第54話 澤田課長

 杏さんは、まだ近所のコンビニに居て三分もしないで戻って来た。


「課長にはアポを取ってるわ、やっぱり内密な話の時はカラオケボックスの方が目立たないと思うから西新のカラオケボックスで待ち合わせてるよ、課長はまだ協会支部に居たみたいだから、すぐでもOKだってさ」

「じゃぁ転移で西新のマンションに移動しますね」


 そう声を掛けて西新のマンションに移動をした。


「凄い、本当に一瞬なんだね」

「やっと慣れてきましたけど、特定の場所以外への転移は怖いですよ」


「そうなんだね理由はあるの?」

「きっと聞かない方が良かったと思うから、内緒にしておきます」


「え……それってメチャ怖いんですけど」

「大丈夫ですって」


 待ち合わせたカラオケボックスは、学生なんかが多く利用する店で平日なのに結構賑わっていた。

 予約名を伝えると「お連れ様は既にお見えになっています」と言われたので部屋番号を聞いて向かった。


「こんばんは、急におよび立てして申し訳ございません」

「いえいえ、重大な情報があると大島から伺いました。柊さんからの情報より重大な案件は今の私には存在しませんから」


「課長、話の内容は私の方で纏めましたので、まずはこの書類をご覧ください」


 杏さんは、とっくに事態を想定してレポートに内容を纏めていた。

 やっぱり出来る女は違うよね。


 きっと、希がいたら『やれる女』は違うとか脱線しそうだね。

 でも、そのセリフを思いつく私も基本脳の中身は変わんないのかも……

 ちょっと自己嫌悪になるな……


 私は絶対口には出さないから、そこが希とは違うはず!

 五分程の時間が経過し、澤田課長がレポートから顔を上げた。


「この情報は『ダンジョンリフト』に匹敵するほどの、いえ、それ以上の情報となりますが、これを公にする事は恐らく柊さんの所持される上位鑑定能力の存在を発表するのと同意義となってしまいます」

「それを踏まえた上での、私へのこの問題のリークと受け取りますが、対処は私が行ってもよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」


「柊さん、この鑑定の力を、私が覚える事は可能ですか?」


 いきなり来ちゃったなぁ。

 でも一応こういう事も考えて、準備はしていたんだよね。


「澤田さん、私がこの力を使えるのはダンジョンで拾ったアイテムのお陰なんです」

「どのような?」


「これです」

「これは……魔石? いや色が違う。何ですかその魔石の様な物は」


「スキルオーブという名前です」

「スキル……やはり存在したんですね」


「でもラノベの様に便利ではありません」

「と、言われると?」


「このオーブは一度限りの使い捨てです」

「何かを一度見ればそれで消えるという事ですか?」


「はい、その通りです。宝箱から手に入れました。数は全部で五十個入っていました」


「現在は何個程お持ちですか? それと、今後入手の可能性はありますか?」

「今現在三十個ほど残っています。今後は解りません」


「それはお譲りいただけますか?」

「はい、今回の口止めと合わせて無償で差し上げます」


「構わないのですか? 仮に売りに出されたら、海外などは一個を億単位で買いますよ?」

「構いません。澤田さんにお預けしますので有効活用をお願いします」


「解りました。では後の事はお任せください」

「良かったです」


 その会話を終えた後で私は帰宅し、澤田課長と杏さんは自衛隊の最前線である葛城一佐との会見に向かう事となった。


「杏さん、大変ですがよろしくお願いします」

「心愛ちゃん、任されました。明日の朝に一度連絡を入れるわね」


「はい、お待ちしてます」


 ◇◆◇◆ 


「なんだと澤田。それは本当の話か」

「このオーブの存在が、総てを真実と裏付けている」


 澤田は協会に東京から転勤して来た男『冴羽』に情報を回す決断をし、一緒に今回の件の対処に参加するように要請した。

 この冴羽は澤田からしてみればいけ好かないやつではあるが、頭も切れるし行動力もある。

 今回の様な国家的なダンジョン探索に関わってくる問題には適任な奴だ。


 まず手分けをした。

 ダンジョン協会関連は理事六人と面識があり、理事会の予備会議にも参加し続けて来た冴羽に任す。


 澤田と大島は協会内の情報室の内部から、ダンジョン特務隊の葛城一佐とのライブミーティングを行う。


 流石に自衛隊の特務隊は対応が迅速だ。

 要請から僅か十五分後には画面の向こうに葛城一佐と副官の一尉が登場した。


「概要はFAXで送られてきた情報通りで間違いありませんね?」

「その通りです。今回ダンジョン協会が手に入れた情報は問題が大きすぎます。すぐに最前線の自衛隊『ダンジョン特務隊』に知らせるべきだと判断させていただきました」


「ありがとうございます。このレポートによると現在金沢ダンジョンは、最終階層に挑んでいる事になる。これが横浜の二十九層と匹敵する程度の物であれば、さほど問題は無いでしょうが、ダンジョンのラスボスが中ボスと同程度とはとても思えません。至急金沢には一時撤退と、最高戦力部隊への編成替えの命令を出し、万全の態勢で挑みたいと思います」

「即応して戴き一安心致しました。協会としても何が起こるか予想が付きませんので、金沢ダンジョンは何らかの答えが出るまで一般探索者の潜入は禁止し、今現在、潜入している全ての探索者へ、ダンジョン外への退去を連絡します。『ダンジョンリフト』を使用しますので三時間以内に完了します」


「了解しました。それでは私は現場指揮へと戻ります。明日、澤田さんにも金沢へ来ていただいて、直接お話を伺いたいと思います」

「福岡空港から小松空港へ向かうので十五時三十分頃に現地到着予定です」


「了解しました。お会いできることを楽しみにしています」


 ◇◆◇◆ 


 さあ、明日は忙しくなるな。


「杏、君は心愛ちゃんについていて欲しい」

「あら、久しぶりね。下の名前で呼んでくれるのは」


「二人になれる事が久しぶりだからな」

「無理はしないでね」


「解った」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る