006:不完全燃焼な作戦完了

 機体が壊れる寸前で脱出ポッドに乗った私は、機体が壊れポッドが投げ出された直後到着したアーロンさんに拾われた。今は、『マーシナリー』の拠点である空母の中の一室にいる。


「体は無事だね?」


 心配そうに見てくるアーロンさんに、ひとつ頷けば「すまないね……」と謝られた。


「もうちょっと早く着いていればよかったんだけど」


 取り逃がしちまったよ。というアーロンさんは、なんとも悔しげだ。


「水は数個は残ったんだろう?命もあるし、ひとまずは大丈夫だ」


 グラウンさんはそう言うが、この人もどこか悔しげだ。機体や水より、やはり取り逃がしたことが一番大きいらしい。

 機体にメッセージが入ったとき。一緒に流れてくる送信者の欄を見て、相手の名前を覚えることは、パイロット人生において大事なことだ。

 友人、養成機関の教官。それから知り合った人々。……それ以外の、敵の名前。最後に、私を落としたその名前は……、


「――オスク・ハースキヴィ」


 相手は、「また会うだろう」と言った。生きていたら、と。忘れることは無いであろう、名前。


「ハースキヴィ、だと?」


 私が呟いた名前に、エドガーさんが反応する。


「オスク・ハースキヴィと言えば、懸賞金十億越えのやつじゃねぇか……」


 そんなやつまで、雇われてたのか?と、グラウンさんは頭を抱える。有名、なんだろうか。十億越えの賞金が懸けられているとなれば、相当罪を犯しているのだろう。空気が重く、全員が頭を抱えている時だった。部屋の扉が勢いよく開く。


「――朗報です、朗報です!例の派閥、戦争準備。取りやめるそうですよ!」


 「水も、市場に出回るようになってます!」の言葉に、グラウンさんはさらに頭を抱えた。端末を見て、ため息をつく。


「ハースキヴィ……やつがやったな」


 放り投げられた端末に書かれていた記事には、『派閥代表、賊に襲われる!』の見出しが。中をよく見れば、戦争準備を進めていた派閥の代表が、突然星系回遊中に襲われたらしい。脱出ポッドは作動したが、襲われたほうは「この星系からは撤退する」と表明――。


「分かるのですか?」

「あいつはな……気が変わりやすいんだよ」


 頭を搔きながらそう言うエドガーさんの顔は、どこか悩んでいるようだった。ため息をつきながら、グラウンさんは端末を回収する。


「十中八九、目をつけられたな。テオドール」


 そんなエドガーさんの小声は、戦争回避に盛り上がる部屋の中ではかき消されていた。



 * * *



 数日後。

 ハマル星系、コニハ・ステーションに戻った私はビリークステーション長に、事の経緯を伝えた。


「――ということです」

「そうか、あの派閥がね……。こちらでも注意しておくよ、」


 しかし……と、ステーション長が続けるのに、私は首を傾げた。


「今回はありがとう。報酬なのだが……このくらいでどうかな?」


 伝えられたのは、新人には多すぎる桁。


「新人に渡していい額ではありませんよ、」

「大丈夫大丈夫。リスク料と、期待以上の成功報酬と――このステーション、星系を救ってくれた礼としてね」


 それにもう、送金したし。というステーション長に、今度は私が項垂れる番だった。そんな私を見て、ステーション長は笑いながら続ける。


「そうだ、今後君はどうするんだい?良ければうちのお抱え運送屋にならないか?」


 私は目を点にした。新人には、固定の仕事があるのはうれしい誘いだが……。


「……いえ、遠慮しておきます。目標もできたので」

「そうか。聞いても?」


 ステーション長がそう返してくるのに、私は相手の目を見て、答えた。


「オスク・ハースキヴィを捕まえることです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る