005:囮として
海賊。今の時代においては宇宙をその縄張りにする、宇宙海賊。
物資輸送中の機体を狙い、破壊してでもその中身を奪おうとする彼らは、各自で活動する場合もあるが、派閥で雇われている場合も多い。今回で言えば――後者だ。
≪美味しいネギを背負った、カモだ!今夜も稼がせてくれよ?≫
≪当機ガ、ロックオン、サレマシタ≫
メッセージと共に入るアナウンスに、だれも聞いていないにもかかわらず「分かってる」と声とため息が漏れる。
ロックオンされた状態で機体同士が近すぎれば高速航行から、通常航行に切り替えられてしまう。そうなれば、逃げが得意な機体でも攻撃を受けることは明白。
そんな中、再びメッセージが入る。どうやら、襲ってきた海賊からのメッセージのようだ。
≪なんだ!おまっ……!≫
≪よっ、海賊よぉ!≫
どうやら、『マーシナリー』の誰かが海賊の後ろに回り込み、ロックオンをしたらしい。こちらに近づく前に、自分自身のロックオンを外す必要が出てきた。ということだ。
≪お前ら、最近ここらへんで暴れてるんだろう?懸賞金稼ぎに、ちょっと倒されてくれよ!≫
懸賞金とは、海賊に星系警察が懸けているものだ。その海賊の船の大きさや、犯した犯罪によって額は変わるが、海賊狩りで生計を立てている人もいるくらい儲かるらしい。
≪へっ!そんな機体で俺に勝とうってか!返り討ちにしてやるよ!≫
……どうやら、この海賊は私を逃してでも、売られた喧嘩を買うことに決めたらしい。私も、その時点で反転し遠くから通常航行に入り見守る。ただ――、
≪『マーシナリー』舐めんなよ!≫
――どう考えても悪手ではあるが。
一般的に、小さい機体は大きい機体と比べ、劣るところが多く装備差も生まれやすい。しかし、小さい機体だからこそ。
≪はっ?あた……んねぇ!≫
小回りが利き、逃げやすい特徴がある。いつの間にか海賊の背後につき、エンジン部分をミサイルで一発。二発。
≪エンジンがっ!くっそ!≫
エンジンにミサイルを受け、引火した機体はそれから数秒後に爆発。四散した機体の破片の間から機体備え付けの脱出用ポッドが見えたので、中の人間は大丈夫だろう。漂っていれば、そのうち星系警察が回収し、収監してくれるはずだ。
≪ナイス囮!引き続きよろしく~≫
そうメッセージが入り、『マーシナリー』の誰かは高速航行に戻っていった。私も、高速航行に戻り、船で星系内を回遊する。
それを続け、半日。落とした機体の数は、二十を超えた。
高速航行中に、メッセージが入る。
≪もう、どれだけ居るんだろうねぇ。この海賊ども≫
そう言うのは、『マーシナリー』の副長。ベティ・アーロンさん。メッセージから、疲れが読み取れた。
「そうですね……二十超えたあたりから数えるのやめてます」
≪はっはっはっ!あたしなんて、十以上は数えられないよ!≫
≪だるいからさー≫と続く言葉に、苦笑いしか出てこない。が、実力は『マーシナリー』の副長。相当の実力者だ。
≪骨のないやつばかりで海賊狩り飽きてきたんだよ……もっと骨のある、強いやつ出てこーい≫
と、メッセージが入った瞬間だった。
自分の乗っている機体が大きく揺れ、高速航行から強制的に通常航行にされる。
――何も通知は出ていなかった。機体のアナウンスさえも。
何かの間違いで、通常航行に入ったわけではない。これは――。
「……っ!アーロンさん!敵です!」
通常航行に入り、数秒後に機体を狙ってくるレーザービーム。
咄嗟にバリアを張ったが、何回か掠めただけでバリアの残量が最大値の半分ほどに。
≪分かった!今向かう!≫
≪生きろよ!≫と言われたからではないが、最大限時間を稼ごうと機体の電力を一時的にエンジンからバリア生成装置に集める。少しだけ、バリアが戻り、そして少しずつではあるがバリアの残量が回復していく。
しかし、エンジンからバリア生成装置に電力を回したということは――、
「さすがに、遅くなるな……」
エンジンの出力が弱まり、機体を動かす力が弱まる。
≪鬼ごっこは終わりか?≫
今襲ってきている、敵だろうか。メッセージが入る。
≪バリアに電力を振って、時間稼ぎのつもりだろうが……≫
レーダーが、機体の真下に別機体がいることを告げる。そして来る、衝撃。
≪ああもう!テオドール!機体はいい!脱出ポッドに乗り込め!≫
……メッセージが乱れる。
作戦よりも、人命を優先しろ。という、アーロンさんのメッセージも、ブレて読みづらくなっていた。
≪……海賊らしく、水は貰ってくぜ。生きてたら、また会うだろうよ≫
≪エンジン耐久値、一パーセント≫
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