようにする案を出したんですけど、中国の場合だと北京への侵入を防ぐ意味で結界で囲むという手段なんかどうなんですか?」
「そんな事ができるのか、それは中国側からしてみれば喉から手が出るほどに欲しい情報だろうな。だが、中国政府が日本に対してなにも情報をくれない状況では、こっちから声をかけるのも
「そうだと思います」
「迅速な判断をしてほしいところだな」
そこまで大人しく話を聞いていた美里さんが話に入ってきた。
「葛城一佐、これからも毎月一か所はスタンピードを起こすのは間違いありません。どのような状況に陥っても対処できるように実力を身につける事も急務だと思います。私を博多で心愛ちゃんの護衛任務につかせてください」
「冬月二尉、自分だけ行こうとしてませんか? 私たちも勿論護衛任務に戻ります」
「状況的に金沢の殲滅作戦においては、現状の部隊で対応できているようだし、私も参加させていただきたいですね」
「君川さんまで言い出すんですか……」
「ああ、心愛ちゃんの存在は今回のガリッサで益々世界中から注目される事になったのは間違いない。ロジャーたちが本国に帰っている以上、抑止力という面で私も参加させてもらった方がいいだろう。女性だけだと不用意に軽く見られてしまうしね」
それぞれが意見を口に出した後で葛城一佐が判断を出した。
「当面は、その意見を了承しよう。君川一尉、冬月二尉、進藤准尉、相沢准尉の四名に柊心愛さんとそのパーティに対する護衛任務を発令する」
その言葉を聞くと四人が葛城一佐に対して敬礼をした。
「葛城一佐一つ質問してもいいですか?」
「なんだい冴羽社長」
「国内のダンジョンはどのようにして守る予定ですか? 日本国内はすべてのダンジョンがパブリックダンジョンで、外国勢力も軍での攻略でない限り制限をかけていません。厳密な管理をしなければ、例えばロシアのロマノフスキー大尉が下関や金沢のダンジョンのコアを破壊して、国外に持ち去る事態も考えられます。早急な対処を考えておいてください」
「ふむ、それは冴羽社長の言う通りだ。だが現状では私にもそこまで大きな決定権も存在していないのが実情なのだ。政府の対応策を早急に決めてもらうしかないな」
「政府ですか……的外れな意見を口にするような方が担当されなければよいのですが」
「藤堂首相の判断を信じるしかない」
ミーティングを終え、博多まで二往復のテレポで美里さん達も博多へと連れて帰った。
「あれ、君川さんは樹里さん達と一緒の家に住むんですか?」
「いや、まさかそんな訳にはいかないから、レンタカーで駐車場に待機させてもらうよ」
「大変ですね……」
◆◇◆◇
心愛とのミーティングを終えたその足で、東京へと向かった轟と澤田はJDAの本部で緊急理事会を招集した。
轟 :「お忙しいところを集まっていただきありがとうございます。本日は今後のダンジョン管理、スタンピードの防衛、政府との交渉等の重要項目において協会内での意思統一が重要であると思い、この理事会を招集させていただきました」
今回の参加者は森協会長、川口副会長、原副会長、結城常務理事、轟常務理事、三田理事、桜田理事、仙崎理事、澤田理事の九名である。
会議終了後には速やかに政府との意見調整に入るために、政府側に窓口の決定を促している状況だ。
森 :「まずは現状の再確認が必要だ。澤田君、説明を頼む」
澤田:「はい、今回世界中で三か所のスタンピードが起きました。この原因はダンジョン内の碑文によると、ダンジョン発生から六十回目の新月から発生し、以降、毎月起こるようです。対象となるダンジョンは最終層まで到達しダンジョンボスの攻略に失敗したダンジョンと世界中に七百存在するダンジョンのうち最も攻略の進んでいないダンジョンが対象となります」
仙崎:「各国の探索進行状況などは把握できているのでしょうか?」
結城:「それに関しては今まで各国のダンジョン協会が毎日発表していたのですが、スタンピードの条件が判明以降、日本とアメリカを除くすべての国が探索状況の発表を中止しています」
桜田:「もっとも探索の進んでいないダンジョンと言う条件ですが、今回はガリッサと言う五層までしか探索されていない場所がありましたが、もし複数のダンジョンが同じ階層までの探索で並んでいた場合はどうなるのでしょうか?」
轟 :「それに関しては予想の域を出ませんが、最低到達階層のダンジョンが複数あった場合、そのすべてが対象となりうると考えられます」
三田:「今回の件でも明らかですが、複数ダンジョンの同時スタンピードは大幅な被害の拡大につながります。WDAを通じて意志の統一を果たしスタンピードを発生させるべきダンジョンのコントロールまでさせるべきではないでしょうか?」
川口:「具体的な案はあるのかね? 三田君」
三田:「今回ガリッサで行われたWDA主導による各国の協力による鎮圧。これの対象となるためには、攻略進行階層を毎日発表する事を義務付けるなどの決定が必要になるかと」
原 :「すべてのダンジョン協会が受け入れてくれるのだろうか?」
結城:「恐らく、今回の中国の様に自力で乗り切った例も存在しますので、すべての足並みはそろわないかと」
原 :「その場合、WDAの支援が受けられないとなって、魔物が拡散すれば日本のような島国でもない限りは、他国からの魔物の侵入も当然起こってくるのだろうな」
結城:「魔物の中には飛行能力を有する物もいます。島国であっても安心はできません」
原 :「世界の足並みをそろえる事は必須か」
澤田:「次の問題点ですが、ダンジョンの消失が確認されました。これはゴールドランカーのギフトによるダンジョンコアの破壊が条件であることも判明しております。
更にダンジョンコアを破壊した者がダンジョンマスターとなり、任意の場所へ消失したダンジョンを再設置することが出来ます。この事実がもたらす事として、ダンジョンを丸ごと盗難する事が可能だという事です。今後ダンジョン資源を当てにした開発をもくろむ各国にとっては大問題となります。この問題に対しての防止策をお考え下さい」
森 :「ゴールドランカーの九名に関してはWDAによる行動の制限を設ける必要があるな」
川口:「それはゴールドランカーを抱える各国が受け入れるとも思えませんね」
仙崎:「しかし考え方を変えれば、ダンジョンを攻略してしまえば一か所に集中して設置する事も可能という事ですね。それが実現すればダンジョン資源の獲得に関しては非常に効率が良くなる」
轟 :「各国という枠組みがある以上は対応が難しい。WDAであっても現状で考えればアメリカ主導の体制に持ち込むのではないかと懸念されます」
森 :「この問題に関してはJDAで判断するべきではないな。国の方針に委ねましょう」
澤田:「もう一点の確認事項です。金沢周辺を広域結界で包み込み魔物の流出を防ぐ手段が発見されました。これを今から政府との折衝で提案してきていただきたいと思います」
森 :「そんなことが出来るのかね、その手段はどうなっている?」
澤田:「手段は博多支部所属のS級探索者『柊心愛』の能力によるものです。私も詳細は把握できていませんが、彼女の今までの実績からして問題は無いと考えます」
森 :「わかった、至急首相官邸へ向かう。同行は結城君、轟君、澤田君の三名で頼む」
「「「了解しました」」」
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