第61話 おばあちゃん
朝一番の電車で佐賀の唐津へと向かった。
おばあちゃんの家はイカの活き造りで有名な『
箱崎宮前の駅から地下鉄で
ちょっと早く出すぎちゃったかな? 五時半の電車に乗って出かけたら八時前には着いてしまった。
帰りはテレポで戻れるから良いんだけどね。
お母さんに電話すると今お婆ちゃんの家から車で向かってる所という事だったので病院のそばの喫茶店で過ごす事にした。
おばあちゃんは七十二歳なんだけど、入院する直前までは自分で車を運転して福岡市内とかも普通に来てたし行動派なんだよね。
ただ車の中が、すっごくタバコ臭いのだけが私はちょっと苦手だった。
お父さんが根っからの料理人で、たばこ嫌いだったから、お父さんの居る間はあまり来なかったんだけどね。
でも、本当に明るくて豪快なお婆ちゃんで、私は大好きなんだよ。
お母さんから病院に付いたと電話があったので、玄関で待ち合わせて一緒に病室に向かった。
女性にしては体格の良かったおばあちゃんだけど随分小さくなったように感じた。
私の顔を見て「心愛来てくれたのかい、ありがとう」と言われて、胸が熱くなった。
私はおばあちゃんに「今から一つだけ私の言う事を聞いて」と言った。
「タバコを止めろ以外なら、何でも聞くばい」と言ってくれたので「約束だからね」と言ってポーションを取り出した。
「これを飲んで」
「心愛、ありがたいばってんが私の病気は末期のガンやけん、ダンジョン産のお薬でも五千万円もする様なお薬じゃないと効かないらしいんだよ、心愛の持ってきてくれたのが、どれだけ高いお薬だったか婆ちゃんには解らんばってんがくさ、勿体ないからなおしときぃ」
「ばあちゃん約束したでしょ、心愛に嘘つくの?」
「判ったたい、飲むよ、飲めばよかとやろ」
お母さんは、なんとなく気付いたようだった。
「心愛それ、そうなのかい?」と聞かれたから「うん」とだけ言った。
おばあちゃんは目を瞑って、一気に飲み干した。
「どう? おばあちゃん」
「心愛……このお薬まさか……」
「そうだよ『キュアⅥ』それで治らない病気は今の所確認されて無いお薬だよ」
「何でこんな高いお薬をばあちゃんなんかに……」
「おばあちゃんが助かるなら、値段なんか関係無いからだよ。世界で一人だけの私の大好きなおばあちゃんだから」
「これを手に入れるのに無茶な事とかしてないだろうね? 高校生の女の子が手に入れれるような値段じゃ無いだろう」
「私は超強いから自分で取ってこれるから大丈夫なの」
お母さんは目を真っ赤にして泣いていた。
おばあちゃんは薬が効いて来るにしたがってドンドン元気になってヒートアップして来た。
「ああ、もうせからしか、体が軽ぅなったけんタバコ吸いに行くばい」
「おばあちゃん、ここ病院だからタバコ吸えるとこなんか無いからね」
「翔子、タバコも吸えんとこに、いつまで閉じ込めるつもりね。さっさと退院手続きして車の中で吸うばい」
「車のトランクに3カートンくらい入れとったのは、出してなかろうね?」
騒がしいから、お母さんも急いで退院手続きに動き始めた。
「お母さんすぐ退院手続きしてくるから、ばあちゃん頼んだよ」
と言って、ナースステーションに急ぎ足で向かった。
看護師さん達もキュアⅥでの治療は初めて聞いたようで、担当の看護師さんが先生を呼びに行ってたけど、おばあちゃんが『タバコタバコ』と騒ぐから、取り敢えず病院から一番近いコンビニを聞いて、おばあちゃんを連れて行き、タバコを吸って落ち着いてから病院に戻って来た。
「やっぱりセブンスターばい、軽いタバコ吸うくらいなら止めればいいとにね、最近の子は訳解らんばい」と、おばあちゃんなりのタバコ論を語ってたけど……
私に言われても意味解んないし!
でもばあちゃんは出身が小倉だから、北九州弁と博多弁が混ざって良く解らない言葉使うんだよね。
何となく判るからまぁいっか。
病院に戻って主治医の先生に問診を受けて、今日は日曜日で放射線科の先生が休みだから、明日必ずもう一度検査に来ることを約束させられて退院した。
先生からも「我々でも手に入れる事はほぼ不可能な『キュアⅥ』よく手に入れられましたね。もし特別な入手方法が存在するなら、値段は少々高くても構いませんので紹介してください」と言われたけど、まぁおばあちゃんがお世話になったし今度また出たら、この病院に売ってもいいけどね。
「お母さんは、おばあちゃんの検査が全部終わるまでは、こっちに残るけど心愛はどうするの?」
「私は、忙しいから帰るよ、おばあちゃんの事よろしくねお母さん」
「おばあちゃん、心愛はこれで帰るね。タバコ止めろとは言わないけど、病院の敷地とか他の人の迷惑になるとこでは駄目だからね?」と、念を押した。
「心愛もすっかり小姑みたいになったねぇ、でも心愛、ありがとう」
最後の言葉だけ妙に小声だった。
照れてるのかな?
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