嫌、とかじゃなくて
あれから五年が経って、俺たちは十二歳になった。
うん。強くなったと思う。俺もリエリアも、めちゃくちゃ強くなったと思う。
いや、でもさ、俺思うんだよ。俺が強くなった意味ってあったか? って。
リエリアを守る気で強くなった。それはいいんだよ。……ただ、俺がこの家の奴ら全員を相手してもリエリアを守れるって思った時には、リエリアは俺の倍以上に強くなってしまってるんたよ。
……俺が殺される以上、俺なんかより強い方が安心して死ねるし、全然いいんだけどさ? なんか、男として、守りたい女の子よりは強くありたいなぁ……っていう欲望が出てきてしまったんだよ。
まぁ、元のスペックが違いすぎるから、仕方ないのかもしれないけどさ。
「ノルン? また考え事?」
そんなことを考えていると、真っ赤な赤い髪をゆらゆらと揺らしながら、少し前までは俺と目も合わせてくれなかった綺麗な赤い瞳で俺の事を見つめて、俺の推し、リエリアがそんなことを聞いてきた。いつの間にか、君付けも外されていて、あの時よりかなり距離が縮まったと思う。
いつも思うけど、見た目も原作に近づいてきて、どんどん可愛くなってきてるな。
「リエリアが可愛いなぁ、って思ってたんだよ」
俺はそんなことを思いながら、リエリアに向かってそう言って、ゆっくりと頭を撫でた。
「んっ、えへへ……の、ノルンも、か、かっこいいと思うわよ?」
こんな様子のリエリアを見てると、精神的な支えにはなれたのかな、とは思う。
もしもそうなら、嬉しいな。
「てっ、そ、そうじゃなくてね?」
「ん?」
俺が内心でそんなことを思っていると、リエリアは顔を真っ赤にして俺に頭を撫でられながら、何かを言おうとしてきていた。
「わ、私と一緒に、こんなところから、逃げない?」
そして、緊張した面持ちでリエリアはそう言ってきた。
「え?」
全く予想していなかった言葉を聞いた俺は、そんな間抜けな声が漏れ出てしまっていた。
え? 一緒に、逃げる? 俺が? リエリアと一緒に?
「……ノルンは、私と一緒なのは嫌?」
すると、何を勘違いしたのか、リエリアは悲しそうに、そう聞いてきた。
違う。そんなわけが無い。
「そんなわけない」
「じゃあ、一緒に逃げよ?」
俺がそう言うと、リエリアは改めてそう言ってきた。
……逃げる。……リエリアと一緒に、逃げる。……ダメだ。腐っても、俺の、俺たちの家は貴族だ。
逃げたって、面倒な追っ手が出てきて、追われるだけだ。
この家の奴らを皆殺しにするのも貴族の家を潰してるんだし、国に追われるんじゃないか? と思うかもしれないが、家を潰した場合は、大丈夫だ。
この家の奴らは腐ってるからな。
当然、色々な悪いことに手を染めている。
調べられれば、この家の奴らがリエリアに対して行ってきた虐待も全部バレる。
だから、大丈夫なんだよ。一旦は、見逃されるんだ。……次の事件を起こしたら、追われるけど、多分、今のリエリアなら、次の事件を起こす心配は無いと思う。
「……ノルン?」
「逃げるのは、ダメ、だな。……リエリアと一緒に逃げるのが嫌、とかじゃなくて、この家は貴族の家なんだよ。だから、ダメだ」
なんとか、俺はそう言った。
……今のリエリアや俺の強さなら、いくら追ってが来たところで意味なんて無いことくらい知ってるのに。
「……私が嫌なわけではないんだよね?」
「あぁ、当たり前だろ」
「……この家があるから、ダメなんだよね? こんな家が、あるから、ダメなんだよね」
「え? あぁ、まぁそうだな」
なんか、少し雰囲気がいつもと違う気がしたけど、俺はそんなリエリアに向かって頷いた。
実際、リエリアの言ってることは間違ってないしな。
こんな家があるから、リエリアは辛い思いを、苦しい思いをすることになったんだからな。
「……そう。じゃあ、私頑張るねっ、ノルン」
「お、おぉう」
すると、リエリアは俺が改めて見惚れるような笑顔でそう言ってきたから、俺は気圧されながらも、なんとか頷いた。
……うん。頷いたはいいけど、何を頑張るんだ? ……話の流れ的に、この家を潰すって話か? もしそうなら、是非頑張って欲しい。とっくの前に、覚悟なんて出来てるんだからな。
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