第29話 魔法少女『心愛』

 協会に着くと今日は杏さんが窓口業務に就いてた。


「杏さんこんにちはー、窓口入ってるんですね」

「今日で最後だけどね」と言ってウインクしてくれた。


 流石にTPOをわきまえた杏さんはSランク関係の話題とかを、この人目もある状況では出さなかった。

 うん、出来る女って素敵! って思ったよ。


 早速、希と二人でダンジョンに入る。

『ダンジョンリフト』で六層に到着すると、希がカメラを準備している間に金棒をマジックバッグから取り出して構える。

 いつもの準備運動替わりの素振りだよ。


「希、ちょっと危ないから離れてね」と声を掛け『ビュン』という音を鳴らして金棒を振り切った。

 うん、絶好調!


「先輩、その金棒でそんな音が出せるとか、どんだけ力強いんですか?」

「あれ? 希も昨日ステータスいじってるから、出来るんじゃない? やってみる?」


「やってみたいですぅ」


 希が金棒を構えて振ってみる、振れてるけど、バッティングの基本がダメダメだ。

 当然音もしなかった。


「前と違って持てますけど、先輩みたいには行かないですよぉ」

「バッティングは腰が大事なんだよ! 帰ったら素振り千回くらい毎日やれば出来るようになるよ」


「先輩、私にどこを目指させる気ですか? 甲子園は目指してませんから」

「今日は七層を通り抜けて八層まで行くつもりだからね。まだ希のステータスで十分余裕はあるはずだから焦らず冷静にね」


「解りました。頑張ります」


 六層を撲殺しながらどんどん進み、守護者との戦いを迎える。


「希、取り巻きのオークを任すねー」と声を掛け、私はまっすぐオークリーダーへと向かった。

 一撃で倒すとポーションⅢが落ちてた。


「希、これ上げるから持ってなさい。Ⅲだよ」

「え? そんな簡単にポーションⅢって出るもんなんですか? 十二万五千円のアイテムですよ? 買ったら二十五万円もするんですよね? って言うか先輩何で瓶見ただけで解るんですか?」


「あ、まだ言って無かったっけ。鑑定使えるからね私。解ってると思うけど当然内緒だよ」

「ひぇええ、又先輩の深淵に触れてしまいました。もう先輩の事深淵卿アビスって呼んでいいですか?」


「なんか駄目な気がするから却下」

「先輩の鑑定って人とかも見れるんですか?」


「うん、そうだよ。ダンジョンも見れるから隠し扉とか宝箱も見れるよ」

「凄いなぁ、それって私も覚えれないんですか?」


「どうだろうね? きっと『元気があれば何でもできる』と思うよ?」

「ダーッ!」


「解ってるじゃん」

「ボンバイエです」


 七層に降りると当然の様に、お墓ステージだ。


「希、まず自分でやってみて。危なそうだったら私も手伝うからね。体は何処を切り裂いても、殆どノーダメージだから、胸部のコアか脳みそに刃物を突き立てるかで倒せるからね」

「ビジュアルヤバいですね、頑張りますぅ」


 でも基本的にこの階層の敵は、動きは遅いので高い敏捷を与えている希の敵では無いけど問題はビビらないかどうかだけなんだよね。


 スケルトンは頭部のシャレコウベの中にコアがあるから、刃物よりも、撲殺が向いてる。


 普段は各小部屋へ入るたびに三体程度の敵だけど、今日は初めて『モンスターハウス』に遭遇しちゃったよ。

 モンスターハウスは出現条件なんかは解って無いけど内部に侵入すると扉が閉じて閉じ込められ、殲滅しないと脱出できない。

 ここで死んでしまうと、ほぼ体は残らないので行方不明の最大理由となる。

 そこに居た敵の数は二十体を超える。

 スケルトンとスケルトンナイト、スケルトンソルジャーの三種類が居た。


「先輩、ちょっとヤバいかもです。噛まれたらゾンビ化しちゃうんですよね?」

「スケルトンはゾンビ化はしないから大丈夫。ゾンビ化するのはゾンビ系の敵だけだよ。ちょっと見ててね」


『ホーリーシャワー』


 私が魔法を唱えるとスケルトンたちに聖なる雨が降り注ぎ、凄い白煙を上げながらスケルトンが消えて行った。

 床にはドロップが転がっていて宝箱も一つあった。


「うん、宝箱出ちゃったね! 希、開けてみたいでしょ? 鑑定したから中身は安全だよ」

「あ、あの、先輩? 魔法って使いましたよね? 私、夢見たのかな?」


「使えないとは言って無いからね? でもこれはまだダンチューブにアップしたら駄目だよ」

「そういう問題でも無いと思うけど了解です。でも……これをもしアップしたら一気に登録百万人も夢じゃないですよ。マジカル心愛って呼んでいいですか?」

「ダメ」


「先輩、先輩、先輩、先輩、先輩ねぇ先輩私も使いたいです」

「元気があれば何でもできるから頑張って」


「ボンバイエ」

「それ意味知ってるの?」


「いえ?」

「奴を殺せ! だよ」


「マジですか?」

「マジだよ。アフリカのコンゴの言葉なんだって」


「先輩、何でそんなこと知ってるんですか?」

「お父さんが猪木さんのファンだったから、よく説明してくれてたんだよね」


「宝箱開けちゃいますね。えい」

「何だった?」


「あ、武器みたいです。大当たりかも」

「鑑定してみるね」


『ボーンランス』スケルトンの骨から削り出された短槍、軽くて丈夫。


「希、これ、凄い良いかもしれないよ。使ってみなよ強度は良く解んないけど、短槍と短剣の二刀流とか結構似合いそうだよ」

「いいんですか? 私ばっかり。それにこれも売れば最低でも二百万円するんですよね?」

「気にしなくていいよ、私の安全のためにも希が強くならないと困るんだし」


「先輩、愛してます。先輩の子供産みます私」

「怖いし」


 さぁ七層のボス部屋に向かうよー!

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