鴨が葱を背負ってやってくるってやつ?

「ノルン、これが昔言ってた鴨が葱を背負ってやってくるってやつ?」


 リエリアは可愛らしく首を小さく傾げながら、俺にそう聞いてくる。

 

「……まぁ、そうだね」


 そんなリエリアに対して、俺は曖昧に頷いた。

 いや、まさかさ、ほんとに現れるとは思わないじゃん。

 

「おいおい、金になりそうな物は何も持ってないみたいだが、本人が金になりそうな上玉じゃねぇか」


 リエリアとこそこそとそんなことを話し合っていると、突然スキンヘッドの男がそう言ってきた。……まぁ、盗賊の頭領って所かな。

 こいつを中心にして俺たちを囲んできてるし。

 そう、そうなんだよ。リエリアと楽しく話をしていたら、気がついたらなんか俺たち、盗賊に囲まれてたんだよ。

 ……いや、まぁ気づいてたけどさ。俺たちを囲もうとする前から、とっくに気がついてたけどさ。


「かしら! 女の方は売っぱらう前に俺が味見しちゃダメですかい?」


 そんなことを思っていると、かなりふざけたことを……いや、ふざけたことはずっと前から言ってたな。

 

「ノルン、凄く不快なことっていうのは分かるんだけど、味見って何?」


 売っぱらうって方の意味は分かったのか、リエリアがとんでもない量の魔力を漏れだしながら、そう聞いてきた。

 ……正直、リエリアの魔力じゃなかったら漏らしてたかもしれない。……リエリアの魔力だって分かってるから、かなり心地いいけど。

 ……うん。よく俺たちを囲んできてる奴らは平気でいられるな。どんだけ鈍いんだよ。

 まぁ、それはともかくとして、リエリアになんて言おう。

 環境が環境だったから、リエリアはそっち方面の知識も全く知らないんだよ。

 普通に誤魔化すか? ……別にそれでもいいけど、将来的に困らないか?


「……将来的に俺たちが愛し合う時にすること、かな」

 

 色々と考えた結果、俺は顔に熱が集まるのを感じながらも、リエリアに向かってそう言った。

 た、多分概ね間違ってないはずだ。……いや、愛し合ってるんだから、味見とかじゃないのか? 主食か? って、俺は何を真剣に考えてるんだ。そもそも、今はそんなこと真剣に考えてる場合でもないだろう。


「おい! 何をごちゃごちゃ言ってるのかは知らないが、俺たちに見つかっちまったことを不運に思うんだな」


 下卑た笑みを浮かべながら、頭領に命令された一人の男が近づいてくる。

 ……何気に俺、この世界に来て……いや、来る前を重ね合わせたとしても、対人戦等なんて初めてなんだよな。

 だから当然、人を殺したことだってまだ無い。

 あの家は全部リエリアが終わらせてくれたからな。

 ……まぁ、正直大丈夫だと思ってる。

 こうやって色々と冷静に考えてるけど、本当は腸が煮えくり返りそうな程、俺はこいつらに対してイラついてるんだよ。

 だから、こいつらを殺して痛む心なんて持ち合わせてないんだよ。


「……私が好きなのはノルンだけ。ノルン以外いらない。何をしようとしているのかは知らないけど、私とノルンが将来的に愛し合う時にすることをお前となんてするわけが無い。……死ね」

「おい、何をブツブツとーー」


 そう思って、俺がこいつらを殺そうとしたところで、隣でリエリアが何かを言っていたかと思うと、盗賊一人ひとりがいた場所に火柱が上がった。

 盗賊達は声を上げる暇すらなく、塵になった。

 ……何が言いたいのかと言うと、リエリア強すぎ。俺の出番なし。俺いらない。

 

 そして、火柱を上げた当のリエリアは隣で褒めて欲しそうにしている。

 可愛い。凄く、可愛い。……でも、俺は今から言わなければならないことがあるんだ。


「リエリア、盗賊ってのはな、アジトに自分たちが奪った物を隠し持ってるものなんだよ」


 俺はリエリアの頭を撫でながらそう言う。

 リエリアはまだ俺が何を言いたいのか察してないのか、頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細めている。可愛い。


「全員を殺しちゃったら、アジトの位置、分からないだろ?」

「あっ、もしかして、殺さない方が良かった?」

「まぁ、本来ならそうなんだけど、今回は別にいいかな。……リエリアが殺らなかったら、俺が多分殺っちゃってたから。それくらい、腹が立ってた」


 俺が言いたいことを理解したのか、一気に不安そうな顔になるリエリアをフォローするように、直ぐにそう言った。

 腹が立ってたのは事実だし、実際あの時は俺も腹が立ちすぎてアジトの場所を聞き出すなんてこと全く眼中に無かったからな。

 火柱が上がって、少し冷静になったところで「あ」ってなったんだよ。


「えへへ、ノルンが私の為に怒ってくれたのは嬉しいけど、今度からは気をつけるね」


 良かった。リエリアが変に責任を感じることがなくて。

 そう思って安心していると、リエリアは俺に抱きついて、頭をグリグリと俺の胸に押し付けてくる。可愛い。

 

 さて、ここで一度現実逃避をやめてみようか。

 俺たちが盗賊に襲われたのは森。

 つまり森の中で盗賊たちに囲まれていたわけだ。

 そして、そんな盗賊たちがいたところにはとんでもない火力の火柱が上がった。

 ……何が言いたいのかと言うと、辺り一体火の海なんだけど、どうしよう。

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