第十九話 大騒動

「カンパニーの方から千鳥に厳重に抗議をしたのです! それで問題の動画はすぐに取り下げてもらえたのですが……」

「切り抜きとかいっぱい出回っちゃってるわね」


 深いため息をつきながら、スマホを操作する神南さん。

 彼女は千鳥のチャンネルがある動画サイトのページを開くと、すぐに俺と鏡花さんに見せた。

 するとすでにたくさんの切り抜き動画が乱立し、それぞれ数万再生以上は回っている。

 元の動画が消されたところで、これじゃほとんど意味がないな……。


「一度ネットに流出しちゃうと、消すのはやっぱ難しいんですね」

「うーん、ネット社会の怖いところなのですよ……」

「今のところ、おとなしくするしかないかもね」


 うんざりしたような顔をしつつも、冷静に告げる神南さん。

 鏡花さんもそれに同意するように、うんうんと頷く。


「ひとまず、カンパニーの方に来た問い合わせはこちらですべてシャットアウトしたのですよ」

「ありがとうございます」

「昨日から電話が鳴りっぱなしで大変だったのです。途中からすべて、AI対応に切り替えましたが」

「こんな小さなカンパニーに、そんな問い合わせが来るなんて……。予想以上ね」

「他人事みたいに言ってますけど、神南さん関連も多いのですよ?」


 釘をさすように言う鏡花さん。

 たちまち、神南さんの眼元が歪んだ。

 めんどくさいという言葉が漏れ聞こえてくるかのようである。

 目立ちたがり屋な部分もある彼女だが、ネットでネタにされることは望んでいないらしい。


「とにかく、二人ともしばらく目立たない方がいいのですよ」

「そうね、いっそのことしばらくダンジョンの中にこもる? 一般人はこないから快適よ?」


 規模の大きいダンジョンは、攻略完了までに長い時間がかかることも珍しくない。

 そう言った場合、討伐者たちは様々な物資を持ち込み数か月単位で泊まり込みをする。

 一昔前の登山家とか南極探検隊のようなイメージだろうか。

 当然ながらダンジョンの中には一般人が入れないため、人の目を逃れるという意味ではこれ以上ない避難場所だろう。


「でも、カテゴリー4に潜ったばかりですからね。あんまりきついのは……」

「あれ? あんた、意外とガンガン行く方じゃなかったっけ?」

「俺はいいですけど、那美が絶対許さないですよ」

「あー……」


 今回の遠征で、那美には心配をかけたばかりなのである。

 いくら世間からの眼をくらますためとはいえ、何週間も泊りがけでダンジョン攻略に行くとなれば黙っていないだろう。

 神南さんも怒れる那美の姿を容易に想像できたのか、腕組みをして困ったような顔をする。


「まあ、問い合わせとかは適当に無視すればいいだけなのでよっぽど大丈夫ですよ。流石に、ここまで押しかけてくるようなのはまれでしょうし」

「それもそうか。割とここ、田舎の方だしね」

「そういう意味だと、来栖さんの方が心配なのです。確か、彼女は明星企画所属でしたよね?」

「ええ、そうよ」

「あそこは拠点が大阪なので、野次馬が来るかもなのです」


 へえ、来栖さんって大阪を拠点にしていたのか。

 特に訛りなどが無かったので、さっぱり気付かなかった。

 しかし、そうなってくるといろいろと厄介だな……。

 大阪といえば、現在の日本の首都。

 当然ながら人口は俺たちの住んでいる街の比ではなく、妙な連中が来る可能性も高いだろう。


「いっそ、うまいこと勧誘してうちに来てもらうとかもありじゃない?」

「移籍してもらうってことですか?」

「そ。もともとあの子、明星企画でもちょっと浮いちゃってるみたいだし」

「そうだったんですか?」


 俺が聞き返すと、神南さんはどこかやりきれないような顔をした。

 そして、少し声を低くして言う。


「本人はあんまり言わないけどね。イデアの関連でいろいろあって」

「ああ、あの眼は驚異的ですもんね」

「そうそう。『どうしてこんな子に強力なイデアがー』とか嫉妬されたみたい」


 来栖さんのイデア『完全な眼』は、眼の全般的な機能を飛躍的に向上させる。

 その能力は絶大で、使い方次第では最強クラスといっても過言ではない。。

 嫉妬を招くというのも、十分に納得がいく。

 加えて、来栖さん本人は本来は戦闘にあまり向かない性格をしているのでなおさらだろう。

 勝手に人の物を宝の持ち腐れだと判断して怒るような人は、世の中たくさんいる。


「でも、カンパニーの移籍はなかなか難しい気はしますね。来栖さんは有力なインフルエンサーに成長しつつありますし、明星企画側も簡単には手放さないと思いますよ」

「それもそうか」

「あそこも規模は大きくないですからね。必死だと思うのです」


 そういうと、やれやれとばかりに肩を落とす鏡花さん。

 いい案だと思ったのだけれど、来栖さんの移籍にはかなりハードルが高そうだ。

 せめてあと何回か依頼を共にすれば、また話は違ってくるのだろうけれど。

 この状況で来栖さんを誘うのも、なかなか難しいし……。


「……ん?」


 ここで急に、鏡花さんのデスクにある電話がなった。

 鏡花さんははてと不思議そうに首を傾げる。


「妙ですね、指定の番号以外は全部AI対応にしたんですけど……」


 そう言いつつ、電話機に表示された番号を確認する鏡花さん。

 すると――。


「え、ええ!? 新沢さん!?」

「……誰ですか、それ」

「S級冒険者さんですよ!!」


 えええっ!?

 鏡花さんの言葉に、俺も神南さんも思わず目を丸くするのだった。

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前世が最強賢者だった俺、現代ダンジョンを異世界魔法で無双する! 〜え、みんな能力はひとつだけ? 俺の魔法は千種類だけど?〜 kimimaro @kimimaro

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