第6話 逆に考えるんだ「魔術は創ってもいいんだ」と考えるんだ
「魔術を……創る……?」
「うむ」
俺の声に、キーカは自信満々の様子で頷いた。
「汝の魔術とやらを見るに、魔術が発動されるのは詠唱の力が大きい」
「それは……そうだろうけど……」
確かに、集中する必要はあるが、魔術は詠唱をするだけで形を成す。
詠唱をすると魔力が勝手に動き出し魔術となるから、意外と楽なものだった。
「つまりだ、魔術を成すのは詠唱。詠唱の言葉一つ一つが魔術を作っているといってもいい」
それは先ほど言った九九の例と同じことだろう。
『9×5は?』と言われて、わざわざ9を5回足すのではなく、『くごしじゅうご』という言葉を覚えているからすぐに答えを出せると同じ理屈。
『
「いいか。魔法にとって大事なのは想像だ」
「想像……?」
「そうだ。自分に秘められし魔力がどのような姿となってこの世界に顕現するか。例えば、こんな感じで炎の球を作るとする」
キーカは唐突に、魔法によって右手の平に炎の球を作り出した。
二度目だから慣れはしたが、流石になんの予備動作もなくそんなことをされると少し驚く。
「しかし、これはなにも適当にしている訳ではない。頭の中で自分の魔力が炎の球になる想像をして作り上げている訳だ。これが魔法だ」
「なる、ほど?」
魔術は詠唱を唱えれば発動する。
魔法は自分の魔力をどんな姿にするか想像すれば発動する。
「まぁそう簡単な訳ではないのだが。まず初めに、魔法を使えない者はそもそも自分の魔力を制御することすら覚束ない。だからこそ、現世には魔術という術がまかり通っているのだろうからな」
キーカの話では魔法を使える者はごく少数だったらしいからな。
それに、魔術は詠唱を唱えれば発動するのだから、自分の魔力を制御する必要はあまりない。
なるほど。キーカの話は筋が通っているだろう。
……しかし、現に魔術を見たのは俺のものだけだと言うのにこの推理力というか想像力というか……。
キーカは一体、何者なのだろうか。
「そこで、魔術だ」
「……はぁ」
「例えば……そうだな」
そう言って、キーカはしばらく考え込むように黙りこくってしまった。
なんだか彼女の邪魔をするのも悪いと思い、俺も口を噤む。
「『魔力よ。汝、世界を創りかえる炎となりて、我が前に姿を現し、全ての敵を焼失せん』」
「え?」
沈黙を貫いていたキーカは、いきなり中二病患者としか思えない言葉を口にした。
「どうした。繰り返せ」
「繰り返せって……今のを!?」
やだやだ!
小生中二病はもう卒業したんだい!
「何を恥ずかしがっているんだ……。汝の魔術の詠唱も同じようなものだっただろう?」
……まぁ、確かに。
魔術の祖とか、力を以ってとか、かの者とか……。
恥ずかしい単語に躊躇うのは今更か。
「分かったよ。言います、言いますよ」
「ああ。……ぁあっと、これはただ言うのではなく集中しろよ。自分の中に眠る魔力に言い聞かせるように、自分の中の魔力が巨大な炎になるような想像をしろ」
「はぁ……」
ここは素直に従っておくべきかと、俺は目を閉じ集中する。
……自分の中の魔力。
詠唱をするたびに騒めき出す奇妙な感覚に、俺は神経を研ぎ澄ませる。
「『魔力よ』……!?」
そう呟いた瞬間、俺の中で何かが飛び起きるような奇妙な感覚を覚えた。
魔力の動きなのだろうが、先ほどまでのものとは違う。なんだか……言葉では言い表せない違いだが……自主的……そんな感じだろうか?
「いいぞ。貴様の体にはいまいち才覚を覚えなかったが、見込みがあるのかもしれん」
体の中を飛び跳ねるように激しく動く魔力の制御に手一杯で、キーカの言葉は脳まで届かない。
とりあえず今は、キーカが言った詠唱に集中しなければ――!
「『汝、世界を創りかえる炎となりて、我が前に姿を現し、全ての敵を焼失せん』……!」
体が熱い。
そう思った瞬間、体の熱源が全て突き出した右手に集中する。
右手は勝手にガクガクと動き出し、まるで暴れ出ようとするなにかを必死に食い止めようとする動きに見えた。
「……ふむ。魔術には詠唱の『締め』が必要か。そうだな……」
「キーカさん!? これ結構辛いんだけど!?」
先ほどまでならもうとっくに魔術は発動できているだろうが、なんか分からんが出来ていない。
右手熱い! 震える! なんか痛くなってきた!
このままだとダメ! なんか出しちゃいけないモンが出る!
ここが満員電車ならもう辞世の句読んでるよ!
「待て。今その魔術に相応しい名前を考えている」
「な、名前……!?」
「そうだな……。『
「それ大丈夫!? 変な漢字にルビ付けてない!? 神話警察に怒られない!?」
「ふむ……。お前の頭を覗き、『格好いい単語』として纏められている単語群の中から選んだのだが、駄目だったか?」
「駄目っていうか恥ずかしいというか黒歴史というか……! いや、もう無理これ抑えられない! それ言えば俺の右手の疼きは止まるの!?」
「ああ、恐らくな」
「くそ、言うしかないのか……! ……ええいままよ! 『
俺が真っ赤な顔をしながらそう叫ぶと、右手に集まっていた魔力が段々と形を作っていく。
「いいか、しっかりとラグナロクを想像しろよ」
「なにその言葉!? ラグナロクを想像しろってなに!?」
「知らんよ。我はそのラグナロクとかいう言葉を知らぬが。ただ、炎に関係する言葉なのだろう? だからその言葉を選んだのだが」
「炎……?」
そう言えば詠唱はなんか『俺の魔力よなんかすごい炎になれ』って感じだったな。
ラグナロク……?
なんだっけ、なんかの神話の『黄昏の日』みたいな意味だったか……?
確か、スルトみたいな名前の奴が、世界を燃やし尽くしちゃって……。
「え、そういうこと?」
だから世界を創りかえるとか物騒なワードがあったのか?
え、てか待って?
俺って今その世界を燃やしちゃうラグナロクを発動させようとしてるの?
てかなんか、右手の先が熱いような……。
「って、なんじゃこりゃああ!」
見ると、俺の右手の先にめちゃくちゃデカい炎の球が浮かんでいた。
どれくらいデカいかと言うと、二階建ての家くらいデカい。
なにこれ? 俺は太陽でも作ってんの?
「おぉ。どうやら推測は当たっていたようだな」
俺がバカでかい炎の球を浮かべていると言うのに淡々と冷静に呟くキーカ。
「ちょ、説明してくれ、説明!」
「説明なら先もしたが。……そうだな。魔法に大事なのは想像力だと言っただろ?」
「いや、それよりも先にこの炎どうにかして!?」
熱い! 熱すぎてなんも集中できない!
「……魔術と同じようにどこかへ飛ばせばよかろう」
「……へ?」
俺は、キーカと炎の球へ視線を何往復かし、右手をポンと前に突き出した。
すると、デカいデカすぎる炎の球は急速なスピードでどこかへ消えていった。
「おぉ……」
「それで、話の続きだが」
キーカは何事もなかったかのように続ける。
正直、あの炎の球は何処へ行ったんだと言う気持ちが強いが、それよりもあの炎の球自体が気になるので、キーカの言葉に耳を傾けた。
「魔法に大事なのは集中力。しかし、汝には魔法が使えるほど細かい魔力制御が出来る力はない。従って魔術の詠唱とやらの仕組みに力を借りた」
「力を借りる……」
「あぁ。汝の詠唱を見て思ったのだが、詠唱には魔力を活性化させる力と、術者の想像力を引き立てる力を持つ。従って、詠唱に魔法を発動するための想像力を促進させる言葉を含めてみたのだが……上手くいったようだな」
つまり……詠唱にこれから使う魔術を想起させる単語を加えることで、魔法っぽいことを俺にさせた……と?
はぁ、よくわからんな。
「しかし、これで立証されたな。魔術は自分で創ることが出来る」
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