009:入れ違いとすれ違いと1
しかし、こんな大金を貰っても新人の私にはもったいない……というより、これだけ貰うのなら何かもう一つ仕事を受けてもいいと思うのだ。それを口に出してバズレールさんに伝えると、彼女は少し悩んだ後に、
「じゃあ……アガーシア星系のエシオピア・ステーションにこの鉱石の出所を詳しく聞いてもらおうかな」
大型の機体停められない場所なんだけど……と言われたが、私の持っている機体は小型。その辺は大丈夫だろう。
「この新鉱石を持っていって、エシオピア・ステーションにいる採掘技術員に話を聞けば分かる……はず、なんだ」
自信なさそうに言うバズレールさんに「分かっても、分からなくても戻ってきてほしい」と言われながら、研究室を後にする。
アガーシア星系と言えば、ここからだとルミノウス星系とは別の方向にある星系。そんなに離れてはいないから、行って帰ってくるくらいなら燃料も足りるだろう。仮にも、ステーションに行くことになるのだから。
自分の機体に戻り、目標をアガーシア星系に合わせてステーションを出る。
しばらく通常航行でステーションから離れたら、星間航行へと移行する。
≪――星間航行ニ入リマス。ジャンプ、マデ……三、二、一、≫
星間航行で目まぐるしく星々が通り過ぎていくのにも慣れてきた。
高速航行モードに入れば、目の前は恒星だ。
恒星を避けるように目的のステーションに標準を合わせたら、スピードを徐々に上げていく。
「レーダーに船影は無し。星系警察もいるようだし。……あとは惑星にぶつかるような軌道じゃなければ」
問題なかったんだよな、と目の前の惑星を見て、そう声が漏れた。
大きい地球型の惑星にぶつからないように迂回することにして、軌道を逸らす。
その惑星の影に隠れるように存在している小型第一宇宙ステーション。通称エシオピア・ステーションは、影側だというのに――いや、影側だからこそ、そのステーションから目印として放たれている光が、ここにある。と存在を主張していた。
小型の宇宙ステーションは、全体的に大型の機体が停められないという特徴がある。中型や小型のパッドも、大きめのステーションに比べてとても少ない。
今回は、運よく小型のパッドが空いた直後ということで、すぐにステーションのパッドに停めることができた。
パイロットスーツのヘルメットを脱ぎ、鉱石入りのカプセルを持って人を探す。
――つい、数時間前にもこの作業をしたような気もするが、気にしてはいけない。
今回探すのは、採掘技術員だ。その名の通り、数ある職業の中でも、割とリスクが大きい採掘を生業にしている人たちのことを指す。その中でも、トップであろう人を探したいのだが……。
「こればかりは、時の運か……」
聞いて回ってみれば、つい先ほど採掘技術員の一人が外にに出てしまったらしい。そしてどうやらその人が私の探している人だ、とも。
デッキでその人を待つことにし、食事をしながら大型のガラス窓から外を眺めることにした。
小型のステーションのデッキの外は、直接宇宙だ。中・大型のステーションとは違い、外には輝く恒星が遠くに見える。通常航行モードの機体も窓から見えることも。
そして待つこと、一時間、二時間と経っていき……。
「もうこんな時間か……」
気づけば、午後十一時半。ここに着いたのが、午後五時だったはずだから実に六時間半は経っていることになるが、まだ件の人は帰ってきていない。
「今夜は――ああ、小型ステーションには宿泊施設無いんだっけか」
操縦席で、仮眠だな。と、デッキの飲食スペースの主人に伝言を頼み、自分の機体へと戻ることにした。
* * *
時は少しだけ遡り、テオドールが自分の機体へと戻る二時間ほど前。三月二十七日、午後九時二十三分。
採掘技術員、ルピタ・ナサリオは少し焦っていた。
かの有名な宇宙海賊、オスク・ハースキヴィが近くにいたからだ。
襲い掛かってくる星系警察の船を次々に沈め、しかし採掘をしている私らには手を出さない。むしろ、他の海賊が来ないようにしているように思えるほど。
警察の船が一通りの攻撃を止めたところで、ハースキヴィの船がこちらに近づいてきていた。
咄嗟に身構え目を瞑るが、攻撃は何もしてこない。恐る恐る目を開くと、メッセージが一件入った。ハースキヴィからだ。
≪この辺で、新米のパイロットを見なかったか≫
そう言われても、新米のパイロットなんて山ほどいる。お目当てが誰かはわからないが、採掘をしている子でなければ、こんなところは来ない旨を伝えると、一言礼を言ってそのまま去って行ってしまった。
「な、なんだったのよ、もぉ」
コックピットのチェアに全体重を預ける。きしむ音すらしないそれに、緊張していた体も、少しずつほぐれていく。
「とはいえ、海賊が追う相手。ねぇ」
――一体、どんな悪さをしたのやら……。
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