014:約束

「はい?」

「この白猫、君に懐いているようだし。ぜひ連れて行ってほしいんだが……」


 と言われても――新米パイロットで、家がない私にとって動物は夢のまた夢……。丁重にお断りしようとすると、先にマクファーレンさんが口を開いた。


「無茶を言っているのは分かっています。パイロットですものね、飛び回るでしょうから、世話ができないですもの」


 しょんぼりとするマクファーレンさんに「すみません、」と謝ると、そうだ、と声を上げた。


「落ち着いた頃に迎えに来てあげて。無理でも、時々は会いに来てほしいだろうし」


 ねー。とマクファーレンさんが白猫に同意を求めると、分かってるのか分かっていないのか、白猫は一鳴きするだけだった。


「……分かりました。時々見に来ますし、早く家を持てるように――猫が飼えるよう、頑張ります」


 私の返答に納得したのか、何回か頷くマクファーレンさん。

 にしても――猫か。しかもよりによって、白猫。


「迎えに来るまで、生きててくれよ」


 そう祈りながら白猫を撫でると、猫は気持ちよさそうにもう一度一鳴きした。

 ところで、とマクファーレンさんが切り出す。


「君はこれからどこに行くんだい?」


 そういえば、ここに来たのは道中で依頼を受けたから。本当の目的地は――。


「この星系にある、大型宇宙ステーションです。中型の機体を――輸送機体を買おうと思いまして」


 そう答えると、なにやら考え込み始めたマクファーレンさん。何か思いついたかのように、こちらを見て、


「それなら、アルカナリア・ステーションがいいよ」

「アルカナリア……?」

「そう。この星系の大型第一宇宙ステーション。機体はもちろん、機体のパーツも大体揃っているから、不自由しないと思うんだよね」


 「予算にもよるけど!」と笑うマクファーレンさんに、しばし考え込む。

 中型機体は扱うのが初めてだし、輸送機体となると追加の荷物入れが欲しい。確かに、有りかもしれない。


「わかりました。ありがとうございます。アルカナリア・ステーションに行きたいと思います」


 軽く礼をし、部屋を離れる。機体に戻ろうとした途中、声をかけられた。


「こんにちは。パイロットさん?」


 首を傾げながらそう問う女性に、私は足を止めた。女性の後ろには、コンテナが積まれていた。


「どうされました?」

「よければ、この荷物をアルカナリア・ステーションまで売りに行っていただけないでしょうか……少しでもいいんです」


 中身を女性に許可を取って見てみると、大量の鉱石――いや、光に当たって白く光るのはこれは……。


「ダイヤモンド、と呼ばれる宝石の原石です」


 後ろから覗いていた、女性が説明する。


「なんでも、研磨用に質の低いダイヤモンドを使うのだとか」


 見たところ、小さいダイヤモンドの原石がコンテナ全体で一トンほどだろうか。これなら今乗ってきている戦闘用の小型機体でも、何とか運べそうだ。


「では、これすべて買い取ります。お代は――、」

「あ、えっと……向こうでの売値がたしかこれくらいなので……このくらいはどうでしょうか」


 研磨――工業用のダイヤモンドなら、提示された金額が妥当だろう。私はそれを承諾して、ダイヤモンドと引き換えに提示された金額を渡した。


「……ありがとうございます!」


 女性の声に「こちらこそ、」とお礼を言って今度こそ機体へと戻る。

 もちろん、買った品物も忘れずに。

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