019:計画実行と予想外と
翌日。
地上に向かって掘り進めていた道を、後ろに気をつけながら登っていく。
当然、階段などはなく獣道のようにはなっているが、広さも壁もあるので幾分か快適に登ることができた。
「ここを掘れば、開通だ」
先頭を歩いていたペトリさんが立ち止まり、そう告げる。後ろから、数人の採掘作業員が先頭まで登ってきて、そっと土を払い岩を移動させる。
――暗いようで明るい、外の景色だ。
目までを地下から出し、ペトリさんが様子を伺う。
「……は?」
一気に外に出たのを見て、後ろで待機していた私たちは顔を見合わせた。
「おい、大丈夫だ。……ロボットども、壊れてやがる」
慌てて、外に出る。と、報告通り壊れたロボットがあちらこちらに散乱していた。
「なんで……、!」
私が外に出て、事態を確認したと同時ぐらいに聞こえてきたのは――銃声音。方角からして、研究棟だろうか。
「イレギュラーばっか起きるな、おい」
最後に上ってきたアルヴィさんが、混乱した状況を把握して呟いた。
「おい、お前ら!一度牢屋に戻っておけ!」
――ここから先は俺と、ペトリと、テオドールで行く。
その声に、他の採掘作業員は混乱しながらも元の道を戻っていった。それを確認してから、研究棟の方へ。
……途中、横目に自分の機体の横に、一機。機体が停まっているのが見えた。
二人が先を行き案内するので、置いて行かれないように二人の元へ戻り見えたものを報告すると、
「他のパイロットか……」
「感じからして、十中八九。海賊ですかね」
アルヴィさんとペトリさんがそう言葉を交わす。
慎重に歩いていれば、目の前には研究棟。恐る恐る中を覗いてみれば、そこには一人の長めの赤髪の男性と、倒れたマクファーレンさん。
――何が起きた。……いや、それよりもあいつは――、
「、さん……?」
声が、軽く漏れる。
分厚い壁で中にいる人はもちろん、近くの二人にさえ聞こえなかったレベルの声だったにもかかわらず、赤髪の男性は、こちらを向いた。
セミロングの赤に、一房だけ白に染めた髪色。
「誰だ、と思ったら、」
古い知り合いを見るような、友人に向けるような目。俺が捕まえようとしている相手。
――オスク・ハースキヴィ、その人だった。
「名高い海賊様が、こんなところへ何をしに?」
ペトリさんが、私たちの一歩前に出て相対する。その表情は、とても険しいものだった。
「なぁに、ただの依頼さ」
銃を片手に、こちらを振り向いたハースキヴィは、何かに気が付いてこちらに向かって銃を投げた。
「……殺してはいねぇよ、中身は麻酔弾だ」
それが、依頼主の要望だったからな。と言うと、その場から出ていこうとするハースキヴィを、今度はアルヴィさんが引き留めた。
「誰の依頼だ」
「俺は個人的に、女性に頼まれただけだ。採掘作業員のな」
採掘作業員で、女性の知り合いは少ない。ましてや、この状況を知っていそうな女性など、一人だ。
あの子か、と思考を巡らせていると、ハースキヴィが私の方へと近づく。
あと人一人分ということろで身を屈ませて私の耳元へと、ハースキヴィが囁く。
「ハイネン家も大変だな、」
その言葉に、私が目を白黒させている間に、ハースキヴィはどこかへと行ってしまった。そして、それと入れ違いで来る星間警察の署員。
「こちらがアントニー・マクファーレンですね。……午前十時五十三分、拘束完了しました」
……監禁と、生物保護法違反――違法な猫のクローン生成等で拘束されたマクファーレンさんが星間警察の船へと連れていかれるのを私は眺めていたが、一つ、警察へと声を掛ける。
「すみません、クローン生成された猫って――」
その一言で、星間警察の人は言いたいことが分かったらしい。
「すまない、違法クローン生成された生物は残らず殺処分しなければいけないんだ。純粋種がいなくなる可能性もあるからね」
それに、さすがに無理か。と肩を落とすが、星間警察はこう続けた。
「……しかし、我々もすべてを管理できているわけじゃない。一匹ぐらいいなくなったところで、他のクローンと混ざってしまえば、それは見分けがつかないんだよな」
片目を開き、こちらを見てくる星間警察に、お礼の言葉を述べてから、中へと入る。三〇三の部屋に入れば、白猫はこちらを見て一鳴きした。
「来るか、『アルブム』」
呼べば、さらに一鳴きしてこちらへと寄ってくる。しゃがめば、白猫――アルブムは肩に飛び乗ってきた。
他の猫も、アルブムが去ることを理解したのか、一鳴きする。それに答えるように、アルブムが一鳴きすると、他の二匹はその場で霧散してしまった。
――後に、星間警察に聞いた話だが、違法クローンされている生物は消えやすい、らしい。それこそ霧散するように。
……部屋を離れるときに、もう一鳴き。聞こえた気がした。
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