017:再訪
目標レーダーに従い、高速航行モードで重力圏、大気圏。そして成層圏までくれば、ボーフォル・ベースキャンプは目の前。おそらく問題が起こっている。にも関わらず、ここまでの航行は順調そのものだった。
パッドに降り立っても、人は見当たらない。案内ロボットが複数体上空を飛んでいるだけだ。
――私は、迷っていた。
マクファーレンさんに会うべきか、ダイヤモンドを買い付けた女性に会うべきか。
重要度で言えば、マクファーレンさんなのだろう。……状況が、状況でなければ。
ボーフォル・ベースキャンプの男性たちが、どこに行ったのか。
マクファーレンさんに直接聞けば早いのだろうが、原因そのものだった場合を考えると危ない橋は渡りたくない。と、なると女性を探したいのだが。
「この広い地上基地から人を探すのは骨が折れるな……」
頼りになるのは、案内ロボットのみ。しかし、どこまで頼っていいのかも分からない。
一先ず、マクファーレンさんにそれとなく話を聞こうと、いつの間にか目の前に待機していたロボットにマクファーレンさんの元まで案内を頼むことにした。
……移動を始めてから、約十分だろうか。
マクファーレンさんはこの間の部屋には居ないようで、別の建物へと案内された。
その建物はこの基地では少し浮いた、地上四階建ての建物。
案内に誘われ中へと入れば、そこが宿舎だということは分かった。
――宿舎の中には誰も居らず、しんっと静まり返っている。
これはおかしい。と後ろを振り向いてみれば、そこには案内ロボットがもう一体。
「は、っ!」
振り向いた瞬間に、後頭部に衝撃が走り、私はそのまま意識をブラックアウトさせた。
* * *
次に目を覚ましたのは、見知らぬ鉄製の檻の中。牢屋、と言った方が近いだろうか。地面が冷たいところや岩壁からしてここは地下だろう。
牢屋の中には、私一人。辺りを見渡せば、一つ一つの牢屋に一人ずつ収容されていた。服装からして、本来ここで働いていた住人――ボイコットしたと思われていた採掘作業員たちだろう。ざっとその数、四、五十人にはなるだろうか。
向かいの牢屋に入れられていた男性が、目を覚ました私に気づいて声をかけてきた。
「おー、起きたか若造」
白髪の男性はそう声を掛けるなり、床をすべらせるように一つ、飲み水の入ったボトルをくれた。
「今は冷えるが、喉は乾く。……ただ、ほどほどにな」
「ありがとうございます、」
そうお礼を言えば、白髪の男性は「若造、」とこちらを気にしている様子だった。
「若造。お前、外のやつだな?」
それに、一つ頷いて返事を返すと、「そうか」とだけ言って、後ろを向いてしまった。
「俺らは、元々ここで寝泊まりしてたから大丈夫だが、外からってことはこの環境に慣れてねぇだろ」
ここで寝泊まりしていた?と、はてなを浮かべている間にも、白髪の男性の言葉は続く。
「最近は貴重な藁ベッドだ。ほら、今日はこれで寝る準備しな」
白髪の男性は器用にロープとベッド用のシーツを使い、シーツいっぱいの藁をこちらへと提供してくれた。
「ありがとうございます、」
「いいってことよ。ここでは、食事も出るが、何一つ外の状況は分からない。ってことで……」
向かいの檻との間は、約五メートルと言ったところか。
話すには少し声を大きくしなければいけないが――幸いにも、閉じ込められている人以外は誰もいない。
「情報交換、ですね」
……ありったけの外の情報を、提供することにした。
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