出会い
この世界での俺の生き方を決めた直後の事だった。
相変わらず、ノックも無しにメイドが入ってきたかと思ったら、その後ろには長い赤い髪をの幼女……いや、同い年のはずだし、少女、か? ……五歳児の基準がわからん。
取り敢えず、幼女ってことにしとくか。
その幼女はメイドに腕を引っ張られるようにして連れられて来られていたみたいで、部屋に入ってくるなり、メイドに投げ捨てられるようにして、幼女は俺の方に向かって突き飛ばされていた。
しかも、その幼女はもう片方の手で目を隠していたから、そのまま倒れ込むようにして、俺の方に転がってきた。
考えるまでもない。俺の推し……リエリアだ。
それを理解した瞬間、メイドに対して俺は狂いそうなほどの殺意を覚えた。
ただ、何も出来ない。今の俺は、ただの五歳児のガキだから。
そしてそのまま、メイドは部屋を出て行った。
あぁ、あいつ、絶対殺す。
「大丈夫か?」
そんな殺意を胸に、俺はクソゴミに転がされた天使にしゃがみこみながら、声をかけた。
「だい、じょうぶ……です」
すると、リエリアはか細い声で、目を隠しながら、そう言ってきた。
あぁ、ダメだ。あのメイドだけじゃない。リエリアの家のやつ、全員に殺意を感じる。
「大丈夫、だから」
強引すぎるかもしれない。
そう思いはしても、俺は、自分の行動を止められなかった。
リエリアにも、ちゃんと味方がいるんだと知って欲しかった。
だから、俺は優しく、リエリアの腕に触れて、目を隠している手をどかした。
「ッ」
「大丈夫。俺は、怖がったりなんかしない」
赤い瞳……それだけなら、良かったかもしれない。なのに、リエリアは赤い瞳に赤い髪、そんな容姿で生まれてきた。生まれてきてしまった。
だから、不気味がられた。
おかしな話だ。赤い髪に赤い瞳だからって、何が不気味なんだよ。こんなに、可愛いじゃないか。
もし、それが不気味なんだとしたら、前世の俺……いや、俺だけじゃない。前世の世界の大半の日本人が黒い髪に黒い瞳だ。髪と目の色が同じなだけで不気味がられるんだとしたら、日本なんて不気味な人間しか居ないことになるだろ。
「ぁ……こわく、ない?」
リエリアは目に涙を溜めながら、恐る恐る、俺にそう聞いてきた。
「怖い訳が無い」
「でっ、でもっ、お母様もっ、お父様もっ、他のみんなも、私の瞳は、不気味で、こ、怖いってっ……」
リエリアの目を見てそう答えると、リエリアは嗚咽を頑張って我慢しようとしながら、俺にそう言ってきた。
……自分の娘だろ! 不気味だと!? 怖いだと!? ……こんな天使に、よくそんな言葉が吐けるな。……同じ人間とは、本当に、思いたくもない。
「誰がなんと言おうと、俺は、君のその瞳を可愛いと思うし、好きだ」
そんな思いを俺は一切顔に出すようなことをせず、リエリアにそう言った。
すると、目に涙を溜めることにも限界がきたのか、リエリアは涙を零しながら、俺に抱きついてきた。
五年。
大人にとっては短い時間なのかもしれない。
ただ、子供にとっては、長い時間だ。
そんな長い時間、ずっと、生まれた時からずっと、味方は誰一人居らず、一人ぼっちだったんだ。
こうなるのも、仕方ない。
俺は五歳児相手に変な下心を持つこともなく、ゆっくりと、リエリアの頭を撫でた。
大丈夫。君が、俺を殺すその日まで、俺は君を守り続ける。
俺を殺す時、君は強くなってるはずだから。
その時までは、絶対に……
「絶対に、俺が君を守るよ」
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