第14話 決闘・前
俺がクリスティーナに決闘を挑んで二週間後。
俺と彼女は、訓練場で相対していた。
俺はハルバード、クリスティーナは剣を装備している。……木製だが。
周りにはなにが起こるんだとハラハラした表情で遠目にこちらを見つめる騎士やメイドたちの姿があった。
俺がクリスティーナに決闘を申し込んだ理由は二つ。
一つは、彼女をここに留めておきたかったから。
クリスティーナは強者だ。
ゲーム本編でもそう描写されていたし、彼女の強さは身を以って知っている。
そんな強者が自分の側にいてくれればこの先なにかあってもありがたい。
……それに、クリスティーナは俺の最愛のキャラ。このまま別れると言うのはなんとも惜しいではないか。
そしてもう一つの理由は、彼女に生きる希望を持って欲しい。
今のクリスティーナは、その才能故に孤立していて、人生に退屈していることだろう。
それに、ゲーム本編の彼女も、主人公パーティーに参加までは一人で旅をしていると言っていた。そしてその旅が退屈だったとも。
結局、彼女が今この家を出ようとも、満足する結果は得られないと言うことだ。
だから、俺が証明したい。
俺にはクリスティーナを満足させられるほどの力があると。
彼女が生きる目的を、俺なら与えられると。
それが、今現在人生に退屈している彼女への恩返しだと思った。
決闘を申し込んでから二週間。
固有魔術の研究もしたし、サリヤの訓練もより厳しくお願いした。
正直、絶対勝てるとは言えない。
だけどせめて手こずっては貰いたい。
「両者、前へ」
審判役のサリヤが訓練場に上がる。
「これより、フリードリヒ様、クリスティーナ様による決闘を行います」
ざわっと、周囲に集まった見物者たちからざわめきが起こる。
まぁ無理もないだろう。
当主の二人の子供による決闘だし、二人は仲が悪いって多分皆知ってるだろうしな。
「勝利条件は、訓練用に用いられる木製の武器で有効打を与えるか、魔術を与えるか。なお、これは決闘であるので、両者魔術は必要最低限の威力に抑えること」
そこまで言うと、サリヤが心配そうな表情でこちらをちらりと見る。
彼女には色々世話になっている。クリスティーナと戦う上でたくさんのアドバイスを貰った。
俺が心配するなと頷くと、サリヤは一度目を瞑り、掲げていた右手を勢いよく下ろした。
「――それでは、始め!」
▼▼▼▼
サリヤが右手を振り下ろすと、私たちの決闘が始まった。
正直言って、私にこの決闘を受ける利点はない。
さっさと断って家を出るべきだと思った。
しかし、思い返せば、私はフリードリヒに我儘を言われたことがないような気がする。
それに、私に決闘を申し込んだ時のフリードリヒの表情は見たことがないほど真剣だった。
だからか、私は思わず頷いてしまっていたのだ。
とは言っても、私がやることは一つだ。
フリードリヒ相手に実力の差を知らさせ、さっさとこの家から出ること。
魔術学院は期待外れだったが、この退屈な屋敷を出れば、私を満足させてくれるなにかがあるかもしれない。
「…………」
決闘が始まってから、フリードリヒは動き出す様子がない。
注意深く私を見つめている。
はっきり言ってつまらない戦法だ。
魔術学院で私が名を上げると、模擬戦でそんな動きをする生徒は多かった。
私の行動を見てそれに応じた行動をすれば勝てると踏んでいたのだろう。
だけど、私相手に様子を見たって無駄だ。
結局は力で押し切ってしまえるのだから。
「
中級の氷結魔術を無詠唱で唱える。
私の頭上に肘から先ほどの長さの氷塊が現れた。
だが、これはあくまで決闘……模擬戦だ。相手を殺さないために本来鋭いはずの先端を丸くしてある。
魔術学院で戦った生徒は、ほとんどがこの
魔術に才能が無く、努力もしないフリードリヒだ。おそらく直撃、私の勝ちだろう。
そもそも、無詠唱魔術を防げるものなどごく少数だ。
無詠唱魔術はなんの予備動作もなく発動する。
魔術師と戦う際は、相手の詠唱を聞いてから適切な行動を起こすのが最適解。
詠唱を聞き、なんの魔術かを判別し、それにあった行動――避けるか、防ぐ魔術を唱える――を判断する。
しかし、無詠唱魔術はそうはいかない。
いつの間にか魔術が発動されているのだ。相手の魔術がこちらにくる一瞬の間で最適解を導くなどほぼ不可能。
きっとフリードリヒも容易に敗れるだろう。
「クリスティーナならそう来ると思った……」
「……?」
フリードリヒがなにか呟いた。
しかし、周囲にいる野次馬の悲鳴で聞き取れない。
「『魔力よ。汝、強固な土の壁となりて我を守る盾にならん――『
突如、私の
直後、
「な、なんですって!?」
私は瞠目した。
あのフリードリヒが魔術を使った事にも驚きだが、彼が使った魔術への驚きの方が強い。
フリードリヒが
――どういうこと!?
「『魔力よ。汝、氷の弾となりて、かの者を貫かん――『
「っ!?」
私が突如現れた土の壁に夢中になっているのも束の間、フリードリヒがその壁の裏からまた何か呟いたと思ったら、小さい何かが飛んでくる。
「くっ!」
私は上体を思いっ切り逸らすと、一瞬前まで私の頭があった場所に、親指ほどの氷塊が通り過ぎて行った。
(またっ! 見たことのない魔術!)
それの先端は、私が先ほど使っていた
しかし、そこが尖っていれば人を殺傷することも不可能ではないだろう。
当たっていれば、私の負けだった。
「……面白い、かもしれないわね」
私は、少し本気を出してもいいかもしれないと、薄く笑った。
―――――
短くて申し訳ないです。
明日には決着させますん。
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