第五話 ダンジョンイーター

「よりにもよって、ダンジョンイーターじゃない!」


 巨大な芋虫を前に、引き攣った顔をする神南さん。

 ――ダンジョンイーター。

 気配を消して討伐者に迫り、下から一気に丸呑みしてしまう恐ろしい敵だ。

 しかも、かなりの強さを誇るのにカテゴリーに関係なく現れる。

 このことからこのモンスターと出会うことは一種の事故だとまでされていた。

 俺は魔力探知ができるので、ギリギリで姿を見られたが……厄介なことこの上ないな!


「来ないで!!」


 ダンジョンイーターのすぐそばで、悲鳴を上げる来栖さん。

 たぐいまれな動体視力の為せる業だろう。

 地下から突き上げてくる巨体をかろうじて回避したようだが、腰が抜けて動けなくなったらしい。

 クッソ、間に合うか……!?

 俺はとっさに身体強化を発動すると、来栖さんの元へと走る。


「ええい、しょうがない!! フレアボム!!」


 このままでは間に合わないと判断した俺は、とっさにフレアボムを放った。

 たちまち炎の弾が飛び、ダンジョンイーターの外皮が爆発する。

 

「グオオオォ!!」


 図体がデカいだけあって、ほとんどダメージは入らなかったようだった。

 しかし、注意を引き付けるには十分だったらしい。

 来栖さんの方を向いていた頭が、俺の方へと向けられる。

 ……うわ、こいつ思ったよりヤバいな!

 頭がこちらを向いたことで、ダンジョンイーターの姿がよりはっきりと見えた。

 芋虫というより、こいつはヤツメウナギか何かの仲間だろうか?

 無数の歯が生えた巨大な口が、何ともグロテスクで背筋がゾワッとする。


「よし!!」

「わっ!」


 ダンジョンイーターの醜悪さに息を飲みつつも、俺は来栖さんの身体を抱き上げた。

 そしてそのまま、一気に少し離れたところまで走り切る。


「大丈夫ですか?」

「た、助かりました……」

「じゃあ、ここで待ってて下さい」

「え?」


 ダンジョンイーターの元へ戻っていこうとする俺を見て、来栖さんは変な顔をした。

 そして彼女は慌てたように、俺を呼び止める。


「ま、待ってください! 逃げないんですか!?」

「だって、あんなのほっといたら危ないですよ」

「そりゃそうですけど……! 神南先輩だって撤退してますよ!」


 そういう来栖さんの視線の先では、神南さんがダンジョンイーターから逃げようとしていた。

 時折攻撃を仕掛けつつも、少しずつ距離を取って行っている。

 あれだけの化け物が相手だ、神南さんが戦わない選択をするのも無理はないか。

 しかし、俺にあいつを野放しにする選択肢はない。

 ここで放置して、あとで事故が起きたりしたら大変だからな。

 俺の魔力探知を潜り抜けるような奴だ、被害が拡大しかねない。


「神南さん、そいつを逃がさないように注意を引き付けてください! 俺がやります!」

「あんた、ダンジョンイーターと戦うつもり!?」

「もちろん! こんな危ない奴、さっさと倒しておかないと!」

「……しょうがないわねえ!!」


 半ば自棄になったように叫びつつも、神南さんは逃げるのを辞めた。

 あとは、彼女が踏みとどまっているうちに最大火力を叩き込むだけ。

 俺は掌を前に突き出すと、外気法を駆使しながら限界まで魔力を込める。


「インフェルノ!!」


 久々に放たれた紅の獄炎。

 炎の塊は呆気ないほど簡単にダンジョンイーターの身体を貫いた。

 たちまち巨体が真っ二つになり、汚れた体液が周囲に飛び散る。

 しかし――。


「まだ動く!?」

「こいつめちゃくちゃしぶといのよ! だから撤退――」

「カタストロフィ!!」


 両断されながらも蠢く巨体を見ながら、撤退を進言してきた神南さん。

 しかし俺は、間髪入れずに今度はカタストロフィをぶち込んだ。

 巨大な肉塊がたちまちのうちに焼き払われ、さらに暴風によって粉砕される。

 流石のダンジョンイーターもこうなってしまっては復活のしようが無く、周囲には焼け焦げた大地だけが残された。


「……ダンジョンイーターをゴリ押しって、とんでもないことするわね」

「でも、こうしておかないと二次被害が出ますし」

「言っとくけど、普通はトップチームでも戦いを避けるような相手なのよ?」


 そういうと、神南さんはやれやれと肩をすくめた。

 確かに再生力の高い難敵ではあったが……。

 神南さんぐらいの火力があれば、再生しなくなるまで切り刻めるのではなかろうか?

 俺が少し怪訝な表情をすると、彼女は付け加えるように言う。


「もうちょっと自分の強さを自覚してよ。ほら、来栖なんてびっくりしすぎて固まってる」


 そういうと、顎をしゃくって来栖さんの方を示す神南さん。

 彼女の言う通り、来栖さんは俺の方を見て完全に石化してしまっていた。

 やがて彼女は瞼をごしごしと何度も擦ると、いきなり叫び出す。


「うっはあ!! 神南先輩もヤバいですけど、桜坂先輩はもっとマジヤバじゃないですか!」

「ま、まあ……強い方なのかな?」

「強い方どころじゃないですって! 将来のS級間違いなし!」


 俺の手を握りながら、わーわーと盛り上がる来栖さん。

 やっぱり、俺の能力はこの地球に置いて頭一つ抜けているらしい。

 まぁ、ナイトゴーンズの若手エースだった神南さんより強い時点で確定的ではあったのだが。

 それにしたって、まあ凄い騒ぎようだ。


「このぐらいの反応が普通なのよ、普通」

「そうなんですか?」

「そうよ!」

「そうです!」


 二人そろって声を上げる神南さんと来栖さん。

 ……俺、そんなにヤバいことしたかなぁ?

 どうにもピンとこない俺は、首を傾げるのだった。


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