010:入れ違いとすれ違いと2

 三月二十八日、午前二時六分。

 ポンっという、メッセージが届いた音で意識が浮上する。

 よくよくメッセージを見れば、飲食スペースの主人からだった。


≪夜遅くにすまんな、お探しの人が帰ってきたぞ≫


 今は飲食スペースにいるという情報を貰い、倒していたシートを起こす。軽く髪を整えてから機体を降りる。

 小型のステーションでは、デッキに向かうエレベーターはあるもののそのスペースは限りなく狭い。大型のステーションで飲食スペースに行くには十分ほどかかるが、ここではエレベーター降りてすぐが飲食スペースになっている。


「マスター、例の人は……?」


 カウンターに立っていたマスターに声をかければ、目でその人の方向を示される。目線の先には、赤茶色のパーマがかかったロングヘアーの女性。お酒を一杯頼んで、彼女のもとへ向かうことにした。


「あら、あなた……」


 向かっている途中で私に気づいた彼女が、目を丸くしてこちらを見ている。私は彼女の座っていた席の対面にあるスツールに座り、話を切り出した。


「初めまして。テオドール・ハイネンと申します。……採掘技術員さんで合ってますか?」

「えぇ、このステーションの採掘技術員の一人、ルピタ・ナサリオよ」


 確認が済んだところで、本題を持ち出す。手元には新鉱石と、それが入っているカプセル。


「こちらの鉱石なんですが……このあたりで掘られたものと聞いて」


 新鉱石入りのカプセルをルピタさんに手渡す。まじまじとカプセル越しに鉱石を見つめる彼女をしばらく見つめていると、彼女は唸りながらカプセルをテーブルに置いた。


「確かにここらで採れたものっぽいんだけど……採掘してる時は割とこう……」


 そう言い淀む彼女に、私は首をかしげる。


「その、ハイテンションになるから何採ってるとか気にしたことがあんまりないっていうか……」


 照れながらそう言う彼女に、私はそういうものなのかと納得していた。私も戦闘時高揚しているときは、気づいたときには演習が終わっている……なんてこともよくあった。


「とにかく、この鉱石は返すね」


 カプセルをそっと押す彼女に、私は拒否する理由もなく受け取った。


「……ありがとうございました。また何かあったらよろしくお願いします」


 そっとスツールから降りて、お礼を言う。ひと眠りしたら、ミヤ星系に戻って報告しよう。

 デッキからパッドに戻る途中、男性とすれ違い――その男性が、振り向きこちらを見ていたことなんて、気づくわけもなかった……。

 パッドに、そして操縦席に戻ると、メッセージが一件。午前三時にいったい誰が。と思いながらメッセージを確認してみる。

 そこには、一言。


≪次は、戦闘艦同士で≫


 送り主は……オスク・ハースキヴィ。まさかこんなすぐに、メッセージを貰うなんて。と、あたりを見渡してみるが、ここはすでにドッグの――機体の中。ドッグの中は、基本的にその機体の持ち主か整備士しか入れない場所だ。ここにいるわけがない。


「どこかで……?いや、まさか」


 頭を横に振り、邪念を払う。……今は、争っている場合ではない。依頼主に報告するために、生きて戻ることが先決だ。今回は、助けてくれる人がいるわけではない。


「少し寝たら……」


 夜中で少し無理をして起きた反動だろうか。眠気に抗えず、瞼を閉じる。

 そのまま意識は薄れ、静かな寝息だけがコックピットに響いていた。

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