なんでって、普通に二人部屋だからだと思うけど

 無事に宿を借りることが出来た。

 正直、宿の人にリエリアを受け入れてもらえるか不安だったけど、そんな俺の不安なんて全くの意味がなく、普通に借りれた。

 良かった。……まぁ、仮に嫌な態度をとってきた場合は、脅してでも泊まって……はいないか。  

 そんな奴らの所に泊まるなんて、こっちから願い下げだ。

 ……結果的にそうじゃなかったんだから、どうでもいい話なんだけどさ。


「……ノルン、なんでベッドが二つあるの?」


 そう思いながら、リエリアと借りた部屋の中に入ると、リエリアは部屋に入るなり突然そんなことを言ってきた。

 なんでって、普通に二人部屋だからだと思うけど。


「二人部屋だからだと思うけど」


 そう思った俺は、心の中で思った通りのことをそのままそう言った。

 

「でも、私たちは一つしか使わないよね?」


 ……一つしか使わない? ベッドの話、だよな? いや、そんなわけないだろ。ベッドは俺とリエリアで普通に二床使うに決まってる。

 ……いや、まさか俺に床で寝ろって言ってるのか? 仮にそうなんだとしたら、俺は全然床で寝るけど。


「せっかく自由になれたんだし、寝る時だって私たちはずっと一緒だもんね?」


 ……俺が床で寝ようが、ベッドで寝ようが、確かに部屋は一緒だし、ずっと一緒にいられると思うぞ。

 

「……えっと、まぁ、そうだね?」


 そう思った俺は、取り敢えずそう言った。

 多分、間違ってないはず。


「えへへ、やったぁ。ずっと夢だったんだ。ノルンと一緒のベッドで眠るの」


 すると、リエリアは嬉しそうに顔をほころばせながら、そう言ってきた。

 可愛い。……可愛いんだけど、少し待ってくれ。

 一緒のベッドで寝る? 誰と、誰が? ……いや、この状況でリエリアの話を聞く限り、俺とリエリア、だよな。


「……一緒のベッド?」

「……嫌、なの?」

「い、いや、そういう訳じゃないんだけど……」


 分かってる。リエリアは普通の常識的な知識でさえ疎いんだ。

 だったら、当然、性の知識なんてあるわけが無い。……それこそ、好きな人とキスをする以上のことなんて知らないんじゃないのか? と思うくらいには、本当にリエリアは無知だと思う。

 

「じゃあ、どういうわけなの?」

「……いや、なんでもない、です。……一緒に寝ようか」


 断りたかった。……自分の理性に自信が無いから、断りたかったんだけど、リエリアの圧に負けた俺はそう言って頷いてしまった。

 ……正直、今のリエリアにそういうことを教えたら、普通にしてくれそうな気はする。

 ……そんな気はするんだけど、俺たちはまだ子供だし、まだダメ、だろ。

 まぁ、問題は俺が我慢出来るかなんだけど、それに関しては正直心配してない。

 だって、リエリアはただ俺と一緒に寝ようとしてるだけなんだし、俺はその気持ちに答えるだけなんだから、我慢くらいできる。

 

「一緒に寝るのはいいとして、リエリア、宿のご飯でも食べに行こうか」

「ノルンと一緒にご飯を食べるのも初めて、だね」


 言われてみればそうだな。

 こんなに長い時間一緒に居たのに、一緒にご飯すら食べたことがないなんて、俺たちくらいなんじゃないか?

 そう思いながらも、俺はリエリアに向かって頷いて、夕食を食べに向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る