第23話 原作正反対系ヒロインと秘密の露呈
衝撃の事実から数分後。
俺たちは屋敷の一室で向かい合っていた。
「この度は我々ドロイアス家のためにはるばるお越しいただき感謝します。ブレスロード家のお二方におかれましては――」
部屋にいるのは俺とクリスティーナとヘカーテ、それに龍姫族の姉妹だ。
どうやらドロイアスは今日も屋敷を留守にしているらしく、クリスティーナが領主代行として動いているらしい。
……ドロイアスは秘密結社のために奔走しているのかもしれないな。
「あ~……クリスティーナさん」
ヴェリーナと思っていた方がクリスティーナの言葉を遮る。
……てか、結局、この女性は、誰!
「なんでしょうか」
「そんなに畏まらないで欲しいわ。クリスティーナさんはアタシたちより年上なわけだし、これが初対面というわけでもないもの」
「……分かったわ。貴方がそう言うなら」
「……?」
クリスティーナが髪をかき上げながらちら、と俺を見る。
推しの流し目とか心臓に悪いからそんな軽率にしないでほしい。
「でもこうして対面するのは久しぶりなわけだし、軽く自己紹介でもしましょうか」
「自己紹介?」
「ええ。貴女は私たちのことをはっきり覚えてるけれど、この二人は違うようだし」
クリスティーナは俺とヴェリーナを見る。
……未だにあの内気そうな少女がヴェリーナであることに理解できない。
「こういうのは言い出した人からよね。私はクリスティーナ。ドロイアス家の長女」
「うわっ!?」
ぼんやりとクリスティーナの自己紹介を聞いていたら唐突に肩を組まれた。
推しとの急激なスキンシップに俺の心臓は止まりかける。
「そしてこちらが私の愛する弟、フリードリヒ。最近までは貴方たちも知っての通り怠けていたけれど、努力を積み重ね、先日私に決闘で勝ったわ」
「「えぇっ!?」」
龍姫族姉妹がとても驚いた声を上げた。どうやら二人ともクリスティーナの強さは知っているらしい。
ヴェリーナじゃない方なんか立ち上がってすらいる。
まぁ、その驚きは理解できるってもんだ。
フリードリヒになる前の俺が『フリードリヒがクリスティーナに勝った』なんて聞けば、『そんな誰得な二次創作を考えたのはどこのどいつだ』と思うだろうしな。
「へ、へぇ~。アンタが心を入れ替えたとは聞いていたけれどそこまでとはね……」
「それじゃあ、次はそちら、お願い」
「あぁ、そうですね。こほん」
ヴェリーナじゃない方は一つ咳ばらいをする。
よかった。どうやらようやく『ヴェリーナじゃない方』なんて呼び方をしなくて済むらしい。
「アタシはヴィリーネ・フォン・ブレスロード。ブレスロードの次女よ。ヴェリーナの双子の妹。好きなのは戦うこと! 相手が魔物でも人でも構わないわ! フリードリヒより一つ
薄々気づいてはいたが、どうやら彼女たちは双子らしい。
もちろん、『アリナシアの使徒』プレイヤーである俺はそんな設定は知らないので、更に謎は深まるが。
……勝手にヴィリーネの方が姉だと思っていたが、違うのか。
ってか、ヴェリーナとヴィリーネか。よかったら名付け親はここに顔を出してほしい。その顔面に拳を叩きつけてやろうか。
「……む」
ヴィリーネの自己紹介になにか思うことがあったのか、クリスティーナから不満げな声が聞こえた。
「え、えっと。私はヴェリーナです。ヴィリーネの、一応双子の姉です。……お、終わりです」
なんというか、見てるだけで可哀そうになってくるくらいおどおどしている。
ほぼ一本線になりそうなくらい肩身が狭そうだ。
……これが、ヴェリーナ? 本当に?
こうして自分で名前を告げた後でも、彼女がヴェリーナであることに頭が追い付かない。
本当は名前が逆で、俺をからかってるんじゃないかとも思える。
「さて、それじゃあ私はヴィリーネとドラゴン討伐についての話をするから貴方たちは一緒に遊んでらっしゃいな」
「へ?」
あれ? 俺はドラゴン討伐参加しないの?
「以前はあの場に人がいなかったからフリードリヒの力を借りたけど、本来貴方のような幼い子供が戦う相手ではないわ」
幼いて……。俺、一応13歳なんだけどな。クリスティーナは俺のことをなんだと思っているのだろうか。
厳しくされたと思ったら甘くされる。これが飴と鞭?
「それに、ヴェリーナは戦いに向いてないしね。龍姫族なのに戦いが苦手って、全く……」
「ご、ごめん……」
ヴェリーナは戦いが苦手?
そんな馬鹿な。彼女はシナリオでは度々一番槍に立候補するほど好戦的な性格だったぞ。
「その点アタシは戦闘はお母様のお墨付きだからね! どーんと任せるといいわ!」
自己紹介でも言ってたが、ヴィリーネは戦いが好きらしい。
それも俺の頭を狂わせる。
「ま、まぁわかったよ。それじゃあヴェリーナ、さん。行こうか」
「う、うん……」
◇
部屋を出て、さてどうするかと思っていると。
「じゃ、じゃあ私はこのへんで……」
「えっ?」
ヴェリーナがぺこりと頭を下げてきた。
クリスティーナからは一緒にいろって言われたし、俺の方からも聞きたいことはたくさんあるのだが……。
「えっと、えっと……ごめんなさい!」
しかし、ヴェリーナはこちらの言葉を待たずしてものすごい逃げ足で廊下の奥へと消えていった。
「ヴェ、ヴェリーナ様!?」
それを廊下で待機していた龍姫族の担当となったメイドが追いかける。
「ヴェリーナ様、ものすごい汗でしたね」
ヘカーテがぽつりと呟いた。
どうやらヴェリーナは人見知り属性も持っているらしい。
……聞きたいことはあるが、そんな人物にいきなり話しかけるのも酷か。
「……俺たちは庭で魔術の勉強をしようか」
「承知しました」
◇
「『
俺が詠唱を終えると、氷の弾丸が庭に設置した的に直撃する。
「お見事です、フリードリヒ様」
「ありがとう」
これは俺の毎日のルーティーンだ。
魔力量が少ないため数多くは撃てないが、だからこそそんな時にこの切り札たる魔術を外さないようにしっかりと練習している。
……しかし、魔力が少ないのは考え物だな。
魔石は期待外れだった。
魔石から魔力を吸い出すことはできるのだが、いかんせん魔石の大きさと量が見合っていない。
どうにかして魔力だけ持ち運べればいいんだけどな……。
全く。
「……ん?」
待て、今何か思いつくような……。
「フリードリヒ様」
「――ん、あ、あぁ。どうした?」
ヘカーテは俺の質問を視線で返した。
彼女の目線の先を見ると、そこには一つの人影。
赤い目で目元を隠した自信なさげな少女――ヴェリーナがいた。
「え、えっと……ヴェリーナ、さん?」
「っ!?」
一応年上だからさんづけで呼んでみると、ヴェリーナは肩をびくんと跳ね上がらせた。
……もしかして気づかれていないと思っていたのだろうか。
また逃げられてしまうかな?
そう思ったが、意外にも彼女は恐る恐るといった様子だがこちらへ近づいてきた。
「あ、あの。その氷の魔術、私に教えてくれませんか!」
そして俺は、自分のやらかしに気づいたのだった。
やっちまったぜ。
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読んでいただきありがとうございます。
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