第49話 体力測定

 罠解除は希にも必要だと判断して、朝からスープカレーを用意して上げた。


「美味しいでしょ?」

「ひゃい、ほいしぃでしゅ」


「飲み込んでから喋りなさいよ」

「あ、罠解除覚えましたー超嬉しいです。ちょっと私には辛いけど、メッチャ美味しいです。私それにこんな野菜の色が綺麗なままカレーに入ってるの見た事無かったです。うちでカレーと言うとレトルトの事だったから」


「そうなんだね……ワニのお肉はどう?」

「これが昨日のワニから出たお肉なんですねぇ。プルプルして柔らかくて、なんだかお肌が綺麗になりそうな感じしますよね」


「そうだよね、私が思ったのはもっと鶏肉っぽい感じだったんだけど、実際に煮込んでみると、なんだかコラーゲン豊富な感じするよね」

「とっても美味しいです。明日の朝も楽しみにしてきますね」


「毎日あるとは限らないからね、まぁ新作が無い時は私と一緒にトースト食べればいいんだけどね」

「先輩と二人きりで迎える朝の景色とか、禁断の香りがして朝から欲情します」


「やっぱり朝は来ないで放課後だけにしてね」

「酷いですぅ」


 食器を片付けて希と二人で学校に向かいながら、サークル活動の進捗状況を聞いて見た。


「あーあれですね、橋本先生と野中先生が顧問になってくれて、実際に座学だけで無くて週末のダンジョンで実践もやるそうですよ。協会の講習だと実践とか無いから、実践ありなら結構興味を持って貰えそうですよね」

「でも、この間の事件で基本は学校としては反対なんだよね? その割には積極的だね」


「野中先生は、禁止って言っても行く連中は行くんだから、正しい知識を身に付けてくれる方が良いと言って、学校に上申したらしいですよ。保護者の許可とかそういうのは変わらないみたいですけどね」

「日向ちゃんのご両親とかは、許可出さないでしょ?」


「それも何だか日向ちゃんが両親と話し合ったらしくて『自分が治して貰った恩を、他につらい思いをする人が出ない様にする活動で返したい』って言って説得したんだって言ってました」

「へぇ、日向ちゃん結構良い所あるじゃん」


「ですよね私の友達だから当然ですけど、卒業後もポーション治療をもっと受けやすくする為の活動をしたいって言ってました。先輩と私の動画編集もずっと続けたいって言ってくれてますよ」

「そっかぁ私達も頑張らなきゃね」


「はい、頑張ります。それより昨晩アップされた新作動画が凄い視聴数伸びてますよ。ダンジョンの方は魔法とかモンスターハウスとかの部分は映ってないからそれなりですけど、先輩のお料理動画が凄い再生回数伸びてます―」

「へーそうなんだ。お料理動画の需要ってあるんだね。よかったぁ」


「お料理そのものより先輩のビジュアルで虜になってる人の方が多いかも知れないですけどね! 最後の方の実食動画で先輩と日向ちゃんが並んで食べてるとこなんか、日向ちゃんのファンも出来ちゃってるみたいですよ」

「そうなんだね。でもさ私も動画は当然確認してるけど、ダンジョン動画の方は私のカメラで撮影した部分は希も映ってるじゃん? そっちのほうの反応はどうなの?」


「それわぁ……微妙です」

「微妙って?」


「なんかコメントが人としてよりも小動物を見るような感じのものが多くて……」

「そうなんだ……」


「でも一部の熱心な視聴者が私たちのダンチューブスレッドを立ち上げてくれてて、結構盛り上がってますよ。先輩も暇があったらスレッド確認してみてください」

「見るのが怖い様な気もするね」


「大丈夫! なはずです」


◇◆◇◆


 学校へ到着したら、朝から野中先生が声を掛けて来た。


「柊おはよう、ちょっとだけいいか?」

「はい、先生どうしたんですか?」


「放課後は忙しいだろ?」

「そうですね、忙しいです」


「今日のな、体育の時間の時に少し別行動でデータ取りをさせて欲しいんだ」

「何のデータですか?」


「五十メートル走とかの基本的な物だけだ」

「解りました。でもそんなの計ってどうするんですか?」


「部活とかでな、ダンジョン活動をしている生徒と、そうでない生徒は同じくくりでいいのか? という話が今先生たちの間で出ていてな、基本的なデータだけは準備して、教育委員会なんかと話し合いをする事になったんだ」

「そうなんですね。ダンジョンの外だとそこまで大きく変わらないから良さそうな気もするけど、全く入って無い人とはやっぱり違いますもんねぇ」


「そうだな、ダンジョン活動を練習に組み込むのが、当たり前になったりするかもしれないが、教育の現場で魔物とは言え、生物を殺すのを推奨するのもどうかと思うと頭が痛い問題だよ」

「大変ですね、頑張ってください」


 ◇◆◇◆ 


 体育の時間になり、橋本先生が私に付きっきりになって、五十メートル走、握力、ハンドボール投げ、立幅飛び、千メートル走の五種目で記録の計測を行った。


 私が高校一年生の時の記録は、女子の標準より若干いい程度だったので、現時点での身体能力との差は結構あるよね。


五十メートル走  6.3秒

握力       51キログラム

ハンドボール投げ 27.2メートル

立ち幅跳び    259センチメートル

千メートル走   153秒


「柊さん凄いね、どれも全部高校生のトップクラスなんじゃないかな?」


 実際には走るのとかは日本記録を上回るレベルだったけど……


「もう少し手加減しないとやばかったですか?」

「手加減しちゃったら、参考にならないじゃない」


「私の名前とか出ないですよね?」

「参考データとしてだから大丈夫なはずですよ?」


「私、絶対部活の運動とかしないですから、他の先生にもよろしくお願いします」

「そうなの? 勿体なくない?」


「ダンジョンの方が私に向いてますから」

「そうなんだ」


 無事に計測も終わって放課後になった。


 杏さんからは、横浜と浜松と名古屋のデータが届いていた。

 今は金沢に向かっているんだって。


 明日、大阪、下関とまわって戻ってくるって連絡があった。


横浜ダンジョン『NO156ダンジョン 階層数79 Aクラス 現在到達階数30』

浜松ダンジョン『NO299ダンジョン 階層数51 Bクラス 現在到達階数21』

名古屋ダンジョン『NO346ダンジョン 階層数46 Cクラス 現在到達階数25』


 あーよりによって横浜じゃ先が見えないじゃん。

 他に自衛隊が入って居るダンジョンは、札幌、金沢、大阪の三か所だけど、横浜の部隊が最精鋭の人が集まってるし、あまり攻略は進んでないよね……


 札幌なんか一般のダンジョンと変わんないし。


「せんぱーいただいまぁ」

「おかえりなさい。さぁ早速行くわよ。今日は十二層で氷のステージだからね」


「ぇ、寒そうですね? ダウン持って行った方が良いかな?」

「あ、そうかもね。時間勿体ないし私のを貸すからもう行くよ」

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