Episode02-5
012:幕間「彼の人」
時々、思い出す人が居る。
初恋ではない。憧れの人ではあるけれども。
まだ、私が幼い時に出会った――パイロットだ。
その頃の私は家業を継ぐために両親の元勉強に励んでいた。
しかし、遊び盛りな年齢。狭い部屋の中での生活は窮屈だったことは覚えている。反発したくとも、親は厳しく。窓の外から遠くに星々が輝く外を眺めることしかできなかった。
そんな時だった。その人が私のいた居住区に引っ越してきたのは。
今思えば、その人は任務で長期滞在することになったためにステーション内に土地を買い、家を建てたのだと分かる。
が、その当時の私が『新しく引っ越してきた見知らぬ人』に対して興味を持たないはずもなく。
親の目を盗んで家を飛び出し、新しく建った家のベルを鳴らす。数分して出てきたその人は、快く幼い私を迎え入れてくれた。
そして、いろいろな話をした。
家のこと、勉強のこと。天気のことや好きな物事のこと。――仕事のこと。
「パイロットっていう職業があるんだ」
「パイロット?」
初めて聞く単語に、意識が向く。食い入るようにその人を見つめれば、その人は笑いながら教えてくれた。
「このステーションに出入りする巨大な船があるだろ?」
「うん!『ざいりょう』とか、おいしいものはこんでくるんだよね!」
「当たり!」と言って頭を撫でるその人に、嬉しさを覚えながらも続きを求める。
「そう、その船を操縦する人をみんなまとめて『パイロット』って言うんだ。操縦の免許を取った人だけが仕事できるんだよ」
「むずかしい……?」
「それは人それぞれかな。俺は短期間で取れたけど」
見た目はそんなに変わらない、年も近いであろうその人が、ものすごく大人びて見えた。
「パイロットに、性別も年齢も関係ない。ただ……」
何かを思い出したのか、その人は表情を暗くさせ俯く。
心配になり、声をかければ「何でもない」と声と表情を明るくさせた。
「ただ――パイロット業は、出会いと別れの宝庫だぞ!それが楽しさでもあり、つらい時もあるけどな」
「ふーん……?」
「パイロットになったら、分かるよ」
「ほらもう帰りな、」と促され時計を見るとすでに家を飛び出してから三時間ほど経っていた。
「やばい……怒られる……」
頭を抱えて怒られる恐怖におびえていると、その人は笑っていて。
「本当にやばくなったら、俺が説明するから」
――数分後、一緒になって怒られたのはいい思い出だ。
それから、数ヶ月一緒に遊んだり勉強を見てもらったりしていた。
その人は意外にも働いているだけでなく、頭もよかった。教え方も上手く、それまで嫌いだった勉強が好きになるほど。
……しかし、時は非情で。
その人が次の依頼のためにステーションを出ることになった。
離れたくなくて泣く幼い私に、その人はなだめつつこう声をかけた。
「また会える。また会えるから――」
――追いかけてこい。パイロットになって。
それが私の、幼い頃の記憶。
――俺の名前は……。
「あの人が、海賊になっていたのにはきっと訳がある」
だから、私が必ず。
「……オスクさん」
――オスク。オスク・ハースキヴィ。覚えておけよ!
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