近づいてきてる

 俺の言葉を聞いたリエリアは、あれからずっと俺に抱きつきながら泣きっぱなしで、そのままリエリアが帰る時間になってしまった。


 リエリアが泣いているにもかかわらず、メイドは全く気にした様子を見せずに、リエリアを引っ張っていこうとしている。


「大丈夫。また会えるから」


 リエリアがまだ帰りたくなさそうにしているのを察した俺は、リエリアにだけ聴こえるように、小声でそう言った。……そう言うしか無かった。さっき守ると誓ったばかりなのにも関わらず。

 俺だってリエリアと離れたい訳じゃないし、むしろ、離れたくない。……俺が離れてる間に、どんな扱いをされているのかは想像に容易いし、想像するだけでも、本当に腹が立つ。

 ただ、少なくとも今の俺達にはなんの力もないし、ここでわがままを言う訳にはいかない。

 俺が知ってる話の通りならほぼ毎日会えるらしいし、ここで下手なことを言って、会えなくなるのは嫌だしな。



☆     ☆     ☆



 そして、そんな悔しい思いをしたリエリアと初めて会った日から二年が過ぎた。

 相変わらず俺の……俺たちの扱いは変わってないけど、リエリアは当然として、俺も二年前に比べてかなり強くなっていた。

 

「の、ノルン君、考え事?」

「いや、ちょっとボーッとしてただけだよ」

 

 リエリアとの仲も良好だと思う。……まぁ、まだちょっとぎこちないけど、ほぼ初対面だった頃よりは全然マシだし、目も合わせられるようになってきてる。うん、かなり前に進んでるはずだ。……目を合わせられても、直ぐに顔を赤くしたリエリアに逸らされちゃうけど、それも仕方ない。いや、むしろこのくらいの距離感の方がいいのかもしれない。

 最低でも後八年もしたら俺はリエリアに殺されるんだしな。


「はぁ、もう帰る時間ですよ。リエリア様」


 そうしてリエリアと過ごしていると、相変わらず態度の悪いメイドがため息をつきながらノックもせずに部屋に入ってきて、リエリアにそう言っていた。

 ちなみに、二年前のあの日、リエリアを無理やり引っ張って行ったメイドとは別人だ。


 あのメイドはあれから一年後、姿を全く見なくなったんだよ。

 正直理由は分からないけど、俺的には嬉しかった。

 俺たちは強くなったとはいえ、それはあくまで二年前と比べてだ。だから、まだ家の奴らに俺たちが強くなろうとしてることや実際に少しづつ強くなってることを知られる訳にはいかない。単純に、まだ勝てないからな。

 ただ、あのメイドくらいは殺せたと思う。……うん。あのメイドがまだここに居たら、絶対殺ってたと思う。マジで良かった。……それくらい、あの時は腹が立ってたからな。

 まぁ、もちろんと言うべきか、このメイドにも腹は立ってるぞ? でも、このメイドはまだマシなんだよ。あいつと違って、リエリアを乱暴には扱わないしな。……こんな態度だし、優しい訳でもないけど。

 どうせリエリアにこいつも俺と一緒に殺されるんだ。そう考えたら、まぁ、これくらいのやつは我慢出来る。

 ……なんだかんだ理由を並べたけど、リエリアが大丈夫って言ってるから、って理由が一番なんだけどさ。


「…………分かった。の、ノルン君、また明日ね」


 そう思っていると、リエリアは最初会った時みたいに泣いてはいないけど、俺と別れるのを名残惜しそうに、そう言ってくれた。


「あぁ、また明日」


 俺は内心で喜びを隠しながら、そう言った。

 リエリアが俺と別れるのを名残惜しそうにしてくれているのが嬉しいのはもちろんとして、もう一つ、理由がある。

 答えは単純だ。

 リエリアがメイドに対して一言「分かった」と言った時の声が原作にそっくりだったんだよ。冷たい、全てをどうでもいいと思うかのような声色だった

 近づいてきてる。リエリアが、俺を殺す日が。

 別に早く死にたい、なんていう願望があるわけじゃない。ただ、リエリアが俺を殺すということは、リエリアを冷遇してきた奴らも殺されて、リエリアは自由になれるってことなんだから、楽しみにするのもしょうがないだろ。




 そして、俺がそんなことを考えた日から五年が経ち、俺達は十二歳になった。

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