004:コロニー・ダイダムと『マーシナリー』2
『水』。それは、生命の維持に必要な一要素。多方面で使うこの資源は、今その確保に最大の注意を払うようになった。
手始めに――と、男。エドガー・グラウンが話し始める。
「手っ取り早いのは、戦争準備を停めさせること。そのためには、そうしなきゃいけない状況を作る。ここまではいいな?」
それに一つ頷けば、少し驚いた様子で「物分かりいいな」と感心される。
「戦争準備を停めさせる、そうしなきゃいけない状況。……つまり、この星系に居れなくなるレベルの何か。ですね」
「そこまで――いや、それくらいしなきゃだよな」
私の提案に、グラウンさんとは別の男が頷き賛成した。
「そう。星系に居られなくなるくらいの――例えば、影響力を落とす。とかな」
派閥丸ごと、居られなくなるくらいの。……と言われても、すぐにパッとは思いつかない。私が唸ると、グラウンさんは「さすがにここから先は難しいか」と笑った。
「戦争を仕掛けてくる予定の派閥は、主戦力が海賊に擬態しているらしい」
「……海賊、ですか」
海賊であるならば、話は別である。派閥であろうがなかろうが――……。そうだ。
「依頼を出してもらいましょう。『海賊』を指定数機、倒してほしい。星系の安全確保のためにも、ってね」
「できるだけ、派閥に関わらないところからの依頼がいいな……。星系警察の出番ってか」
私がそれに頷けば、グラウンさんが他の傭兵の皆さんに指示を出していく。指示を受けた人から忙しそうに部屋を出ていった。やがて、私とグラウンさん二人だけになれば、最後に指示を受けるのは私だ。
「テオドールは……俺らの水を持って、この星系を飛び回ってくれ。船の燃料は適宜この船――俺らのメイン拠点である空母に戻ってくれれば、補給できるように指示しておこう」
一番重要で、船を落とされてはいけない役目。つまり――囮だ。
「一番きつい役だが――やれるか」
グラウンさんは、見かけによらず面倒見がいいみたいだ。この広い宇宙で初仕事に、いい人たちに出会えたのは運がよかった。
「やりますよ。できる限り」
「いい返事だ。……決行日は明日。それまでに、水は用意しておく。今日は俺らの空母に戻って休んでくれ」
それに頷いて、部屋を後にする。船に戻り、ゆっくりと発進させ目的地を教えられた空母へ。
「頑張る、か」
* * *
西暦五〇二一年三月二十二日。午前十時。傭兵集団『マーシナリー』拠点。空母『ヴァルキリー』。
そのドックに立ち、積み込みを待つ。今回は、自身の船ではなく、逃げやすいように傭兵集団『マーシナリー』が持っていた機体を一隻貸してもらうことになった。
「よぉ、テオドール。準備はいいか?」
積み込みを眺めていると、グラウンさんが隣にやってくる。傭兵集団のまとめ役だけあり、気配は声を掛けられるまでなかった。
「グラウンさん。……はい、大丈夫です」
心配がない、と言えば嘘になる。昨日今日で知り合ったばかりの人々だ。だが。
「逃げ切っても、逃げ切れなくても。皆さんが居てくれますから」
私がそう言うと、グラウンさんは「そうか」と顔を暗くしたが、
「まあ、逃げ切ってもらったほうが楽だがな!」
笑って、私の背中を叩く。と、同時に積み込みが終わった旨が、ドックに響いた。
「よし、行ってこい。俺らは全力でサポートする」
機体に乗り込み、ドックの上。宇宙空間へ。
機体をゆっくりと発進させれば、空母から離れていく。
――これから始まるのは、訓練ではない。実践だ。
完全に空母から離れたことを確認してから、機体を高速モードに変える。
≪高速モードニ入リマス。モードチェンジ、マデ……三、二、一、≫
機械音のアナウンスと共に、体が引っ張られるような感覚と止まる感覚。
いや、本来は止まっているのではない。高速航行に入り、機体が安定しているだけなのだ。
数分後、メッセージに通知が入る。……戦いが、始まる音だ。
≪いいもの持ってるじゃねーか!今から奪いに行くから、覚悟しとけよ!≫
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