第85話 浅漬けとおでんとオーブのタイムアウト
下関のダンジョン協会のフロアは大混雑をしていた。
「先輩、昨日までと全然違いますよね」
「そうだね、いつまで続くのかな?」
「心愛ちゃんお疲れ様、私も今日はさっきまでずっと鑑定のお手伝いしてたから疲れちゃったよ」
私と希がフロアに姿を現すと、杏さんが近寄って来た。
ちなみにロジャー達や『チームシルバー』には協会の一階フロアでは声を掛けたりしないようにお願いしてあるよ!
「ちょっと早めに終わったし、帰ってお料理したいからマンションから戻りましょう」
「了解、じゃぁ私も一緒に戻るわね。支部長に挨拶だけして来るからちょっとだけ待っててね」
三人で先に戻って時間を確認するとまだ五時前だった。
「美咲さんが取得したスキルオーブを譲って貰ったんだよ。タイムアウトした時にどうなるのかが興味あったから」
「それ凄いHOTな情報になるね、兄貴に報告してリークスに掲載させてもいいかな? みんな欲しい情報だし」
「別に構いませんよ、後十分くらいです」
「どうなるんだろうね?」
「私は消えるか、ただの魔石になるんじゃないかと思うんですけど……」
「そうなると受け渡しとかが凄く難しくなるかもね」
「杏さんは問題無いじゃん」
「でもそんな情報表に出せないし」
「ですね……」
三人で時間がゼロになる瞬間を見守った。
杏さんはスマホでオーブを撮影している。
そしてタイマーがゼロになった時に変化は起こった。
「キャッ」杏さんが悲鳴を上げた。
そこには、黒い霧に包まれた後にモンスターが現れていた。
これってちょっと一大事だよ。
もしダンジョンの外にこうやって魔物が出てしまうと、パニックになるかも。
「先輩倒しちゃっていいですか?」
「うん、任せるね」
現れたゴブリンを速攻で倒して黒い霧に戻した後に、慌ただしく杏さんが澤田課長に連絡を入れた。
『何だって、そいつは一大事じゃないか、すぐに世界中に連絡をして、テレビなどのマスメディアでも注意喚起を促す』
その情報は、その日のうちに世界中を駆け巡った。
幸い現在までに現れていたスキルオーブは全て使用されていた様で、魔物の被害は報告されていなかったが、各ダンジョンを管理する協会では、オーブのダンジョン外の持ち出しに関しては、厳重に制限を掛ける事が即日決定され、世界中に通達をされることになった。
でも、日本みたいに法治が徹底できている国って少ないから、無視して持ち出して惨劇が起こる国は出てくるだろうな……
一通りの連絡を終えて漸く落ち着きを見せた。
「私はちょっとお料理したいから、キッチンにこもりますね」
「先輩、私は帰りますぅ。明日は午前中はお休みですよね? 日向ちゃんと遊びに行こうかな」
「あ、希、明日は午後も特務隊の人達と検証の続きやるだけだから、丸々お休みにしようよ。私も狩りはしないし、それと日向ちゃんなら今から料理動画の撮影で呼ぶよ」
「あー、そうですね。じゃぁ私も待ってます」
「私はさっきの件で、ちょっと課長のお手伝いに行くわね」
「はーい、頑張ってください」
「心愛ちゃん、明日は早めに来るね」
「杏さんはいつも早いじゃん。それより早いって、まだ暗いよ? きっと」
「それもそうだね、いつも通りでいいか。でも冴羽さん何を話したいのかな?」
「気になりますよね」
杏さんを送り出し、日向ちゃんに連絡して待っているといつも通りに十分ほどで到着した。
早速、撮影の準備を整え料理を始める。
今日作るのは予定通りに、おでんと浅漬けだよ。
おでんで一番大事なのは、下ごしらえなんだよ。
凄く手間はかかるけど、その一手間が美味しさを引き上げてくれるからね!
まずは魔鶏卵の茹で卵を作っておいて、その間にダンジョン大根を準備する。
厚さは三センチメートル程の輪切りにして、面取りって言って角になる部分を丁寧にピーラーで削っておくの。
煮崩れ防止には大事なんだからね。
お水から下茹でを始めて、米ぬかを一つかみ入れる。
これで、えぐみが無い大根の美味しさだけを感じれるんだよ。
一煮立ちしたら弱火にして、竹串がすっと刺さるくらいまで、ゆっくりと煮るの。
ダンジョントマトは、浅く切り込みを入れて、ヘタの部分もくり抜いて、熱湯をくぐらしてから、氷水に浸ける。
これで表面の薄皮を綺麗に向けるんだよ。
後は、今日はこんにゃくと、ちくわと、巾着と、厚揚げにしようかな。
こんにゃくは、ちょっと深めに切り込みを入れて、味が浸み込みやすいようにする。
巾着と厚揚げは、ざるに並べて上から熱湯を掛けて油抜きをするの。
これで下ごしらえは終了だよ。
次はお出しを準備する。
今日は『デリシャスポーション』もたっぷり使うね。
お玉で十六杯を量って、薄口醤油を二杯、お酒を二杯、味醂は一杯半で一煮立ちさせたら、一度火を止めて下ごしらえした材料を、ゆっくり丁寧に入れていく、後は煮立たせないようにじっくりと味を浸み込ませるだけだよ。
この時はガスよりも、今の時代はIHコンロがお勧めだよ、何よりも火加減の調節がしやすいのと光熱費が安いからね!
浅漬けは今日漬け込んでも食べれるのは明日の朝になっちゃうから、おでんを煮込んでる間に準備する。
キュウリは上部の皮が固い部分を薄く包丁で剥き、あら塩で表面をしっかりとこすり熱湯をくぐらせて氷水に入れる。
『色だし』と言う手法で、これをするとキュウリの色が鮮やかな緑色になる。
色出しをしたキュウリを蛇腹に切り込みを入れ塩水に漬け込む。
柔らかくなったら取り出して水分を絞っておく。
お茄子は味がしみこみにくいのでヘタを取ってフォークで全体を刺しておく。
軽くお塩を振って少し寝かすと茄子から水分が出てくるのでそれを軽く絞る。
浅漬けの素は勿論手作りだよ。
『デリシャスポーション』を500cc量り、お酢を大さじ二杯、白醤油を大さじ二杯、お砂糖を大さじ一杯、鷹の爪の輪切りを少々。
これだけで十分だよ。
一度煮立たせて、粗熱を取り冷蔵庫で冷ましておく。
十分に冷めた浅漬けの素にキュウリとお茄子を漬け込み後は明日まで冷蔵庫で保存するだけだよ。
おでんが煮えるまでの時間を日向ちゃんの持ってきた新作動画を見ながら過ごした。
今回の動画はお茄子の揚げびたしと、マーボナスの回、それとダチョウ南蛮蕎麦の回の二本だ。
お茄子はダンジョンショップで購入したから、動画でもその様子が映し出されている。
ダンジョンショップで食材購入をするのは一般の人では中々行かないと思うから、それなりに盛り上がるかな?
『ダンジョンオーストリッチ』は希と二人で結構乱獲したから、その様子が動画にも挿入してあるよ。
「先輩、さっき先輩がお料理してた間に日向ちゃんと話してたんですけど料理がメインで探索は素材採集の様子を出す感じになるんですか?」
「うん、今の私たちの狩りだとまだ一般的に流すには都合の悪い動画の方が多いからね。この先を考えたら出せる時期も来ると思うから、撮影は今まで通りにしておこうね」
「はい、了解です」
「でも心愛先輩、私って動画の編集させてもらってるお陰で結構な秘密をたくさん知っちゃってますけど、いいんですか?」
「何を今さらだよ。もう日向ちゃんも私たちのチームの一員だからこれからもよろしくね」
「はい! 頑張ります」
「あ、先輩。日向ちゃんもD-CANで雇うってどうでしょう? ダンチューブ部門みたいな感じで」
「そうだね、それもありだね。それなら日向ちゃんにもちゃんと生活できるだけのお給料渡せるし、家を出ても大丈夫だね」
「心愛先輩、本当にいいんですか? 私、義父の件とか今までずっと我慢してて、お母さんにもちゃんと話せてなかったから……」
「そうなんだ……お母さんがなんて言うかはわからないけど、実の親ならそんなに酷い話にはならないと信じたいね」
「でも……お母さんはこの間のダンジョンの事故でも結局義父のいいなりの部分があったし、ちょっと心配です」
「うーん……あんまり話がかみ合わないようなら、熊谷先生に話をしてもらうのもありかも知れないね」
話をしているうちにおでんもいい感じに出来上がったので早速実食!
「うん、美味しい。幸せだなぁ」
「トマトがたっぷりお出し吸い込んでてトマトのおでんがこんなに美味しいなんて初めて知りました」
「先輩、これって私のは日向ちゃんと同じのですか? 私は魔鶏卵のゆで卵が超好きだったですぅ。お大根もこんなに美味しいのは初めて食べましたぁ」
「そうだよ、気に入ってくれたなら良かった」
希と日向ちゃんが帰って行ったあとで、いつものスキル取得を行う。
『セレクトスキルの選択権を取得しました』
ちょっと久しぶりな気がするよね。
【ダンジョン通信】
【スキル細分化】
【重力魔法】
あれ? 二つ増えてるけど何か条件があったのかな?
【スキル細分化】ってなんだろう? 【鑑定】してみよう。
【スキル細分化】
オーブ作成時に、作成する能力をさらに細分化する事が出来る補助スキル。
あ、結構便利かも。
鑑定なら人物だけとか、宝箱だけとか選べるんだよね?
魔法は最初から、選べたけど、魔法以外のは纏めたのしか出来なかったしね。
取っておこうかな?
よし、取得。
今日の心愛のランキングは!
柊 心愛 17歳(女) レベル49 ランキング 953,284位 ランクイエロー
あ、凄いイエローだ。
そっか今日もボス倒したんだったね。
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