第86話 護衛の二人忘れられてたんだって……

  

 翌朝、杏さんが早く来たので一緒に朝ごはんを食べることにした。

 昨日浸けておいた浅漬けも丁度食べごろだ。


(そう言えばまだ取得する物を決めてない状態でこのお料理を私以外の人が食べたらスキルって選べちゃったりするのかな?)


 そう思った私は杏さんと二人きりだからお願いしてみた。


「ちょっと実験に付き合ってもらえますか?」

「実験? いいわよ、何をしたらいいのかな」


「この浅漬けを食べてもらえればいいです。どんな声が聞こえたか教えてください」

「了解」


 杏さんが浅漬けをほうばると無事に声が聞こえたようだ。


「心愛ちゃん。スキルが選べちゃうみたいだよ?」

「やっぱりか……どんなスキルが出てますか?」


「【ダンジョン通信】と【重力魔法】の二つね」

「選ばないままにしておいてください、私も食べてみます」


 今回は新しいスキルは出なかった。


 私が、浅漬けを口にすると同じように二つのスキルが現れた。

 【ダンジョン通信】を選択した。


「あら? 【重力魔法】が消えちゃって【ダンジョン通信】だけ残ったわ」

「今、私が【ダンジョン通信】を選んじゃったからですね。杏さんもそのまま取得してください」


「了解、これって何ができるの?」

「【鑑定】をかければわかりますよ」


「凄いじゃない、ダンジョン内で通信機器が使えるようになるのね。しかもスキル所持者がダンジョンコアに触ると、そのダンジョン自体が誰でも通話できるようになるって書いてあるよ」

「本当だ、アップデートされたって事か」


「アップデート?」

「元々はダンジョンコアに触るとって言う項目は無かったんです」


「そうだったんだね。でもこれはみんなが使える便利機能だし是非活用したいわね。それこそダンジョンから攻略のライブ配信なんか出来るんじゃないの?」

「確かに出来そうですけど、下関以外だとまだ全員は使えるように出来ないですね。私だけがやったら大騒ぎになりそうで怖いなぁ」


「そうだね……」


 食事を終えてコーヒーを淹れていると美咲さんが顔を出してきた。


「美咲さんおはようございます。昨日はスキルオーブの件で遅くまで大変だったみたいですね」

「そうだね、心愛ちゃん昨日ごめんなさいね、他の二人の子紹介するって言ってたのに、スキルオーブ騒ぎの連絡とかしてたら、すっかり忘れてたよ。本人達に『まだですか?』って連絡貰って思い出した時には、もう十一時だったから、今日にして貰ったよ。二軒隣の家に来てるから今から連れて来るね」

「美咲さん、お早うございます。そんなの全然構わないですよ、まだ六時半ですけど、今から来られたら二人共びっくりするんじゃないですか?」


「私達は基本六時には起床の生活だから大丈夫だよ。ちょっと待っててね」

「はい、コーヒー淹れて待ってますね」


 それから十分もせずに二人の女性隊員を連れて、美咲さんが戻って来た。

 二人共まだ二十歳前後かな? 随分若く感じる。


「初めまして自衛隊ダンジョン特務隊の予備隊に所属する相川です」

「同じく進藤です」


「初めまして、柊です。心愛って呼んでくださいね」


「心愛ちゃん、二人共今年が三年目の二十一歳だよ、心愛ちゃんに比べたら若く無いけど、出来るだけ年が近い方が話しやすいと思って、人選したよ。仲良くしてね」

「はい、美咲さん。相川さんと進藤さんも下の名前でお呼びしていいですか?」


「勿論いいですよ、相川美穂と進藤樹里よ、よろしくお願いします」

「美穂さんと樹里さんですね、よろしくお願いします」


「二尉にね、存在を忘れられないように頑張るね」

「ごめんってば」


「お二人も、希望して特務隊に入られたんですか?」

「そうですね、高卒の女性自衛官で二尉の様に、若いうちに士官に成れる道筋って少ないので志願させていただきました」


「あ、あの、基本ここでは敬語禁止でお願いしていいですか? 年上の人に敬語で話されると私が落ち着かないので、皆さんにお願いしてますから」

「うん、判ったわ。よろしくね心愛ちゃん」


「特務隊だと、志願して士官に成れるのは条件ってあるんですか?」

「そうですね、カラーズに成れば准尉になれます」


「目標が判りやすく見えてていいですね」

「でしょ? 心愛ちゃんも特務隊お薦めだよ?」


「私は、団体生活なんてとても無理ですー」

「そう言えば、心愛ちゃんはランキングはどの辺りなの?」


「昨日、イエローになりました」

「わ、凄いね。特務隊に来たらいきなり私達の上司だね」


「だから、なりませんって」

「勿体ないね」


「そう言えば心愛ちゃん、少しお願いしちゃってもいいかな?」

「美咲さんどうしましたか?」


「この二人も、ちょっと鍛えてあげて欲しいの」

「そうですね、あまり深くない階層とかだったら、構わないですよ。ボス戦とかだと守るのが一番大変だから、その辺りは成長次第って事でいいですか?」


「わ、嬉しいわ、お願いね心愛ちゃん」

「でも、美穂と樹里はあくまでも、心愛ちゃんの護衛が任務なんだから、守って貰ってたんじゃ本末転倒だからね?」


「了解です」

「大丈夫ですよ、ダンジョンの中と外で担当が交代って事で」


「でも、よろしくお願いするわね。下関が終ったら私も基本は特務隊一班に戻って金沢を攻略準備に入るから」

「はい、ロジャー達も行くならやっと少し静かになりますね」


「一応ね、昨日心配していたロシアと中国が姿を現してくれた事で、逆に一番の心配事項が解決されたと思うんだよね、恐らくだけど金沢が終ればロジャー達もアメリカ国内の攻略に戻ると思うわよ」

「そうなんですね、私も金沢や他のダンジョンにも興味ありますから、情報は欲しいですし何だか少し楽しみです」


「そう言えば、美咲さんに聞きたい事が有ったんですけど、ロジャーより上の現在一位の人って誰なんですか?」

「それは、ロシアの『皇帝ロマノフスキー』て呼ばれている人だね。ランキングシステムが一般的になって一度も順位が変わった事が無いそうだよ。顔写真なんかも表に出た事が無いんだけどね。どれくらいロジャーと差があるのかも判らないからね。現在三位で元レジオンの『The Seeker』と共に謎の多い人だね」


「シーカーさんはアジア系の人なんですよね?」

「それも、噂だけだから会ってみないと解らないよ」


「恐らくですけど、美咲さん達が四人でドラゴンゾンビ倒したらグレッグは三位になると思いますよ、結構経験値大きいですから、美咲さんもきっと順位上がるかもですね」

「そうなの? それは楽しみね。最近ずっと順位に変動が無かったから」


 ◇◆◇◆ 


 九時前になると食堂の扉が開けられ冴羽さんがやって来た。

 美咲さんやロジャー達は内密な話なので席を外してくれと頼んでるので今はいない。


「いらっしゃい冴羽さん。コーヒーでいいですか?」

「ああ、お願いします」


「駄目だよ、いきなり丁寧語! この後普通に話したかったら、もっと砕けた感じでお願いしますね?」

「ああ解ったよ、心愛ちゃんよろしく」


「それでいいです」

「協会きっての切れ者と言われた、冴羽さんが心愛ちゃんには形無しの様ね」


「大島、お前も本当の性格は澤田にそっくりの様だな。突っ込み方も同じだ」

「兄弟ですからね。でもあまり似て欲しくは無いんですけど」


「杏さん? 澤田さんが杏さんに似てるんじゃなくて、杏さんが澤田さんに似てるんだと思うよ?」

「えぇ、そうなの?」


 そんな感じで、冴羽さんとの話は始まった。

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