初動を事故ると大抵うまくいかない
「こちらです」
「うっわ広い」
そうして案内された部屋は、推定王城とだけあって中々に豪華な一室だった。現代的な感覚で言えば、よくテレビで紹介されている高級ホテルの一室といった感じだろうか。
ベットの数からしておそらく個室なのだが、仮に、この水準の個室を人数分用意できたとするならば、この国の経済力はかなり高いのではないだろうか。
そんなことを考えていると、背後から声が掛けられる。
「それからこちらを」
そう言われて振り返れば、案内してくれた兵士さんから何かを手渡され……って!
「俺のバック!」
「肩をお貸しした際に近くにあったので、もしやと思いまして」
ありがてぇ!
ラノベやゲーム機は勿論のこと、ノートPCにも多数のコンテンツをオフラインに落としているから、当分娯楽には困らない!問題は召喚時の衝撃で破損してないかだが……
「よしっ! 生きてる!」
「喜んでいただけて何よりです」
本当にこれは大きい!供給がないのは仕方がないが、未来に希望が見えてきた!ケーブル類にも断線してる様子は無いから、有事に備えて持っていた
備えあれば憂いなし。いやぁ、至言だね!
「廊下に我々騎士の者以外にも、複数の従者が巡回しています。何かあれば、おっしゃってください。」
「わかりましたー」
そう言うと兵士、いや騎士だったのか。騎士の人は部屋を出て行った。よし、広いベッドもあることだし。1回遊んでリラックス……
じゃない!
逃げの選択肢を用意されたものだから、つい個室まで来てしまったが今はこんなことしている場合じゃない。幸いにも私物の無事を確認できたからか、先ほどよりは落ち着けた。先ほどまでと異なり、今ならば勢いだけの謝罪よりはマシな言葉が出せるだろう。一瞬にして消し飛んだ決意を再度拾い直し、俺は部屋を出て、通りかかったメイドさんに声をかけられた。
「あ、御使さま。先ほど大広間の方でお茶を淹れたのですが、よろしければお部屋までお持ちしますか?」
良し! 最高のタイミングで広間に戻る口実が出来たぞ!
「いや、広間まで戻るんでお茶はそっちで頂きます」
「かしこまりました。ではご案内しますね」
そうしてメイドさんに案内されながら、再度
あれこれ頭の中で算段を立てていると、いつの間にか見覚えのある扉の前へと戻ってきていた。さーて、王女様はどちらに……ん?どこにも居ない気が…………
「あ、あの。王女様はどちらに……?」
「あぁ、リディア様でしたらつい先ほど「私が居ては、皆様の気が休まらないでしょうから……」と仰って…………」
「そ、そうですか……」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!
なんて素晴らしい配慮でしょう!本当に困るからやめてほしい!コレ
落ち着け、まだ慌てる時間じゃない。一旦出されたお茶を飲んで落ち着くんだ。大丈夫、まだ昼前だ。こちらから尋ねればいい、まだチャンスはあるはずだ。
————————————————————
「はぁ…………」
あの後何度も王女様を探し歩いたが、結局会えないまま日が暮れた。どこ行っても絶妙にすれ違うし、部屋の前で待っていれば出かけたと知らされるし。ここに来てから何1つうまく行かない。ちくしょう。
そのまま夕食も頂いて、今はこの城にいくつかあるらしいテラスの1つを借りてゲームに興じていた。折角個室を用意してもらったのだが、時折隣の部屋から女子の泣き声とか、男子の怒鳴り声が聞こえてくるからどうも落ち着かなかった。そりゃまぁ急に家に帰れなくなれば泣きたくなる気持ちもわかるのだが。そう考えると、この状況で変に落ち着いている俺は未だに現状を正しく捉えられていないのかもしれない。
今まで何度も見てきた
「お、レアアイテムげっと〜」
そう、まるで今遊んでいるゲームのようだ。自分のキャラクターは今までモンスターと壮絶な戦いを繰り広げていて、プレイヤーの俺はそれをゲームの外側から操っている。俺は今の状況を他人事のように考えているのだろうか。操作の手を止めて、ふと宙を見る。
「どうしたもんかねぇ……」
今思えば、これまでの人生はかなり楽だった。美味しいもの食べて、好きな事やって、そこそこ勉強に精を出しながら、先人の用意した道をなぞって進学していく。そして今、そのレールから外れた今「今なすべき事」という事が、わからなくなってしまった。
帰還の方法を探す?既存の科学知識が当てはまるかも分からない儀式に対して、真剣に勉強してきた訳でも無い奴に何ができる。
望まれた通りに戦いへ出る?そもそも戦う義理も動機もないし、殺すのも殺されるのも嫌だ。
これまでに、今の状況と酷似した設定の創作物を多く見てきた。その中の主人公達は動機こそ違えど様々な行動を起こしていた。中には動機に共感できずに嘲笑った事もあったが、自分はどうだろうか?
言い方はアレだったが、王女様相手に言った事は概ね本心だ。現状のへの文句を連ねて、自分は何をする訳でもない。
……いや、そうじゃないか。
「存外何もできないもんだな、俺って」
常識も、文化も、何もかもが違う世界で、今までに培った経験が役に立たないのは仕方のないことかもしれない。けれど他でもない自分のために1歩を踏み出すことができないのは、とても情けなく思えて仕方ない。
やる気が出なくて何する気も起きない。うむ、これだけ切り取ると完全に発言がニートや引きこもりのソレですね!本当にありがとうございm……
「あのっ!」
「うおっ?! え、え? なに?! 何事?!」
びっっっくりした!!!急に近くで大声出されたから、思わず変な声出たわ!
ふざけんな誰だよ、こんな時間に近所迷惑……な…………
「……王女様?」
「はい……今朝ぶり、ですね?」
バッドコミュニケーション!折角むこうから尋ねてくれたのに、またしても気が付かないとか!終わってるよ
とにかくちゃんと話を聞くべく、俺は慌てて付けていたヘッドフォンを外す。
「すみません! 耳塞がっていて気が付きませんでした!」
「あ、そうだったんですね。何度お呼びしてもお返事してくださらないので、てっきり無視されてしまっているのかと……」
「いや……その、今朝はほんとすみませんでした」
「……え、あ、いえ、今回の事は私たちが全面に悪いので……」
事前に予定していた台詞は、動揺で全て脳内から消し飛んだ。動揺したのは王女様も同じようで、顔をポカンとさせていた。
そりゃそうなるよね。
「……今回のって不敬罪とかになるんですかね?」
「あー、大丈夫ですよ。立場的な話をするなら、王族よりも御使さまの方が上ですから」
どこか気まずそうに述べる彼女だったが、ふと何かを思いついたようにクスリと笑いこちらを見て
「言葉遣いも今朝のようなもので大丈夫ですよ?」
「ほんっっとうにすみませんでした」
ちくしょう、結構イイ性格してやがるなこの人。ここぞとばかりにイジってきやがる。そうしてひとしきりクスクスと笑って満足したのか、王女様は姿勢を整えて話を再開した。
「すみません、少々おふざけが過ぎましたね。ですが立場の話は本当ですから、砕けた口調で構いませんよ? 王女様なんておっしゃらずにフレデリカとお呼びください……えっと…………」
「ん? あぁ、風間。
「カザマ様ですね、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうしてぎこちないながらも、和解は成された……ハズだ。
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