第二十四話 俺の魔法は千種類
人の願望を具現化させる能力――イデア。
その性質ゆえに、どれほど優秀な討伐者であろうと手にできる能力は一種類。
それが世界の定めた法則であると、誰もが信じていた。
自他ともに認める天才討伐者の神南紗由とて例外ではない。
そうであるからこそ、彼女は自らに与えられた炎の能力を徹底的に磨き上げてきた。
鉄を蒸発させるほどの火力は、一朝一夕に産み出されたものではない。
しかし――。
「何なのよ、これは……!!」
火、水、風、土……。
両手から次々と様々な種類の攻撃を繰り出す天人。
そのあまりに異様な姿を見て、彼女の常識は崩壊しかかっていた。
――〇●〇――
「ウィンドショット! フレイムショット! ウォーターショット!」
身体の一部をコウモリに変え、攻撃を仕掛けてくるフェムドゥス。
俺も負けじと攻撃魔法を連打し、さながら赤い霧のようなそれらを撃退していく。
コウモリの数は無尽蔵に思えるほどだったが、それでも少しずつ数が減り始めていた。
「シャドウショット! ホーリーショット! ディメンションカット!」
五大属性から光と闇、さらには特殊属性に至るまで。
ここぞとばかりの大盤振る舞いである。
どうせもう、神南さんには力を見せると覚悟を決めたのだ。
ここで出し惜しみする必要はまったくない。
こうして詰まることなく魔法を繰り出し続ける俺に、いよいよフェムドゥスの顔色が悪くなる。
「ば、馬鹿な!? 貴様、どれだけの能力が使えるのだ!?」
「言っただろ? 千種類以上」
「そんなバカなことがあるか!」
先ほどまでの余裕は崩れ去り、口調も乱暴になってきているフェムドゥス。
流石に、眷属のストックが尽きつつあるようだ。
ちなみに、フェムドゥスはまったく信じていないようだが俺が使える魔法は本当に千種類以上。
それも正確に数えたわけではなく、実際にはたぶんもっとたくさん使える。
魔法使いにとって、手数の多さはすなわち力。
いざという時に切れるカードが多ければ多いほど良い。
前世のヴェノリンドでは、一流の魔導師ならば数百種類の魔法が使えるのは当たり前だった。
まあ、それを基準にしても俺はかなり多い方だけど。
「そろそろ終わりにするか。お前、ぶっちゃけ能力と引き換えに耐久がめちゃ低いだろ?」
「ぐっ! そんなことは……!」
「首元に傷が出来てるぞ。普通の吸血鬼なら、その程度で傷がつくわけない」
魔法の余波で弾き飛ばされた小石。
それがフェムドゥスの肌を切り、ほんのわずかにだが血が流れていた。
それなりに位の高い吸血鬼が、この程度で傷つくなんて普通はあり得ない。
仮に傷ついたとしても、すぐに再生して傷跡も残らないだろう。
同じ技は二度と通用しないという特異な能力を得る代償として、耐久が低いと考えるのが自然だ。
「勘がいいようだな! だが、そう簡単にはやられぬぞ!」
そう叫ぶと、フェムドゥスの身体がコウモリとなって分散した。
さながら赤い嵐のような様相を呈したコウモリの群れは、勢いよくこの場から飛び去ろうとする。
こいつ、分が悪いと判断して逃げを図ったな!
位の高い吸血鬼の癖に、なかなかせこいやつだ。
「いくら貴様でも、こうなった我を捕まえることはできぬ!」
「甘く見るなよ。ディヴァインウォール!!」
「ぐおっ!?」
縦横無尽に宙を舞い、俺から逃げようとしていたコウモリの群れ。
その進路上に突如として半透明の光の壁が出現した。
――光の上級魔法ディヴァインウォール。
限られた時間とはいえ、大型モンスターの侵入をも阻む結界はコウモリなど通すはずがない。
呆気なく壁に跳ね返されたコウモリの群れは、行き場を失い空洞の中で渦を巻く。
「おのれ……結界まで使えるのか……!」
「グラビティボール!!」
うねるコウモリの中心に、続いて黒い球状の魔力を撃ち込む。
――土の中級魔法グラビティボール。
土の魔力によって強大な引力を発生させ、あらゆるものを吸い込む魔法だ。
実際のところそこまで引き寄せる力は強くないのだが、コウモリのような小型のモンスターに対しては効果絶大。
その様はまるで、掃除機が埃を吸い込むかのようだ。
さらに身動きの取れなくなったコウモリたちへ、再び次から次へと攻撃魔法を撃つ。
「シャイニングレイン! カオスイーター! ソウルフレイム!」
「ぐおおおぉ……!!」
ダンジョン内の豊富な魔力を使って、機関銃よろしく打ち出される魔法の嵐。
身体に負担はかかるが、外気法を使う限りは魔力切れの心配はほとんどなかった。
これを受けて、コウモリ状態のままではまずいと判断したのだろう。
群れが寄り集まり、フェムドゥスの肉体が瞬時に再構築された。
「こうなれば、貴様を潰すのみ!!」
怒りに顔を歪め、こちらに向かって一気に突っ込んでくるフェムドゥス。
翼を折り畳み、風を斬って迫るその姿は、さながら弾丸のよう。
しかし、こうやって本体が突撃してきてくれるのはかえって好都合だ。
「かかったな! これで終わりだ!」
俺はミスリルのナイフを抜くと、周囲の魔力を刃先へと集中させた。
周囲の膨大な魔力が一か所に集積し、ナイフ全体が真っ白に輝く。
それはさながら、太陽の光を凝縮したようだった。
その切っ先を向かってくるフェムドゥスに対して、十字に切る。
「ホーリークロス!!」
「うぐあぁっ!!!!」
あまりの魔力に耐えかねて、砕け散るミスリルのナイフ。
同時に白い光が放たれ、フェムドゥスの身体が呑み込まれるのだった。
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