7. 各々の反応
Side グルーシア
「彼には、本当に驚かされましたね。」
「...ああ。本当にな。」
「まさかあんな行動をするとは、正直自分の目を疑いましたよー。」
シンセリーと会話しながら、私は彼との先ほどの会話を思い出していた。
本当に彼には、驚愕させられた。
まず、最初に彼を見た時には、その佇まいに驚いた。
黒いローブで、フードを深くかぶっていた彼だが、かなり大きな魔力を見に纏っていた。
然し、腰に付けていたのは何処にでもありそうな銀色の剣。杖ではなかった。
そしてどうやら先のモンスターとの戦闘では、その剣で薙ぎ払ったとの事。
しかもその上、スキルで生み出した
つまり、彼は本当の実力を隠している。
そして極め付きなのが、その大胆さだ。
一見冷徹に物事を考える人物だと思っていた。
けれども私がギルドに取り入れたいが為に、
約束を破ったら奴隷になる覚悟を踏み躙るどころか、
むしろその覚悟を受け取り、自分の覚悟として昇華させ、私達に見せつけた事だ。
本当に謎めいているが、魅力的な人物だ。
どのくらい強いのだろう。あれで、冒険者登録をしていなかったんだ。
昔は傭兵か何かをやっていたのだろうか。
魔法も使用するのか、気になるところだ。
だが偽名を使用していた上、今後の詮索はよしておかないといけない。
なんにせよ期待の新人だ。出ていかれてしまっては困る。
きっと冒険者としては、彼が望めば名をすぐに知らしめる事になるだろう。
彼に対しての考察と、興奮が冷め止まない中、シンセリーがポツリといった。
「...先程から、ずっと止まってませんね。」
「ん?何がだ?」
「気づいてなかったんですか? 彼が帰った後から、ずっと笑ってましたよ。まるで、今までずっと飢えて、やっと獲物を見つけた虎のような。」
「...そうか。私笑っていたか。」
シンセリーに言われるまで、気づかなかった。
そう。自分が笑っている事に。
「...ふふ。そうだな。やっと現れたのさ。
もしかしたら私の、この渇きを潤してくれるかもしれない奴がね。」
ギルドマスターになってからのこの三年間、彼が現れるまでずっと待ち望んでいた。
きっと彼がそうなのだろうと、分かった。
この街全体に蔓延んでいた緩い雰囲気を、変えてくれるかもしれない人物だという事に。
「...それにしても、彼を取り逃がしたくないからって、
自分の体を簡単に差し出すのはやめてくださいね。別嬪さん?」
「...承知した。だからその呼び方はやめてくれ。」
「ふふっ。グリーシアちゃん可愛いー。」
これまで長年私を支えてくれたシンセリーには、頭が上がらないのであった。
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Side ゲルマン
そいつには何もかも、驚かされた。
俺たちが散々苦戦させられた、あのモンスターの大群。
ゴブリンやあの平原では現れないはずのグリーンウルフ、
そしてベロシダードバットの群れ。
恐らく数では、合計で100体を越していただろう。
普通では、ベロシダードバットは素早くて攻撃するタイミングを見切らないといけないし、
ゴブリン、グリーンウルフは、攻撃自体単調ではあるものの、群れで襲ってくる。
その上通例なら、ゴブリン、グリーンウルフは協力して、獲物を狩る事はしない。
通常なら、倒せもしないのだ。
それを彼は瞬く間に、しかも一つのアイテムを使用して、全滅させたのだ。
冒険者ランクBのオレ達だって、護衛対象がいなければ勝てたかもしれない。
だがそれでも、一瞬で倒すのはもちろん無理だ。
しかも、そいつは見た事もないアイテムを使用して、気絶させた。
不気味な奴だと思っていた。
然し、どうも掴めないのが、彼の性根だ。
町に入ってくる者を検問している門番に、恐れ退いていたのに、
自分のスキルがバレないように、祈る姿があったのに、
オレ達でも未だに緊張するのに、
あの『氷の槍姫』の前では、
それらの行動が、まるで嘘かのように啖呵を切る姿を見せた。
しかも彼も冷静に、人を分析しているみたいで、
シンセリーさんの『アイテムボックス』のスキルもすぐに見抜いていた。
あの緊張する場面で、人を分析する胆力があったのである。
そして約束を破ったら奴隷になる覚悟という、
ギルマスの覚悟を受け止めただけでなく、
昇華させてしまった。
不思議なものだ。こんなおじさんなのに、一種の恋煩いのように彼に魅了されている。
会談の後、流石に夜も遅いので、オレ達が以前利用していた宿を彼に紹介した。
彼が冒険者登録をするのも、明日にする事となった。
彼をその宿に連れて行った後、ラッセルにオレは呟いた。
「...アイツ、もしかしたらさ」
「ん?どうしたよ?ゲルマン?」
「この世を変える存在になるかもな。」
彼の一挙一足が、俺たちまで変えさせられるものになるかもしれないな。
オレは満月の夜に、そのように思うのだった。
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Side 女神カリダーナ
「はあー。本当に見ててハラハラするー。」
私は、私が管理している異世界に召喚した、ミツマサ=ヨシミの初日の様子を
自分の住む空間から、特殊な水晶で眺めていた。
三年前、今回の事の発端はそこまで遡る。
神達にも、江戸時代の文化でいうと五人組みたいに、神同士で互いに互いを管理する仕組みがある。
その為、抜き打ちで他の世界の神が見にくる事がある。
とある日、別の神がそのシステムにより、抜き打ちでパラダイシアに見にきた。
そしたらなんとパラダイシアの当時の管理者が、
無断で地球の技術を盗み、自分の世界の使徒に流していたのが判明した。
他の神に断りも無く、技術を盗んだのは兎も角、
その技術を使って、自分の世界を豊かにするどころかめちゃくちゃにしてしまった。
その事を咄嗟に他の神に報告し、緊急会議が開かれ、前任の神は追放処分となり、
同時に他の神も同様な事をしているのも発覚したので、その神達の管理権を没収し、
一度自分たちの体制を整う事にした。
そして今回、体制を整備し直し、実験として側面を持ちつつ、地球から人を呼び寄せる事となった。
それが、今回召喚されたミツマサ=ヨシミである。
今まで、召喚されたもの達に断りを入れられ、やっと希望者を見つけ、始まったこの召喚劇。
彼は実験の側面もあると理解しつつ、今回の話に乗ってくれた。
とりあえず、私たちは加護を与え、見守る事しかできないが、成功するのを祈るしかない。
だがそれにしても、いきなり他人にスキルを見せてしまうとか、何考えてんのよ!
いきなりあんなアイテムを使って、無双するなんて。
しかも使った本人も驚いていたから、きっと...
「私たちの加護が暴走したのね...。」
そう。彼をあの世界に送り出す前に、伝えていた事がある。
それは私たちの加護が思った以上に、強く影響が出るかもしれないという事。
実は、私カリダーナは世界の管理自体を任されたのも、パラダイシアで初めてだったので、何もかもうまくいくとは思っていなかった。
そして、早速私達側のミスで、彼に手間を取らせる事になってしまった。
「ほんとにねえ。最初、モンスターの群れに突っ込んだのには、びっくりしたわあ。」
「だがスキルを使って倒してはいた。てっきり剣で切り倒すかと思っていたのだが...。そういえば彼戦闘経験、皆無だったのを忘れていたな。」
と話しかけてきたのは、私の姉であるグロリアス姐とサヴィルディア姐であった。
今回の件で、手助けとしてサポートに入ってくれている落ちこぼれの私には勿体無い姉達だ。然し...
「グロリアス姉さん、彼にハリー...なんちゃら?とかという人物の服装、与えたのあなたでしょ?」
「ギクっ!」
「はあー、やはりね。姉さん生前の彼が好きだったとは言え、ちょっとどうかと思ったわよ。」
たまに変な事をするのは残念なところなのよね。
しかもそれについて、反省しようとしないのも欠点である。
「それは私も同感だ。彼本当に戸惑っていたぞ。」
「だってえ、多分彼は必要ない事ならやらなさそうじゃなあい?
だから頼んでもやってくれないと思ったのよう。」
「それでスキルに乗じて、自分の好きだった作品の主人公の服着せようとする?
それ彼氏が無理矢理彼女に好きな服以外来させようとしないのと一緒よ?」
「下手をすれば、また地球の神から批判くるぞ。ほどほどにな。」
「はあい。」
「だが私も人の事ある意味言えないな。今回だが...」
「ええ。どうやらサヴィルディア姐の加護が強く発動したみたいね。」
サヴィルディア姐が言っているのは、彼がスキル「ネットダイバー」を使用した際の事だ。
スキル「ネットダイバー」で、超音波発生機という地球の害獣撃退用の機械を購入した際、どうやらサヴィルディア姐の加護の影響で、強化され、モンスターを気絶させるまでになってしまったらしい。
これについては、ミツマサに事前に伝えていたものの、
まさかのパラダイシアでの初戦闘という、思い掛け無いタイミングで発動してしまった。
「まさかいきなり影響が出るとはな。」
「けれどまだいい人物に出会えたから、良かったわ。」
「ん?それを考慮して、あのブライト王国のパリッシュという街にしたのではないのか?」
「うん。そうでもあったんだけど、
少なくともあの商人に会うのは、私の予測ではまだ先の話だったのよ。」
「でも本当にねいい人達に会えて良かったわねえ。あの子。
あの国の首都は、悪い性格の人多いから、行っていたら絶対利用されたわよお。」
「うん。それも考慮してあの街の近くに召喚したのよ。」
「とりあえず、まずは無事に過ごしてくれるのを願うしかないな。」
「そうね...。」
私は水晶を再び覗き込んで、彼が行うのを随時見守る事にした。
彼がこの世界を変えてくれるかもしれないというのを願って。
自信喪失者の異世界向上記(仮) KOM-KOM @Hopeless13
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