第28話 理不尽

「柊、待たせたな。デジタル式の測定器を今年から導入したから持ってきたぞ」


「私も測って見ていいですか? ダンジョンの中と外でどれくらい違うのか気に成ります」

「おう、勿論構わんぞ。データは多いほどいいしな」


 早速デジタル式の握力計を握ってみた。

 高校二年生くらいだと、男子の平均で四十二キログラム程度で女子の平均だと二十七キログラムと同梱されていた一覧表に書いてあった。


「うーん」思わず声が出ちゃった。

 何だかトイレで二日ぶりくらいに大きい方した時みたいな感じがして、ちょっと恥ずかしいと思っちゃったな。


「ちょっ、柊、お前この数字マジかよ」


 握力計の示した数字は四十八キログラムだった。


「あー結構あるんですね私。やっぱりダンジョンの外でも結構能力上がってるかも」

「なんか柊の後でこれを握ると、大人の男としての威厳が保てないような気がするが、そうも言ってられんな」


「んーーーー」先生も、声を漏らしながら首筋の血管を浮かびあがらせて、握力計を握り込んだ。

「どうだ?」


「わぁ先生凄いですね四十八.五キログラムです。負けちゃいました」

「って〇.五キログラムかよ。まぁ負けなかっただけ良しとするか」


 ダンジョンの外では、あり得ない程の数字が出る訳じゃ無かったから少し安心した。

 

「それじゃぁ先生、明日よろしくお願いしますね」

「あ、そうだ、英語の橋本先生が学生時代に講習受けたそうだから明日一緒に来てくれるそうだ。朝の八時に駅で待ち合わせで頼むな」


「解りました。先生、橋本先生可愛いから狙ってたりするんですか? ちょっと気になるなぁ」

「ば、馬鹿な事を言うな。純粋に生徒の為を思っての活動だから、そんなよこしまな気持ちは無い」


 野中先生ちょっと照れてた。

 もう三十代半ばに差し掛かろうという年齢で独身だからちょっとは頑張った方が良いと思うよ?

 橋本先生は二十四歳のまだ二年目の先生だけど、可愛い見た目で男子からも人気あるんだよね。


 スマホをマナーモードにしてたら希からの着信がヤバイ数入ってた。

 放課後からだけで二十三回ってどこのストーカーですか?


 かけようと思ったら、またかかって来た。


『何かあったの?』

『あ、やっと出たぁ。もう先輩大変なんですよ』


『どうしたの?』

『まだ学校ですよね? 門の所で待ってますから来てください』


 門まで行くと希が一人で待っていた。


「どうしたのよ? 慌てちゃって、着信回数のやばさで、マジ着信拒否リストに入れようと思ったよ」

「それは止めてください」


 話を聞くとダンジョンで事故に遭った時に一緒に行動していたメンバーで怪我をした日向ひなたちゃんと昭君の両親が、もう一人のメンバーだった悟君の家に来たらしかった。


 恐らく希の家は、お母さんがパートに出ていた関係で連絡がつかなかっただけだろう。


「それで四人で探索に行ってたんだから、治療費は四人の親で折半にして負担しろって言ってるの?」

「そうなんですよ、ダンジョン内での怪我に関しては、健康保険も一切使用できないから二人の治療費で今の時点で七十万円で、もし後遺症が残ったらそれの慰謝料も請求するって言ってるらしいんですよ」


「でも、それってどうなの? 法的な根拠とかあるのかな?」

「私はそんなのは解んないんですけど、今回の探索で亡くなった十二人と、彼らのパーティで生き残った三人の間でも同じような訴訟問題に発展するからって、向こうの両親は悟君の家に来た時に言ってて、訴訟に発展すると弁護士費用とかで余分な負担をしてもらう事になるから、私たちの間だけで保証問題の話は解決しましょうって言ってるそうです」


「なんか理不尽な話っぽいよね? 私も法的にどうとかは全然解らないけど、それは払う決まりがあるっていう話じゃ無いと思うな?」

「ですよね? 先輩の事も、もし後遺症が残った場合は訴えるって言ってるらしいですよ?」


「きっとそのご両親は、外で食料を持っている時に浮浪者の人達と出会ったら、食料を快く分けてあげるような生き方を正しいと思って生きてるんでしょうね? それで渡さなくて浮浪者の人が亡くなったら賠償金を払うのが正しいとも思ってるんでしょうね?」

「先輩……結構厳しいですね」


「でも、理論的には似てない?」

「そう言われたらそんな気がしますけど……」


「ちょっと気に成る問題だし希がどうしたいのかの気持ちの問題もあるけど、本当に治療して上げたいならとりあえず先に自分の子供たちにポーション治療を受けさせるのが先って話だよね? それをしなくて後遺症が出たら賠償がどうのって言うのは到底聞き入れないよ」

「ですよねぇ、日向ちゃんはどうにかして上げたいけど、あのご両親が出て来るなら一切関わりあいたくないです」


「杏さんに少し相談してみようか? きっと何かいい意見を貰えるかもしれないし」

「はい……」


「今日も今からダンジョン行くけど希はどうする? 気が乗らないなら辞めてた方が良いよ?」

「あ、それは全然大丈夫です。今日も稼ぎたいです。でも六層に行った時に、先輩に何かされた後って明らかにドロップ率もあがったんですけど、それも先輩の影響ですか?」


「そうだよ。希がどこまで内緒に出来るか解らないから言って無かったけど、人にもそれぞれステータスが存在するんだよ」

「やっぱりそうなんですね、それを先輩は見る事が出来て、変えることも出来るんですか?」


「まぁそう言う事だね、ばれちゃったりしたら私は姿を消すかもしれないけどね。国とかのモルモットにはなりたくないから」

「絶対誰にも言いませんから、私を置いて行かないで下さいね」


「信じてるよ、希」

「あ、それとですね。先輩と私のダンチューブ動画なんですけど、一晩で視聴回数が千回超えてましたよ」


「へーそうなんだ。結構視てくれる人っているもんなんだね」

「先輩はサイトは視てないんですか」


「うん。内容は確認してたからね」

「コメントが結構賑わってて新鮮ですよ。ほとんどが心愛先輩が可愛いって内容ですけど。バッティングフォームが綺麗とかの意見も結構ありましたよー」


「なんか恥ずかしいから自分で見るのはちょっとって感じかな」

「今日の夜には第二弾アップしますから、もっと人気になりますよ。まだほとんどの人が体験してないはずのダンジョンリフトの使用感とかの内容がありますから攻略ガチ勢なんかも視てくれると思いますー」


 一度、家によってから、ダンジョンに地下鉄で向かった。

 ダンジョンは早良区の西新の大学キャンパスの側に存在している。


 結構な街中なんだよね。

 そうだ、お金は困って無いしここのダンジョン側に転移用の拠点でワンルームのマンションでも借りたら、狩りが終ってすぐシャワーも浴びれるし、人に見られずにテレポでダンジョンに通えるよね。


 杏さんに頼んで会社名義で契約して貰おう。

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