015:アルカナリア・ステーションの緊急事態
* * *
アルカナリア・ステーションは、ルミノウス星系第五惑星の衛星上にあるステーションだ。
近隣星系の中では一番人口が多く、交通量も多い。パッドに停められるか不安だったが、そこは大型ステーション。申請を出してすぐに停めることができた。
「ここが、アルカナリア・ステーション……」
工業製品や機体のパーツを生産しているだけあり、常に機械音がステーション内に響く。デッキに向かえば、作業員と思われる人々が休憩していた。時計を見れば、十五時。昼ご飯には少し遅い時間だが、飲食スペースは満員に近かった。座れる場所もなく、先に買ったダイヤモンドを売ろうと思いマーケットに向かっても、人であふれていた。
「どうしたものかな……」
途方に暮れていると、マーケットの人混み中から一人出てくるのが見えた。手には大量の白い鉱石――いや、ダイヤモンドだろうか。近づいてよく見てみると、その人は女性だった。
「ついてないなー。でも、これくらいあれば……ぁ?」
私が近づいたことで、女性の独り言が聞こえてくる。女性も、近づいてきた影で私に気づいたらしい。俯いていた彼女が、顔を上げた。
「だ、だれ……?あっ!このダイヤは渡さないからね!」
それに対し、私は両手を前で横に振る。
「いや、ちょうどマーケットに用があって……この混み様は?」
逆に、聞きたいことを聞けば女性は何でもないことのように話してくれた。
「実は――」
――要は、今このステーションは工業用のダイヤモンド不足らしい。なんでも、ボーフォル・ベースキャンプにいるはずの採掘作業員が全員でボイコット……。珍しくもない話なはずだが、ここアルカナリア・ステーションでは重大事件のようで……。
「みんな、金属加工のためにダイヤ欲しいんだよ……だから今、すごく高騰しちゃってて」
「待って、ボーフォル・ベースキャンプでボイコット?」
そういえば、マクファーレンさんと女性以外を見なかった気がする。いたのは、案内ロボットぐらいだった。
「確かに、人はいなかったが」
「やっぱりボイコットしてるんだ……少量でもいいからダイヤが手に入らないと何も作れなくなるのに……」
「……ちょっと待ってて、」
人だかりの中心部へと向かって、歩き出す。かき分けるように進むと先にカウンターが見え、その奥にマーケットの管理人が居た。
「……かき分けてきたところ悪いが、あいにく開店休業中でね。何の用だい?」
渋めの男性の声が、管理人から発せられる。立派な髭を蓄えた管理人は、私を見てそう話した。
「売りたいものがありまして」
そう言うと、管理人は目を見開く。機体が停まっているパッドナンバーと、売りたいものを示すと「分かった」と。
「お前らぁ!よぉく聴けぇ!物が欲しかったら手伝うんだなっ!」
その声に、人だかりのあちらこちらから歓声が上がる。
それに、目を白黒させていると、管理人から笑い声が。
「ほら、おまえの商品運ぶから、とっとと売却契約済ませちまうぞ」
さらりと売却契約書を出されて、間違いがない確認する。サインをしてしまえば、契約は成立だ。
「じゃあ、こいつら連れてパッドまで案内してやってくれ……俺は疲れた!」
こいつら、と言われて後ろを見れば、屈強そうな男性陣が数十人。よく見れば、目に涙を浮かべている。
「ダイヤが……ダイヤモンドがやっと……!」
そういうことか。と納得すると同時に、泣くほどなのか。と少しだけ引いた面もあったのは心のうちに留めておくことにした。
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