推しの悪役に殺されるモブに転生した〜推しに殺されるのなら本望なので特に抵抗なんて考えずに、俺が殺されるまで推しを守ることだけを考えます〜

シャルねる

推しに殺されるのなら本望

「私を苦しめる人も、助けてくれない人も、もう、誰も要らない。……だから、貴方も、さようなら」


 真っ赤な長い髪に真っ赤な目で俺を見下ろす美少女がいる。

 あぁ、遂に、来たのか。


 そう思ったのを最後に俺の意識は遠の……くことはなく、むしろ、覚醒していった。


「あっ、えへへ、起こしちゃった?」


 夢、か。

 ……可愛い。夢となんら変わりがない。……唯一の違いは、俺を殺そうとしてこないことだ。

 いや、表に出さないだけで、裏では俺を殺す計画を立てているのかもしれない。

 いつでもいい。推しに、殺されるのなら、推しが殺してくれるのなら、本望なんだから。


「気にしないでいいよ」


 そう。気にしなくていい。いつでもいいんだ。

 とっくの前に、覚悟は出来てる。だから、いつでもいいんだ。





――――――――――――――――――――――――

 俺は昔、死んだ。

 クソみたいな死に方だ。その辺を歩いてたら、普通に、通り魔に刺されて死んだ。

 そんなクソみたいな死に方。

 ただ、クソみたいな死に方だとは思うが、未練は無かった。

 親も居ない。友達も居ない。一応働いてはいるが、それにやりがいを感じている訳では無い。

 最後にプレイしたゲームも俺にとってはいいエンドとはいえなかったが、クリアはしたし、本当に未練は無かった。


 悔いなく死んだはずだ。

 なのに、次に気がついた時、俺は五歳児くらいの子供になっていた。

 しかも、元いた世界とは違う世界の。

 

 なんだ? どうなってるんだ? ……なんで、俺は生きてる? ……それどころか、この体はなんだ? 

 手をグッパグッパとしながら、そう思考するけど、全く答えは出なかった。

 憑依? いや、違う。この体としての記憶がある。……だったら、転生? ……今になって、記憶が蘇ったのか?

 

 ダメだ。どれだけ考えても、答えが出ない。

 ただ、一つ言えるのは、俺はもうあのまま死にたかった。……悔いなんてなかったんだから。

 それに、どうやらこの世界の親には愛されてないみたいだしな。


「ノルン様、リエリア様がここに来ることになりましたので」


 そんなことを考えていると、メイドがノックもせずに、いきなり扉を開けてきて、そんなことを伝えてきた。

 ノルン・バーネストそれが今世の俺の名前だ。一応、今世の俺は貴族なのにな。まぁ、俺の扱いは雑にしろって俺の親にでも命令されてるんだろ。

 だから、それ自体は、別にいい。


「ま、待ってくれ。リエリアって、リエリア・フォレスターか?」


 ありえない。

 そう、頭ではわかってるんだ。

 なのに、気がついたら、俺はそう聞いていた。

 

「それ以外に誰がいるんですか? もういいですよね」


 すると、メイドは適当にそう言うなり、直ぐに部屋を出ていった。

 ……いや、俺の推しじゃん。最後にプレイしたゲームの。

 え? どういう……と言うか、リエリアが家にくるのか!? な、なんで?! リエリアの近くに俺……というか、ノルンなんて名前のやつ、いなかったはずだぞ? ……あ、でも、よく考えたら、バーネスト家の話は出てきてたな。

 ゲームでは直ぐに、リエリアに潰されてたから、あんまり記憶に残ってなかったけど。

 

 ……あっ!? 

 やばい。思い出したかもしれない。

 そういえば、公式設定で一応、リエリアには幼馴染みたいな存在がいたって話があった気がする。

 そいつは確か、リエリアと同じで、フォレスター家とバーネスト家によく思われてなかったって話だった気がする。そんな邪魔者同士だから、よく一緒にいさせられたとか。


 そのくせ、リエリアと同じ境遇のくせに、そいつはリエリアを自分より下だと言って、色々といじめていたらしい。


 ……うん。俺じゃね? 

 い、いや。落ち着け。少なくとも、今の俺には、リエリアをいじめた覚えなんてない。

 良かった。リエリアをいじめる前に記憶を思い出せてよかった。

 もし、そんなことの後に俺が記憶を思い出してたんだとしたら、俺はもう、自ら命を絶ってたと思う。


「はぁ。とにかく、俺はどちみち殺されるってわけね」


 ゲームの世界にモブとして転生した。しかも、殺されるモブにだ。

 こんな展開、もしも俺がラノベの主人公だったんだとしたら、死なないように強くなるんだろうな。

 ただ、俺は違う。強くはなりたいと思う。あぁ、強くはなるさ。リエリアをくだらない不幸……いや、悪意から守る為にな。

 そして、死を受け入れる。

 どうせ、俺は生きることに未練なんて無かったんだ。

 リエリアに……推しに殺されるのなら、本望だ。だから俺は、俺が殺されるまで、リエリアのことだけを考えて生きる。

 それだけだ。

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