018:脱出計画
一通り外の情報を話し終えると、白髪の男性は「そうか、」とだけ言う。
「採掘作業員の女性はまだここに入ってきていない。……女性だから難を逃れているか。あるいは――」
白髪の男性が、ふむ。と考え込むのと同時に、「あの、」と質問をしてみる。
「皆さんはどうしてここに……?」
「あ? ああ、ここにいるやつらは全員、採掘作業員なのは知っての通りだが……俺らは少し訳あり、でな」
「訳あり?」
と、そう私が尋ねると、白髪の男性は、自身の後ろにあるツルハシを見せてくれた。
見たところ、つるはしはボロボロで、使い物になりそうにない。……これが、訳ありということだろうか。
「じいさん、それじゃ分かんねーだろ」
考えていると、別なところから声が聞こえる。声を発したのは白髪の男性の右隣の牢屋にいた男性だった。
「誰がじいさんだ! まだまだ若いわ!」
「五十過ぎてりゃ俺らにとっては爺さんだよ!」
壁越しに喧嘩する二人を眺めながら、私は苦笑した。
しかし、放っておくといつまでも喧嘩していそうなので二人の合間を見て質問を投げかけることにした。
「すみません、まだお名前聞いてなかったですよね」
「あ? あー、俺はアホラ。アルヴィ・アホラって言う」
白髪の男性はさらに隣を指して、続けた。
「で、隣の小僧がペトリ・アホラ。一応俺の息子だな」
「一応とは何だ、一応とは!」
年齢的には、私と同じくらいだろうか。金髪の男性――ペトリさんは、「で、」とこちらを促してくる。
「私は、テオドール・ハイネンです」
それに、アホラさん――アルヴィさんは、少し考えて、こちらを驚いたような目で見てきた。
「ハイネン、って。お前さん――」
そんな声が聞こえてきたので、私は首を横に振る。……今は、関係ない。と。ペトリさんの方は、気づいていないようだった。
アルヴィさんは、一つため息をついた後、私に向かって口を開いた。
「とにかく、俺らもそろそろここから出て普通に採掘してぇ。……手伝ってくれるか、」
「もちろんです、私も早く出たいですし……」
健康面も心配ではあるが、一番心配なのは精神面だ。
ここの人々は牢屋に入ってから数カ月は経っているだろう。アルカナリア・ステーションでは工業用のダイヤモンドが不足するくらいだ。それに――。
「なにより、足踏みしている場合でもないので」
オスク・ハースキヴィを捕まえるためだ。ここで止まっているわけにもいかない。
「よし、それなら話が早い。……脱出するぞ、」
* * *
脱出の準備はこうだ。
今採掘に出られる作業員は、三手に分かれている。ロボットの指示通り採掘する人々、ここに残る人々。そして――、
「そして、三つめが地上に向かって掘り進めている奴ら、だ」
「地上に?」
疑問を投げかけると、ペトリさんが答える。
「地上に向けて掘っていき、場所を確認して、救援要請するためだな。長い坑道の脇道から掘っているから、どこに出るかわからねぇ。そのための確認作業だ」
聞けば、今いるこの牢屋があるのは、宿舎と研究棟の地下あたりになるらしい。研究棟とは、ここに最初に訪れた時に、マクファーレンさんに会った建物でもある。
「星系警察でも、宇宙海賊でも、補給に訪れていれば御の字。他のパイロット連中もいたらラッキーぐらいだ」
アルヴィさんがそう補足すると、牢屋の近くで声が聞こえてくる。
静かにしていると、ぼろぼろの作業服を着た、十数人の採掘作業員の姿が。
「お前ら、おつかれ」
アルヴィさんがそう声を掛けると、一団は「お疲れ様っす!」と、疲れているだろうに、元気よく答える。やはり、一番の年長者なのだろうか。帰ってきた皆を見渡しても、アルヴィさんほど年季の入った男性はいない。
牢屋内が騒がしくなってから数十分後、静かに帰ってきた一団もいた。牢屋内の騒がしさで、帰ってきた一団の音はかき消されている。
一団は、アルヴィさんのもとへとすぐに行くと、小声で何か話し始めた。それに対し、数度頷いた後、一団は騒がしい場所へと混ざっていく。
「……今のは、」
「ああ、この脱出の要の奴らだな」
アルヴィさんが、私の呟きに答えると、全員に聞こえるように静寂を促す。それから、こう告げた。
「ドリル班が、見つけた。決行は明日。幸運なことに、パイロットも一人いるから、出られたら俺とペトリで助けを呼びに行く」
静かになった牢屋内に、アルヴィさんの声が響く。
「……戻ってくるまで、気合い入れろよ」
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