003:コロニー・ダイダムと『マーシナリー』1
「うわ……っと、」
機体が超高速モードから高速モードに入る瞬間、出てきた恒星に少し驚いたが機首を恒星から宇宙空間に向けてから左のパネルを開く。
表示される大量の信号を、フィルターを通してステーションだけ表示するようにする。すると、複数個に絞られた信号の中に目的の宇宙ステーションを見つけることが出来た。宇宙ステーションの信号に合わせて、機体を動かした。
「ここからコロニー・ダイダムまでは大体十分ってところか……」
モニターに出る速度計を見ながら、所要時間を算出する。
この十分でできることは少ないが、たかが十分、されど十分だ。
「他の船は今のところ見当たらない。か」
レーダーに他の船が全く映っていないことを考えると、やはりどこかおかしいのかもしれない。
コニハ・ステーションのステーション長から聞いた情報によれば、このニクス星系は人も多ければ、星系内での交通量も多いらしい。いつも船が飛び交っているという話だったが――気味が悪いほど静かだ。
「何も、なければいいが」
急いでもいいことはないだろうが、嫌な予感がする。目的のステーションまで船を最速で飛ばすことにした。
星系についてから約十分後。目的である、コロニー・ダイダムに着いて着陸申請を出すが、数分待っても申請が通らない。
何が起きているか把握するためにも、そして依頼である水の輸送を進めるためにも、中に入らなくてはいけないのだが……。あたりを見渡せば、自分よりも遅くに到着した船が、先に入れているようで「これは、」と独り言ちる。
試しに、自動着陸から、手動着陸に切り替えて申請することにした。……すると、どうだろう。申請が通ったではないか。
「気を引き締めてかからないとな」
手動操作で、船をゆっくりとステーションの中へ。そして降着装置を出し、三十番パッドに船を停める。
無事に、船を停められたことにほっとしながら船を降り、マーケットを覗いてみると……水が、無い。
品物一覧にはあるのだが、売り切れと書かれている。
その他、飲み物も売り切れの文字ばかり。酒の類も、売り切れと書かれていた。
「酒まで……?」
代わりにあるものと言えば、高値で取引される宝石類や燃料になる鉱石類。あとは食料品などだろうか。
「おや、坊主新顔だな」
突然の声の方へ顔を向けると、そこには年上であろう男が一人。
サンドウィッチ片手に、こちらへと向かってきていた。
――どうする。正直に伝えるか、それとも……とりあえず――。
「あ、ええ。最近パイロットになったばかりで……」
「おーおー。若いと思ったら新米か!どうりで!」
背中を思いっきり叩いたはずみで、こちらの耳に顔を近づけてくる。
「奥に来な、知りたいこと教えてやるよ」
小声で囁かれたそれに反応すると、男は私の肩に腕を回したまま歩いていく。私は、それに引っ張られるかたちで、ついていくことになった。
「坊主は、ここのマーケットを見てどう思った」
エレベーターに入り、男がそう問いかけてきたので、ここは素直に答えることにする。
「……飲み物類が無いな、と」
水だけではない。酒類までなくなっているのは、異常事態だと。そう答えると、男は「それでいい」と答える。
「ここ数カ月、飲み物がねぇんだ。なんでも、海賊野郎どもに品物を取られてるだかなんだかでな」
輸出はできるが、輸入ができない。輸出も、水類はここ数カ月行ってない。そう男は話す。
「でも、それはただの表向き。俺らはこの話、裏があると思ってる」
エレベーターが止まり、複数の小部屋がある通路にたどり着く。そのうちの一つに、男は招き入れた。
中には、複数の男女からなる一団。だれもが、パイロットスーツを着ている。
私を中に入れ、男が扉を閉めるとここまで連れてきたその男が、俺に向かって言った。
「ようこそ、傭兵集団『マーシナリー』へ」
にこやかに男は、私を席に着かせると一番奥、給湯室に近かった男に「飲み物用意してやって」と告げる。
「でも飲み物は――」
「俺らのは自前。別星系から持ってきた」
飲み物を頼まれた男が、ペットボトルを私に向かって放って投げたのを、ギリギリのところで掴むと、そう言った。
「俺らは傭兵集団でな。各地の星系を飛び回って、派閥同士の戦争の解決やら、海賊野郎どもの掃討やら……あとは情報収集やらを依頼を受けてやるんだ」
「今は念のため補給に寄ったこのコロニー・ダイダムで足止め食らってるけどね」
そう話し、ため息をついたのは一番部屋の奥にいた女だった。
「で、今は追加情報を待ってるところなんだけど――」
「お待たせしましたー。情報ちゃんと持ってきましたよ!」
扉が勢いよく開き、小柄な男が一人部屋の中に入ってくる。
その男は私に気づかず、情報について話し始めた。
「いやー。今回は難題でしたよ!近々、ここのステーション取りまとめてる派閥に、戦争を仕掛ける予定の派閥があるみたいなんですわぁ!で、その仕掛ける側の派閥が、海賊どもを使って水を回収。自分たちも水を買占め――って、お客さん?」
口に手を当て、大丈夫?という風にここまで私を連れてきた男を見つめるが、大体は把握してしまった。
「そうだな、次からは客がいるか確認しような……。でも、これで大体把握できただろう」
連れてきた男がそう言い、手を差し出す。
「そちらの目的は問わないが、水が目的なら結局同じ道をたどるんだ。新米ってことは、今はフリーランスだろう?ちょいと協力しないか?」
――水が、正常に買えるようになるまで。
申し出はありがたいが、水が買えるようになる以外のメリットが相手にない。
どうしようか迷っていると、男が続ける。
「悪いようにはしないさ。水買うついでの、社会見学だと思ってくれ」
その言葉を信じて、手を取れば相手も握り返す。……交渉成立、といったところか。
「俺の名はエドガー・グラウン。傭兵集団『マーシナリー』のまとめ役だ」
「テオドール・ハイネンです。……新米ですが、よろしくお願いします」
「俺らの目的は、水の入手。手段はこうだ。――」
握手をしながら、一発目の依頼が大変なことになってきたな。と、思わざるを得なかった。
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