第十一話 魔法改良

「ちっ! 投げてくるのか!」


 再生し、再び動き始めた木製ゴーレム。

 やつは近くに転がっていた石を手にすると、こちらに向かって思い切り投げつけて来た。

 その機械的な手の動きは、人というよりは投石器か何かに近い。

 ――ビュンッ!!

 石の礫が弾丸さながらに宙を切る。

 こりゃ、ちょっとしたマシンガンみたいなもんだな!


「アースウォール!」


 とっさに土魔法で壁を作るが、礫が何発か身体に当たった。

 しかし、流石は五百万円の機動服。

 付与魔法を掛けていたこともあって、大した衝撃ではない。

 鏡花さんが銃弾だって防ぐと言っていたが、まさしくその通りの性能だ。


「なかなか面倒だな」


 身体が木でできているので、火属性ですぐ焼き尽くせると見込んだのだけど……。

 水分をたっぷりと含んでいるのか、思いのほか耐久性が高い。

 もちろんインフェルノを使えば行けるだろうが、それだと魔力の効率がなぁ……。

 他の上級魔法ならもう少しマシだが、それだって十発も撃てないので非効率だ。

 上級魔法一発と中級魔法五発なら、後者の方がマシと言えるほど上級は魔力を食う。


「……そうだ、それなら」


 魔法を複数組み合わせて、上級魔法並みの威力を出せばいい。

 それでも十分に魔力的にはお得だ。

 さっそく、ヴェノリンドの知識と地球の知識を組み合わせる時が来たのかもしれない。

 差し当たっては、火属性のパワーアップからやってみようか。

 何だかんだ言って、やはり木のは火が有効だろう。


「ファイアランス!! ウィンドショット改!!」


 放たれた炎の槍に、風の塊をぶつける。

 たちまち、それまで赤かった槍が青白く燃え上がった。

 ――ウィンドショット改。

 俺が即席で作った空気の塊ではなく酸素の塊をぶつける魔法である。

 これによって炎の槍の温度は、一気に急上昇したはずだ。


「おっと! 危ないな」


 大幅に威力を増した炎の槍は、呆気ないほど簡単にゴーレムの上半身をぶち抜いた。

 勢い余って近くの大木に衝突し、そのまま焼き尽くしてしまう。

 その熱量はすさまじく、十メートルほどもある大木がものの数十秒で炭になった。

 ……我ながら、ちょっとヤバい魔法を生み出してしまったかも知れない。

 威力は流石にインフェルノよりも低いと思うけど、効率は格段に上だ。


「……まあいいや、とりあえず一万円っと!」


 いったん思考を切り替えると、俺はすぐに動けなくなっているゴーレムに近づいた。

 そしてその胸に手を差し入れると、強引に魔石を取り出そうとする。

 そうはさせまいと根が絡みついてくるが、機動服で強化された腕力は簡単にそれらを引きちぎった。

 たちまちゴーレムの身体から生命力が失われ、全身に絡みついていた苔や葉が枯れていく。


「ふぅ、一休み」


 額に浮いた汗をぬぐい、ペットボトルの水を飲む。

 初めてにしては、そこそこスムーズにやれたほうかな。

 中級のファイアランスが一発に、下級のウィンドショット改が一発。

 今の俺の魔力量だと一日に二十回ぐらいは狩りができそうだ。

 ふふふ、夢の月給三百万がちょっとずつ見えてきたぞ……!


「あと一体ぐらいは倒していくか」


 たぶん、あと一体分ならいきなり持ち込んでも何とか誤魔化せるだろう。

 最悪、魔石を一つみせたところで鏡花さんの反応が渋ければしばらく持っていたっていいのだし。

 こうして俺は次なる相手を探して遺跡の中を歩きだすが、ふとあることを思い出す。


「そう言えばこの遺跡、下もあるのかな?」


 この場所の元となっているであろうシュルツの森の古代遺跡。

 そこには、あまり知られていないが小さな地下倉庫が存在する。

 その奥にはちょっとしたお宝があったはずだが、このダンジョンにもあるのだろうか?

 ここまで緻密に再現されているなら、ワンチャンあるかもしれない。


「えっと、ここの壁だったか?」


 微かな記憶を頼りに、遺跡の壁を探索する。

 確か、一つだけ石組みの大きさが明らかに違っていたはずだ。

 そこを押すと床の石畳が移動し、地下への階段が現れるという仕掛けである。

 突き当りの周辺だったはずだけど……あった!!


「お、押せるぞ」


 石を押し込むと、すぐにゴトッと何かが動くような音がした。

 そしてズルズルと重々しげな音を響かせながら、石畳が動き始める。

 仕掛けそのものが機能しない可能性もかなりあったが、とりあえずしっかりと作動してくれた。

 あっという間に、ぽっかりと地下への入り口が姿を現す。


「けほっ、ひどい臭いだな。でも……!」


 地下から漂ってきた黴の臭い。

 だがこれは、とても良い兆候であった。

 この場所にしばらく誰も入っていないという何よりの証拠である。

 ……これは本当にひょっとしてひょっとするかもしれないぞ。

 ダンジョン産のアーティファクトというのは、ランクの低いものでもかなりの値が付いたはずだ。

 階段を降りる足取りが、自然と軽くなる。

 そして――。


「あった!」


 薄暗い地下の倉庫。

 その中にタルや木箱と共に、古びた宝箱が置かれていた――。

 

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