022:もう一本の平行線と再会

 ――帝国領というのは……窮屈だ。そう思い始めたのはいつだっただろう。少なくとも、物心ついたときにはそう思っていた気がする。

≪ギリナ星系ニ、到着シマシタ≫

 星間航行を繰り返し、途中で到着したのはギリナ星系。ここは、帝国領と独立勢力圏内の境。ここから星間航行をガルア星系方面へ実行すると、帝国領へと入る。

≪そこの輸送艦、止まりなさい≫

 次の星系へと移動しようとしたとき、メッセージが入る。この星系を守っている星系警察からのメッセージらしい。

 従わないわけにもいかないので、ゆっくり速度を落とし、機体の姿勢維持のためのエンジンだけ起動している状態に持っていく。

≪ご協力、感謝します≫

 その後、二、三機に取り囲まれ荷物検査や質問を受けた。――大方予想はついているが……。

「もしかして、パレード対応の厳戒態勢ですか」

 そう聞くと、質問を投げかけた星間警察の人は、ため息交じりに答えた。

≪そうなんですよ、帝国領側からの依頼でね。お兄さんもしかして、参加されるんですか?≫

「……まあ、身内が出るので、一応」

 そう答えると、星間警察の人は≪そうなんですねー≫と明らかに疲れている様子だった。

 しばらくしたのち、周りを取り囲んでいた星間警察の機体が離れる。どうやら、検査が終わったようだ。

≪ご協力ありがとうございましたー≫

 星間警察のメッセージを横目に、次の星間航行を実行する。

 ガルア星系――フィニアステーションまで、もう少し。


 * * *


 ――傭兵集団『マーシナリー』、空母『ヴァルキリー』。

 団長であるエドガー・グラウンは、届いた二通のメッセージに頭を悩ませていた。一つは帝国領内の有名派閥、ハイネンカンパニーから。もう一つは――。

「よりによって、あいつからも貰うとはな」

 ――オスク・ハースキヴィ。懸賞金、二十億のその人だった。

「いや、一通目も大概だったが」

 二つのメッセージを並べ、見比べる。内容としては、どちらも変わらないのが、余計厄介だろうか。

 数分、数十分。数時間悩んだ末、片方のメッセージを消去する。そして、片一方に返信を送った。

「おい、お前ら。次の行き先は……」

 ――決めたのなら、動くしかない。

 船内にいる全員に声が響くように、団長として告げる。

「ガルア星系、フィニア・ステーション」

 罠に誘われていると確信をどこか持ちながらも、動かずにはいられない。

 それが、かつて共闘した遠い仲間のためなら――なおさら。

「パレードに、参列するぞ」

 ――近々開催される、帝国軍任命パレードに参加しろ。

 ――それが、唯一。

「――パイロットが、パイロットとして生きるために、」


 * * *


 ……ガルア星系に到着したとき、何か違和感を覚えた。

 普段、静かなこの星系に、人が多く集まっているような気がするのだ。

 数多の空母、機体、そしてパイロットではない、一般の人を乗せた旅客機。

 こんなに賑わっているガルア星系を見たのは初めてかもしれない。――帝国軍の任命記念パレードはこんなにも盛大だっただろうか。

 フィニア・ステーションの近くまで行き、着艦申請を出す。思ったより早く申請が通り、その十五番パッドに停めることができた。軍の任命記念パレードだからだろうか。デッキまで上がり、街中に出る扉を開ければ、そこは活気に満ちた商店街が広がっていた。

 パイロットスーツのヘルメットだけを脱いで歩いていると、チラチラと見てくる観光客や、商店街の店主たち。

 ――さっさと、通り抜けてしまおう。

 そう、人混みに紛れて路地裏近くを通り抜けた時だった。

 腕を引かれ、路地裏に引っ張られる。声を上げようとしたとき、耳元で声がした。

「静かに」

 案外冷静なその声の主を、私は――知っていた。

 つい最近、聞いた声だった。

 暴れようとしていたのを止め、後ろを振り返る。案の定そこにいたのは、赤髪に白いメッシュの男性。――オスク・ハースキヴィ、その人だった。

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