なんだ。やっと来たのか

 また、あれから二年が経って、俺とリエリアは十四歳になった。

 そして、その日は突然だった。

 またいつもみたいにリエリアが来る時間が近づいてきてるなぁ、と俺が呑気に考えていると、外から何かが爆発したような、とんでもない音が聞こえてきた。

 

「ッ」


 いきなりのことにびっくりした俺は、一瞬息を飲み、直ぐにリエリアの安否を確認しようと思ったけど、その必要はなかった。

 なぜなら、音がした方向から膨れ上がってきている魔力はあの日からずっと近くで感じてきたリエリアの魔力だったんだから。


「なんだ。やっときたのか」


 リエリアがこの地獄を潰す日が来た。

 だったら、俺は今日、死ぬ。

 それくらい分かってるのに、不思議と恐怖は無かった。当然だろう。あの日、あの時、前世の記憶を思い出した日から、覚悟してたんだ。今更、ビビったりなんかしない。

 ……そう、そのはずなんだ。……なのに、なんだ? この、胸のモヤモヤは。……まぁ、別に気にするようなことでもないのか。どうせ、もう少ししたら、俺も死ぬんだから。

 今度は転生なんてもうしないだろう。仮にまた転生したとしても、記憶は無いはずだ。だったら、リエリアのことを忘れるのは悲しいけど、特に考える必要も無いだろう。


「……寝るか」


 外が騒がしい。この隔離された部屋からでも、聞こえてくるくらいに、騒がしい。

 ただ、俺はそんな中、そう呟いて、ベッドに寝転んだ。

 はっきり言って、今のリエリアは原作のリエリアより強い。直ぐにここにも来るだろう。

 だったら、一思いに、寝てる間にズバッと殺ってもらいたい。

 ……いや、いくら死ぬ覚悟が出来てたとはいえ、痛いのは好きじゃないしな。

 そう思いながら、俺は普段なら絶対に眠りになんてつけない騒音の中、あっさりと眠りについた。





「私を苦しめる人も、助けてくれない人も、もう、誰も要らない。……だから、貴方も、さようなら」


 真っ赤な長い髪に真っ赤な目で俺を見下ろす美少女がいる。

 あぁ、遂に、来たのか。


 そう思ったのを最後に俺の意識は遠の……くことはなく、むしろ、覚醒していった。


「あっ、えへへ、起こしちゃった?」


 そして、俺が目を覚ましたのを確認したリエリアは、少しだけ返り血を付けながら、俺を見下ろしていた。

 可愛い。俺がまさに今見た夢とほぼ同じ見た目だ。

 

「えっと、え? 俺は、殺さないのか?」


 俺を見下ろすリエリアは、夢とは違って、全く殺意を感じなくて、俺は思わずそう聞いてしまった。

 いや、俺を絶望させるために、殺意を隠してるだけかもしれないけど。


「? なんで私がノルンを殺すのよ」

「え、いや、だって、それは……」


 不思議そうな顔をしながら、リエリアにそう聞かれた俺は、咄嗟に答えようとしたけど、言葉を詰まらせてしまった。

 いや、だってなんて言ったらいいんだよ。

 未来でそう決まってる、とでも言えばいいのか? 頭おかしいだろ。


「ノルンは、絶望してた私を、地獄から助けてくれた。そんな人を、私が殺すわけないじゃない」


 俺がそう思っていると、リエリアはさっきの俺の疑問が冗談ではなく本気で聞いたものだったと察したのか、優しくそう言ってきた。


「助けたって……俺、何もしてないだろ」


 リエリアを助けるために、強くなった。……でも、その助けたいリエリアは俺よりずっと強いし、俺は本当に何も出来てない。

 だから、俺は恥ずかしげもなく涙を流しながら、そう言った。


「ううん。そんなことないよ。もしも、ノルンが居なかったら、私は絶対壊れてたと思うもん。だから、大好きだよ、ノルン」


 すると、リエリアはそう言ってきながら、俺の体をゆっくりと起こして、唇を重ねてきた。……前世も含めて、人生初めてのキスだ。

 その瞬間、俺はリエリアのことを抱きしめた。

 俺が、さっき感じたモヤモヤ、そういうこと、だったのか。……死ぬのが怖いわけじゃない。ただ、俺は、リエリアと一緒に居られなくなるのが嫌だったんだ。

 そう思うなり、安心したのか、俺はそのまま意識を失ってしまった。


「ノルン、寝ちゃったんだ。……ふふっ、これからは、ずっと一緒。もう、私たちを引き離すゴミは居ない。……二人で、幸せになろうね、ノルン」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る