第87話 冴羽さん、採用してみたよ!

「早速だけど要件を話すな」

「はい、なんでしょうか?」


「俺を雇ってくれないか?」


「は?」


「冴羽さん? 雇ってくれとか言うなら協会の理事の方が、よっぽど好待遇で社会的地位も高いんじゃないですか?」

「大島、大きな組織の中では決定に時間が掛かって、タイムリーな判断を逃す事も多い。それにな今後訪れるタイムリーな判断を要する案件は、ほぼ心愛ちゃんから出てくると俺は思ってる」


「それで冴羽さんは、何をするつもりなの?」

「俺の仕事は柊心愛のプロデュースだ。心愛ちゃんしか出来ないダンジョン攻略の根幹に繋がる様なアイテムの各国への提供や、場合によっては攻略自体の請負もあるだろう。そんな難題を心愛ちゃんと大島の判断でやっていけると思うか?」


「それは確かに大変ですけど」

「面倒事は全て俺に任せろ。俺の元に全ての要望が集まるようにしておけば、俺が優先順位などは付けて提案する。それをやりたいかやりたくないかは心愛ちゃんが判断すればいい。断るのが一番難しい仕事だが、それも俺に丸投げで構わない。どうだ? 悪くない条件だと思わないか?」


「冴羽さん……私目立ちたくないんですけど?」

「それも任せろ、表舞台には俺が立つ。協会職員の大島には協力して貰うがな」


「んー、杏さんどう思いますか?」

「そうだね、私は悪い話じゃないと思うよ、いっそのこと表面上D-CANの社長でもやってもらったらどう?」


「あ、それいいですね。私は平社員が良いですから。解りました冴羽さん私達の会社の社長やってくれるならOKです。お給料は安くないようにしますから、それでいいですか?」

「いや、まぁ、いいんだけど、いきなり社長やれって、どうなんだ?」


「ん? 私達を騙そうとか考えてるんですか?」

「それは断じてない」


「じゃぁ一番能力の高い人が社長で問題無いですから決定ですね。杏さん熊谷さんに社長交代の手続きとか、お願いしちゃっていいですか?」

「解ったわ」


「やる事とか別に何も決めて無いですから好きに進めて下さい。出来るだけ社員として社長の考えに沿って頑張るんで」

「本当にそんなのでいいのか?」


「私が信じるって決めたから、いいんです。じゃぁ冴羽社長よろしくお願いしますね」

「解った、業務的な内容は大島と相談しつつ決めていく。一つだけいいか?」


「なんですか?」 

「大島はどの程度、心愛ちゃんの秘密を知っている?」


「心愛ちゃんの性癖ですか? 私の汗の匂いの嗅ぐのが好きとかくらいしか解らないわ」

「ちょ、杏さんそんなのばらさないで下さいよ。それにきっと性癖とか聞いてないですから」


「冗談はさておき、私はほぼ全てを知っていると思ってます。別に心愛ちゃんは私に教えて無くても、知っている事を前提にした会話が多いので、それから予測がつく範囲で十分に理解していると思いますよ」


「心愛ちゃん、それは俺にも話せるか? 俺から他に話が漏れることは無いと約束するがどうだ?」

「うーん、社長頼んじゃったからしょうがないかな? くれぐれも他に漏れ聞こえない様にお願いしますね」


 それから、私の現状取得しているスキルを教えると、目ん玉飛び出るんじゃないかっていうくらいびっくりしてたよ。

 でも「これだけの事が出来るのなら完璧に対応できる。後は任せろ」

 と力強く言ってくれた。


 色々、思う所はあったけど、私自身がきっと秘密を一人で抱えている事に、負担を感じていたんだと思う。

 それを私の周りに存在する信用できると私が思った人に対して話す事で自分の心の負担を軽くできるような気がしたの。


 この選択が果たして正しかったのか、間違っているのかは現時点では解らないけど……

 でも、私にしか出来ない事が多いのも理解してるつもりだし、それを高校生の私が表立って言っても、信用されないか自分達の利益の為に利用しようとするか、の扱いを受けるだろう。


 それなら冴羽さんと杏さんを信じてみるのも一つの手だと思ったんだ。


 私、大丈夫だよね?


「心愛ちゃん。情報は一度にに出すとありがたみが薄れる物だ。緊急の事態が起きない限りは、焦らずに少しずつ小出しに取り組むから安心していいよ」

「解りました! 嘘です……余り解って無いと思います。でも後二年間はちゃんと高校生もやって行きたいので、それと両立できる範囲でお願いしますね」


「了解だ。それとD-CANとしての事業目標と言うか、こういう活動に力を入れるんだ! って言う指標は必要だと思う。何か考えてみてくれ、俺の方でも何個か用意しておくから、その中からみんなで選ぶでいいかな?」


「そうですね、そういう大きな目標はあった方が良いと思います。会社なんですけど……ここでいいんですか?」

「ああ、そうだね、その部分はここだと心愛ちゃんを目立たなくって言う事が出来ないから、博多ダンジョンの隣接した場所に事務所を借りたほうが良いと思う」


「ですよね、少し安心しました」

「それじゃぁ当面は会社関係の活動費として一千万円ほど渡しておきますので、足りなくなったら言って下さい」


「あ、心愛ちゃん。俺の協会での最後の仕事で、東京の理事連中から今回の下関討伐や、パーティ作成の公表の件に対しての報奨金はたっぷり支給して貰う事になってるからな、五千五百万USドルだ」


「……それっていくらですか?」


「心愛ちゃん、現実逃避したでしょ? 八十億円くらいだよ」

「杏さん、毎日回らないお寿司で一生分で足りますか?」


「きっと大丈夫だと思うよ」

「凄いですねぇ」


「心愛ちゃん目が遠く見てるけど大丈夫?」

「あ、はい、きっと大丈夫です。そろそろ下関行かなくちゃですね」


「じゃぁ俺は早速色々動き出すから、心愛ちゃん大島よろしく頼むな」

「よろしくです冴羽さん」


「私も下関に一緒に行って少し買取カウンターの手伝いするわね」

「心愛ちゃん、さっき聞いた【ダンジョン通信】は心愛ちゃんが今日下関のボス部屋でダンジョンのコアクリスタルに触れたら有効になるのかい?」


「多分、大丈夫だと思います」

「早速やっておいてもらっていいかな? このスキルはダンジョンに入るすべての人に恩恵がある、隠すべきスキルでは無いと思う」


「わかりました。今日中に触っておきます」


 ロジャーや美咲さん達に用事が終った事を伝え、みんなで下関に向かった。

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