023:帰宅
「なんでこんなところに、」
「なんでって……」
オスクから離れて問うと、オスクは手に一枚の封筒を持って「これだよ」こちらに見せてくる。
ご丁寧に封蝋までされているその封筒の裏面には、送り元の名前が書かれていた。――エルマー・ハイネン、と。
「……父上、から?」
「そう。俺も一時期隣に住んでたからな」
本職はパイロットだから、手紙くれたんだろ。と言う。
「賞金首が何言ってるんですか……」
そう言うと、本人は「だって、」と続けた。
「あれは仕事上で必要になったから賞金首になったわけ。それももうじき……」
何かを言いかけようとして声を小さくしていくオスクに、私は首を傾げる。本人は、何でもない。と首を横に振った。
「それよりも、気をつけろよ」
オスクからの突然の忠告に、目を白黒させる。それがどういう意味なのか分からない。という顔をしていると、頭に軽く手を置かれた。
「――まだお前を狙うやつはいる、ってことだ」
忠告はしたからな、と言ってオスクは路地裏の奥へと消えてしまった。それを見て、明るい大通りへと戻る。
「……こんなに、」
――眩しかったっけ。
目を細めて、人混みに隠れるように、歩きなれた道を通り抜けた。
……こうして歩いてみると、故郷なんだな。と実感する。
人工的に作られた空のさらに上を、パイロットが乗る機体が小さく通り抜ける。音はしないが、昔から遠くを飛ぶ機体を眺めるだけで心が躍ったものだ。
数十分歩けば、住居区に入る。賑わっていた商店街とはうってかわって静かな住居区は、視線も何も感じない。
心を落ち着け、対峙する勇気を沸かせるのには、十分すぎるほどだった。
目線を上げ、この住居区で一際大きい建物を見る。
小高い丘の上にある、豪邸の様な住居。周りにも住居は立ち並ぶが、一番目立つ建物。
「……帰って、きたのか」
それが、帝国領域内での商売で成功し、爵位を貰ったハイネン家の大豪邸。
――私の、生家である。
家の門の扉を開け、ゆっくりと庭に入る。
セキュリティのための高い塀の中、綺麗に整えられた芝と低木が出迎える。人は――今のところ、外には居ないようだ。
広い庭を通り抜け、家の玄関の前へと到着してしまう。ここまで歩いて来たはいいが、家へと帰る気は無かった。……が。
「少なくとも、父上には話を聞いておかないとな」
ドアノブへと手をかけ、開こうとした時。勢いよく内側から扉が開いた。扉が額に当たり、痛みで声がもれる。すると、扉を開いた女性が、こちらを見て大声を上げた。
「す、すみません……ってテオドール様!」
おかえりなさいませ!という声に、片手をあげて応対する。声を出す元気は、痛みのせいであまりなかった。
「何年経ったのでしょうか、テオドール様がお屋敷を出て……」
懐かしがるのは、扉を開けた女性。実家であるこの屋敷のお手伝いさんの一人だ。
家に招き入れられ、扉をくぐる。昔ながらの豪邸の割には、中は近代的な作りの家に、変わってないな。と思う。
「今日は旦那様に会いにお帰りになられたんですか?」
女性は、そう言ってにこやかに笑う。その用もあったが、一番は――。
「兄上は居ますか?」
「ディーデリヒ様ですか? あの方は今、数日後の任命式の準備に忙しく……」
夕方には戻ってくる予定となっております。という女性に、そうだよな。と一人思う。
大切な帝国の軍事的な任命式だ。へまをするわけにはいかないと、予行練習でもしているのだろう。
少しでも会って、祝いの言葉だけでもかけたかったのだが……居ないなら、仕方ない。
女性は、少し落ち込んだ私を見て提案をしてきた。
「旦那様と奥様ならご在宅ですよ、お会いになりますか?」
「父上と母上か……」
母上はともかく、父上には聞きたいこともある。
遠回しにするよりは、今。この時間の無いタイミングで話しかけたほうが、用件だけで済むだろう。
「そうですね、父上に会わせてください」
「! はい、この時間でしたら執務室でしょう。ご案内しますね」
――吉と出るか、凶と出るか。……それにしても。
若干の違和感を感じながら、私は父上――ハイネン家当主に会う覚悟を決めた。
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