第3話 スキル!

 家に戻って、お母さんに「ただいまぁ」って言うと、お店の大きなキッチンに行った。

 今では、ここは私のお料理の練習と売りに出さなかったドロップアイテムの保管場所なんだよね。


 結構色々あるんだよ。

 ダンジョン協会の鑑定を受けたアイテムでも、自分の必要な物は納品せずに持って帰る事も当然出来るから、ポーションのランクⅠとキュアのランクⅠなんかは全部自分用に持って帰る様にしてるの。


 だってランクⅠでも五千円の納品価格だけど自分が買うとなると倍額だから使いそうな量は、ちゃんと確保してないとね。


 一万円は高いけど、けがは切り傷程度なら後も残さずきれいに治療できるから価値は十分だよね。

 

 キュアはランクⅠだと初級の毒に対しての治療効果がある。

 主に五層以下の魔物から与えられる毒が初級毒だ。

 アルコールによる酔い覚ましなんかにも効果があるんだって。


 宴会で思いっきり飲酒してもキュアを飲めば車の運転も出来るから結構需要は多いんだよ。

 でも買えば一万円だから微妙だよね。


 お父さんがダンジョンの事故で亡くなった時に遺品で残った物は、マジックバッグのランクⅠとダンジョンナイフが一振りだけだった。

 これも運良く顔見知りの探索者の人が第一発見者だったから手元に戻ってきたという話だけど、ほとんどの場合は発見した人に奪われちゃうんだよね。


 だってナイフでも買えば二百万円だし、マジックバッグは三百万円もするアイテムだから。


 それでも密輸などにも使えるアイテムだから、登録せずに所持をしているのが発見されると罰金一千万円と、禁固五年の両方が科せられる重大犯罪になるんだって。


 ダンジョン産の武器も登録が必須なアイテムだ。

 こっちは登録してないと銃刀法違反が適用されちゃうの。

 私の金属バットはダンジョン産では無いから登録は不要だけどね!


 当然手元に戻って来たこの二つのアイテムは、私の名前で登録をしてあるよ!


 ◇◆◇◆ 


 宝箱から手に入れたペットボトルを目の前に出してみた。

 開ける前にじっくり見てみると、底に今まで気づかなかったけど、入っている水と同じく綺麗に透き通った水晶玉のような物が転がっているのに気が付いたの。


 これは只の水じゃ無いかもしれない。

 

「ゴクリ」と、つばを飲み込んでキャップの蓋を開けてみた。

 かすかにいい匂いがする。


「あれ? この匂いは……和食の基本のお出汁の匂いみたいだな?」


 でも、お出汁だと、もう少し茶色っぽい色だよね?

 恐る恐る味見用のお猪口に、お出汁? を注いでみた。


 一応まさかの時の為に、ポーションとキュアをすぐ飲めるようにテーブルの上に並べてから、そのお出汁? を口にしてみた。


「美味しい! 何これ今まで飲んだどんなお吸い物より全然美味しいよぉ」


 でも、水の様にごくごくと飲む物じゃ無いよね?

 量も、このペットボトル一本分しかないし、ポーション? では無いよね? 別に体調が良くなったとか、身体能力が上がったような感じもしないな。


 ただただ美味しい液体ってだけだよね? でもそんな物が態々わざわざダンジョンの宝箱から出るのかな?

 

 折角だからお料理に使ってみよう! と思い、ダンジョン産の鶏のような魔物から出る魔鶏のお肉と卵があるから、美味しいお出しと合わせるなら……『茶わん蒸し』だね。


 お母さんの分と二つ作ろう。

 そう思って、手際よく調理をした。

 中に入れる具は魔鶏を十グラム、これはさっとお湯をくぐらせて霜降りをする。


 折角の香の良いお出汁を使うから、余り具材は多くない方が良いかな?

 生麩を一切れと、銀杏を二個、後は青味で春菊を少し。

 卵一個にお出汁を三倍量をあわせて淡口醤油と味醂で味を調えるだけ。

 丁寧にシノワで濾すの。


 シノワはソースなんかを濾す時に使う調理道具で、これをするととても口当たりが滑らかになるんだよ。


 そして具材を入れた器に、茶碗蒸しの液を注いで蒸し器で十分程蒸したら出来上がり。

 蓋を開けて出来栄えの確認をすると、プルンとした滑らかな表面から、とてもいい香りが漂って来た。


 我慢できずに、お母さんを呼ばずにスプーンで掬って口にしたの。


 その時だった……


『セレクトスキルの選択権を取得しました』


 唐突に機械的な音声が頭に響いた……


(えぇぇなに? 今の声? てか、スキルって存在しちゃってたんだ……これってやっぱり私のお料理の効果? なんだよね……)


 どうやら、今私の眼前に広がるタブレットのような画面に表示されている四つのスキルから選べるようだ。


【超成長】

【ステータス調整】

【アイテムボックス】

【鑑定】


 どれがいいんだろう? 私普通の女子高生だし、成長したってガンガン戦えたりしないよね? 無難なのは【鑑定】かな?


 心愛ここあは【鑑定】スキルを獲得した。


 ヤバイよこれ、お母さんに食べさせたりしたら大変な事になっちゃう。

 てか、もう一個を食べたら、もう一つ選べたりしないかな?


 でも駄目だった。

 どうやら最初の一回だけみたいだ。


 でもどうなんだろ? お出汁だけを味見した時には、何も起きなかったよね。

 このお出汁で料理をしたら効果が表れるのかな?

 それともダンジョン素材と合わせたからなの?


 あ、鑑定スキルってどうなんだろ、早速目の前にある不思議なペットボトルを見つめて【鑑定】と念じた。


【不思議なペットボトル】

 このボトルのスープでダンジョン産の食材を調理すると様々な能力が身に付く。

 同じ素材の組み合わせでは一度限りしか効果は出ない。


 使った分だけ二十四時間で元の量に戻る。

 ペットボトルは不壊アイテム。


 これって……私もしかしたら最強になれちゃうかも?


 どうしよう……こんな事、人に知られちゃったら国とかに隔離されて一生扱き使われちゃう未来しか想像できないよね。

 絶対内緒にしなきゃ。


 おしゃべり好きなお母さんも危険かも。

 どこかでポロっと喋っちゃいそうだから、お母さんにも内緒にしなきゃ。

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