第55話 葛城一佐と冴羽課長

「横浜攻略中の、第一から第四班総勢四十八名は、総員横浜ダンジョンから一時撤収。夜明けを待ちCH-47チヌークへ搭乗後、金沢へ作戦行動を行う。以上だ」


「了解」


「金沢も緊急で伝令を送る様に、非常に危険な状況だ、猶予は許さない」


「了解」


 矢継ぎ早にまず、横浜と金沢への指示を出し、後方支援要因として札幌、大阪へ展開する部隊も招集をかけた。


 国内で展開する『ダンジョン特務隊』二十班二百四十名が一堂に会するのは発足以来初めての事だ。

 それ程に今日の情報は大きい。


 先日の『ダンジョンリフト』に続き再び博多からの発信か……一体博多で何が起こったのだ。

 これまでの五年間で明かされなかった謎が、こうも立て続けにリークされるなど偶然とは思えない。


 ◇◆◇◆ 


 一方、澤田の要請を受けた冴羽は緊急連絡網で各理事の秘書に連絡を取った。

 一斉にグループ通信網で発信しライブチャット会議への参加を待つ。


 黒田常務理事の秘書は俺の後任として、短大卒勤務二年の本部で受け付け業務をしていた二十二歳の女性が着任していた。


「あの糞豚は一体何考えてやがるんだ。理事の秘書は実質実務面での最高意思決定機関の事前会議を行う部次長格で会長秘書は部長待遇だ。それを22歳の女だと? ふざけやがって」


 実際ダンジョン協会は日本国内では、本部の次長待遇だと各支部では副支部長、部長は支部長の職に相当する。


 ◇◆◇◆ 


【『スキルオーブ』の発見による緊急事案に関するプレミーティング】


参加メンバーは

 司会進行、博多支部所属『冴羽』


 三潴協会長の秘書 『結城』

 麻生副会長の秘書 『轟』

 森専務理事の秘書 『三田』

 川口常務理事の秘書『仙崎』

 原常務理事の秘書 『桜田』

 黒田常務理事の秘書『山口』


冴羽:『それでは、定刻を迎えたので、ビデオ会議を始める。今日は緊急案件の発信元である博多支部所属、冴羽が進行役を務めさせていただく』


結城:『黒田常務理事の新しい秘書がまだ参加してないが構わないのか?』


冴羽:『俺は『引継ぎする程の仕事も無かろう』と言われたから顔も知らんし構わんが』


轟:『一応チャット内での応答は総て記録が残った形の提出になるので、必要な話題に集中するように』


三田:『概要によると既に自衛隊には通告してあるらしいな? 誰の判断だ』


冴羽:『博多支部、澤田課長と俺で判断した。既に金沢で最終階層に突入していた事実があったので事は急を要すると判断した』


結城:『山口秘書からメールが入った。勤務時間外しかも深夜のビデオ会議とか非常識な要請は止めて下さい、パワーハラスメントで提訴します。だそうだ』


仙崎:『黒田常務理事は任命する時に何も説明していないのか? 理事の秘書の職務を』


冴羽:『俺の時は『職務として安くもない給料を与えているんだから、やる事は自分で考えて給料分以上は働け』と、言われただけだった』


桜田:『必要な議題に集中しよう』


三田:『自衛隊には通達した以上この場ではそれ以外の件を詰めよう』


結城:『概要の説明に有った鑑定スキルのオーブの扱いだな。それは何が行えるんだ?』


冴羽:『人物、ダンジョン、宝箱の罠の有無が確認できていて、今まで噂でしか確認されていなかった人物のステータス、ダンジョンのステータスが確認された』


仙崎:『それが事実とすると『ダンジョンリフト』以上のインパクトだな』


轟:『澤田課長はそのスキルオーブをどうやって手に入れたんだ』


冴羽:『探索者のドロップ品だそうだ。当初使い捨ての鑑定ルーペと判断され、買取は協会の鑑定料相当の半額一個500円で買い取ったそうだ』


結城:『国内のダンジョンは総て鑑定済みであれば、現状人物鑑定を行っても、三十個程度の在庫ではほぼ無意味だな。海外へダンジョン鑑定用に売りに出せば、一個三百万USドル程度の価格で売れるだろうな』


三田:『その場合、提供者へ追加報酬の形で支払いを行うのか?』


冴羽:『澤田が本人へ確認を取った所、一度売ってしまった物ですから、そちらの判断でご自由にと言われたそうだ』


轟:『余りの高額さに後で問題を蒸し返す事態も起こりうる。提供者への追加報酬を今後一切問題にしないと言う念書と引き換えに渡すべきだな』


結城:『オーブの所在は現時点でどうなっている?』


冴羽:『三十個の在庫を博多支部で保管している』


結城:『明日の朝一番で、オーブを持って協会本部へ出頭してくれ』


冴羽:『了解した。扱う額が高額になりすぎるので、本日の事前会議はこのチャットログと共に理事会へそのまま提出という事で終了したいと思う』


 ◇◆◇◆ 


 さて、俺はどう動くべきだ。

 澤田の言葉を鵜呑みにする程、人間が素直には出来ていないからな。


 恐らく先日会った女子高校生『柊心愛』が関係していると思うが、俺が詮索に動くと協力を得られなくなる可能性も高いな。


 そうなると専任担当『大島杏』の懐柔が現実的な動きになるか。

 今回もダンジョンの鑑定に澤田の指示で動いたのが大島という事になっていたが、Sランクの専任担当を出張に出すのは不自然だ。


 俺好みのいい女だし慎重に取り込むかな。

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