008:ミヤ星系と届け先と

 ミヤ星系は専門家が多い、学術星系だ。主に各分野の専門家を育てるためステーションはもとより、星系全体が養成機関になっている。

 リングの付いたガス惑星では、小惑星から採取しようと採掘機体を含めた一団が複数見えた。

 それらいくつかの惑星を通り過ぎて、見えてきた筒状のステーションが目的の場所。アマウ・ステーションだ。


「速度よし、進入角度よし……。着艦申請も下りた」


 全て確認してから、ステーションに入っていく。この新しくなった機体には、自動着艦機能がついていない。手動で入っていき降着装置を出す。無事にパッドに停まったところで、パイロットスーツのヘルメットを脱いだ。

 パッドから、エレベーターを使ってデッキの中へ。目的の人物を頼まれた鉱石と共に探していると、目の前から来た女性にぶつかってしまった。


「すみません!大丈夫ですか!」


 咄嗟に手を伸ばし、倒れそうな女性を支える。と、女性は私が手に持っていた鉱石入りのカプセルを見てそれに飛びついた。


「それは!……もしや、アナタ、ハマル星系から来た人?」

「え、はい。マルト・バズレールさんですか?」


 私の問いに、高速で頷く女性――バズレールさんにカプセルを手渡す。三個すべて手渡すと、「ありがとう!」と言って帰りそうだったので、そのまま報酬の話を持ち出す。


「すみません。向こうからは、報酬は相手から受け取ってほしいと聞いているのですが……」


 そう言うと、バズレールさんは「え、そうなの?」と考え込んで――、


「今手持ち無いから、少しだけ研究所に来てほしいかな!なんなら、お茶出すし!」


 そう言われ、手首を取られ。引っ張られるのに着いていき、長い廊下を経てたどり着いたのは頑丈なセキュリティの扉。

 その扉の中へカードをかざし入っていく女性の後ろを、カプセルを持ちながら入っていく。


「あー、カプセルはその辺置いておいてほしくて……あ、書類の束は崩さないようにね!まとめるのが大変だから……!」


 書類や機材の山を崩さないように通り抜け、部屋の奥にあった机の前まで辿りつく。途中で手に持っているものと同じようなカプセルを何個も見かけることができた。


「鉱石類の研究を……?」

「そうそう。私の専門は鉱石の新活用法を見つけることなんだけどねー。その過程で、新鉱石見つけることも多くって……あ!その辺のソファ座って待ってて」


 その辺。と言われて指示されたのは、書類や空のカプセルに埋もれたソファ。それも、座ると雪崩が起きそうで……。


「片付け、しましょう」


 気づけば、そう話していた私に対して、ティーカップを持ってきていたバズレールさんはというとちょっと嬉しそうに。


「え、片付け?手伝ってくれるの?」


 ここ一週間、掃除できてなかったんだよね。というバズレールさんに、一週間でこれなのかと軽く絶望を覚えた。



 * * *



 それから、約二時間。

 女性の研究所内を徹底的に整頓、掃除した結果一つのカプセルが出てきた。鉱石入りのカプセルだ。


「これ……見たこと無い鉱石ですね」


 バズレールさんに見せると、彼女は首を横へと傾ける。見せて、と言うのでカプセルを渡すと、多方面から観察した後唸っていて。


「……わからない」


 そう言い放った。


「すべての鉱石の特徴を暗記してるわけではないけど……わからない」


 ――鉱石というのは、約三千年以上前にその大半が見つかっている。特に、鉱石の専門家であるバズレールさんが知らないということは……。


「新種だぁ……!」


 急いで、カプセルの何かを確認するバズレールさんに、恐る恐る疑問を投げかけてみる。


「新種って……何見ているんですか?」

「産出地とその年月日!いつどこで取れたか、分かったら……」


 そう言い、さらに唸りだす。横から見てみれば、そこにはかすれた文字が刻印されたシールが貼られていた。


「かすれてて……読めないなぁ……エー、ジー、イー……アール?ううん、無理だ」


 産出地であろう、アガーと読めるそれに銀河図を見ながら、星を探していく。

 鉱石が取れるとなれば、ガス惑星のリングや、宙域に漂う小惑星だろう。……ここ最近のガス惑星に対しては、恒星と同じ名前と番号で管理していると聞いたことがあるから――。


「アガー、アガー……アガーシア星系?」


 このミヤ星系から近いとなると、アガーシア星系がその候補に挙がる。


「アガーシア……。……うん、アガーシアだ。前にその星系から大量に鉱石の鑑定依頼来たことあるよ」


 これで一つ謎は解けた。採られた日付は、その鉱石の鑑定依頼書や報告書を探し出せばわかるだろう。あとは――……。


「さて、綺麗にしてもらったことだし、一先ず休憩!」


 ステーション内部は簡易的な重力が働いているので、地上と同じように過ごすことはできる。ティーカップへとお茶を注ぐのにも、彼女は慣れた手つきで注いでいった。


「さてと……そろそろ依頼の報酬を渡さないとね」


 しばらくお茶を楽しみ、落ち着いたところでバズレールさんが切り出す。「掃除もしてもらったし……」と、端末を操作してどうやら送金してくれたようだ。慌てて、自分の端末を見れば、相当な額が入っていた。


「え、こんなにいただけませんよ。掃除はともかく、依頼なんてカプセルを届けただけですし」


 私がそう言うと、「それに……」と続ける。


「掃除の際に、新鉱石見つけてくれたでしょう?それが大半かな!」


 そう言われれば反論する余地もない。……ありがたく、貰っておくことにした。

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