011:帰還と出立
自然と目が覚める。シートを起こし時計を確認すれば、午前八時だった。
固まった体をほぐそうと、伸びをする。コックピット内は狭いが、人一人運動するのには苦労しない広さだったことが幸いした。
ある程度ほぐれたところで、お腹というものは正直で……。
「……何か食べないと」
ぐぅ。と鳴ったお腹に手を当てながら機体を降り、一直線でエレベーターへ。
乗り込み、デッキへと向かえば同じ考えの人が居るようで、パンの焼けるいい匂いがそこら中に漂っていた。
私も飲食スペースの主人にホットサンドとコーヒーを頼んでから、一番奥の一人席へ。ちょうど窓辺の席が空いていたのでそこから見える宇宙空間と出入りする機体を眺めていると、目の前に人がやってくる。
誰かと思い窓に向けていた顔を戻すと、そこにはナサリオさんがいた。どこか浮かない様子の彼女に首を傾げていると、彼女が口を開いた。
「えー……と、ごめんなさい!」
突然謝られて困惑していると、もう一度彼女が口を開く。
「実は夜中別れた後、ハースキヴィに詰め寄られてさぁ」
あまりにも怖かったから、連絡先教えちゃった……。という彼女に、私は寝る前に起きたことについて合点がいった。
「いえ……誰でも十億単位の懸賞金のかかった男に詰め寄られたら怖いですから……」
とりあえず、大丈夫だ。ということと、夜中メッセージを受け取った旨を話した。ものすごく謝られたが、次は倒す相手。
「倒して、星系警察に引き渡しますよ」
「……わぁ、すごく頼もしい」
期待の新人さんだね。という言葉を貰い、まだまだ先にはなりそうですが。と返しながらご飯を食べる。ここだけのんびりとした時間が流れていた。
しかし、時間は経つもので。
「ではそろそろ、ミヤ星系に戻ります。情報があってもなくても戻ってきてほしいと言われていたので」
そう言って席を立つが、ナサリオさんに呼び止められる。何事かと思い振り返ると、そこには真剣な顔をした彼女がいた。
「気を付けて、ハースキヴィは気分屋だけど執念深いって噂だから」
それに一つ頷けば、ナサリオさんは私に手を振る。食べ終わった食器類が乗せられたトレイを持ち、手を振り返せば彼女は満足したようでどこかへと行ってしまった。
それを見送り、私も覚悟を決める。
「オスク・ハースキヴィ」
――次は、絶対に。
* * *
「何もわからなかったかー」
「ええ。採掘時の事は覚えていない。と」
ミヤ星系に戻りバズレールさんに伝えれば、今回の追加依頼は終了。
「まあ、仕方ないね!あ、これから別の依頼受けてたりする?」
「? いえ、受けてませんが……」
そう私が言うと、「なら!」と、一つのカードを渡してきた。カードと言っても、黒に少しの基盤がついた――記憶媒体のようだった。
それを受け取り首を傾げると、彼女は「依頼なんだけど」と話を切り出す。
「それを、ルミノウス星系第五惑星にあるボーフォル・ベースキャンプのマクファーレンさんに渡してほしいんだよね。アントニー・マクファーレンっていう人に」
ルミノウス星系と言えばこれから行く予定の星系でもある。惑星にあるキャンプということは、惑星上にある基地のことだろう。少々不安はあるが、やれないことはない。
「分かりました。報酬は……」
「マクファーレンさんから貰ってほしい、かな。元々このカード差し出して『解析して!』って頼んできたの向こうだし」
よろしく!と言われてしまえば拒否する権利もなく。
それよりも、目的の星系と新しい依頼に少しだけわくわくしていた。
自分の機体に戻る道中で水や食料品を買って、操縦席の脇に置いておく。パッドを出て、ステーションを出て。
≪星間航行ニ入リマス。ジャンプ、マデ……三、二、一、≫
――パイロット業は、出会いと別れの宝庫だぞ。……そんな言葉をふと、思い出す。
「大丈夫、生きていれば――」
忘れていた懐かしい人の顔が浮かんだが、私は目の前の星間航行に集中しようと頭を切り替えた。
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