016:違和感

 男性陣と共にパッドへと再び戻ると、すぐに荷物ハッチを開く。ゆっくりと降ろされる積み荷に、男性陣は目を輝かせていたのもつかの間、


「これ、ボーフォル・ベースキャンプからじゃねぇか!兄ちゃん、これ誰が譲ってくれたんだ……?」


 少し不思議そうな顔でこちらを見てくる。

 ……ボーフォル・ベースキャンプでボイコット、というのはアルカナリア・ステーションでは有名な話のようだ。私は、ありのままを説明することにした。


「向こうで、このステーションまで売りに行ってほしいと言う人から買いました。女性で、確か名前は――」


 言おうとすると、一番近くにいた男性に止められた。


「ああ、いや。大体見当がついた。……そっか、あの子頑張ってるのか」

「お知合いですか?」


 そう言うと男性は、「まぁちょっとな」と言葉を濁す。その反応に首を傾げていると、他の手の空いていた男性がこちらへとやってきた。


「その子多分こいつの幼馴染だな」


 その言葉に、「なるほど」と納得する。採掘作業員の仕事は肉体的にきついものもあると聞く。特に地上採掘は相当だろう。――要は、心配なのか。……でも、


「一つ気がかりなことがありまして」

「? なんだ?」


 実は、と声を二人にしか聞こえないよう小さくして話す。ある程度話すと、二人は顔をしかめた。


「――なるほどな。こりゃあ……」

「ただのボイコット、……ではない感じがするな」


 ――男性と言う男性を、一人以外見なかった。居たのは、案内ロボットとマクファーレンさんと、例の女性だけ。ボイコットであれば、他の男性を見なかった理由にはならない。


「ボイコット前の採掘作業員さんにどのような指示が飛んでいたか分かりますか?」


 それには、二人で顔を向かい合わせて、考え込む。


「別に……いつも通りだったはずだ」

「俺たちの採掘指示はいつも通り……上でどうなってるかは分からんが、な」

「いつも採掘指示は、上層部がまとめて送るんですか?」


 そう言うと、「そうだ」と頷く二人。幼馴染が採掘作業員だという男性は、さらに続けた。


「このステーションで材料調達担当の偉い人が、まとめてボーフォル・ベースキャンプに必要素材一覧を送るはずだ。誰が誰に……と言うのはわからんが……」


 考え込む男性に、私は一つ提案を出した。


「……もう一度、ボーフォル・ベースキャンプに行ってきます」


 載せられる分だけのダイヤモンドを積んで、戻ってくるついでにボーフォル・ベースキャンプの詳しい状況を調べてくる。と言う算段だ。


「それはありがたいが……いいのか?」

「大丈夫です。こちらは貿易と称せばお金も稼げますし、ボイコットの――人が居ない原因もわかると思います」


 そこまで言って、コックピットに乗り込む。二人は心配そうに見つめていたが、ステーションを出るための申請を出すと、渋々と言った様子でパッドから出ていくのが見えた。


「待っててください。……大丈夫ですよ、すぐに戻ってきます」


 そう宣言して、パッドから機体を宇宙空間へと移動させる。目標をボーフォル・ベースキャンプに設定したら、高速航行モードに切り替えるだけだ。

 ……そうして、私は事件へと巻き込まれていくことになる。

 もちろん、それを知らぬまま――。

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