6. パリッシュと冒険者ギルド

すみません。長くなりました。

けれど読んでいただけると幸いです。

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パリッシュ


ブライト王国フーリオ領に位置している古都で、

北の辺境の土地であるフーリオ領では大きな町である。


主な産業は、酪農、農業で、街一つで王国の食料を支えている程の食の台所である。

特産品は、エール、小麦、牛乳、ジャガイモとなっており、王国一の食料地帯にしては至極当然なラインナップとなっている。


元々2000年前の科学技術国家との争いでは、防衛拠点の一つとして機能していた。


戦争が終わった後は、この辺境の土地を治める領主の街として今でも続いている。


現在の領主は元々先の戦争で、槍で武勲を挙げた男と魔法で成果を上げた女性との子孫らしく、


槍と魔法どちらの才も持つ上に、かなりのイケメンで、

民衆からは、その真っ当な治世で支持を得ている。

まさに天は二物を与えずという言葉に反するのを体現した人物である。



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Side テルマサ


「はあ...。無駄に疲れた...。」


ハロルドさん達に助けられて、なんとかパリッシュに入る事が出来た俺は、

先刻のモンスターに襲われた件を伝える為に、この町の冒険者ギルドに向かっている。


「ははっ! お前みたいな強いやつでも、門番の審問程度で疲れるんだな。」

と明るい声で揶揄って来たのは、冒険者パーティー「自由防衛団」のリーダー、ゲルマンだ。


俺は、冒険者ギルドにモンスター襲撃の詳細についての話を円滑に行う為、

冒険者パーティー「自由防衛団」のメンバー達と一緒に行っていた。


話をスムーズにする為に、

斥候役のラッセルには先に冒険者ギルドに行ってもらっている。

どうもギルドマスターは、なかなか時間が取れない忙しい人物らしい。


ちなみに、ハロルドさんは、依頼達成の証明書をゲルマンに渡した後、別れた。

あれほど道中急いでいたんだ。余程の事なのだろう。


「...勘違いしないでくれ。俺はそこまで強い人間じゃない。」


「いやあのモンスターの大軍をほぼ一瞬で倒したんだ。

そんなお前が、たかが門番に詰め寄られただけで日和っているとはな。

驚きを隠せんさ。」

とゲルマンは、まるでいたずらが成功した子供のような笑顔を向けて来た。


少し、俺の実力を持ち上げすぎではないか?


先ほどまで車酔いならぬ、馬車に酔っていたのにこいつ…。

もしかして、こっちが素顔か?

クールなのかと思っていたが、少しやんちゃなのかもしれない。

ちなみに酔いは、ハルマンさんの持っていた酔い用の回復薬を飲んで、治っていた。


「...ところでギルドマスターはどういったやつなんだ?

一つの組織のリーダーになっているんだ。それなりにすごいんだろ?」


「それなりじゃねえな。

...うちのギルドマスターは、女性で元々凄腕の冒険者だったんだ。

『氷の槍姫』と呼ばれていて、トップランカーに名を連ねていた。

後もう少しのところで、Sランク冒険者になれそうだったと聞いている。」


「...怪我か?」


「...ああ。片目を失明してな。槍も以前と比べて、長く持てなくなったらしい。」


む。失明はともかく、長く持てなくなった?これは何か腕とかに異常があるのか?

医者とかではなかったから、どうなのか分からんが...。


まあ、今まで冒険者の第一線で活躍していた奴が、戦えなくなって裏方に回るのは未練があるのか...。

それとも何か理由があるのか。

決めつけるのは早いが、どちらにせよさぞかし悔しかっただろうに違いない。


とりあえずスムーズに話を聞いてくれる事を願うが...。


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Side ギルドマスター グルーシア


私は、パリッシュの冒険者ギルドマスター、グルーシア。


Sランク冒険者を目指していたものの、失明と怪我により、冒険者を引退。

今は、当時空席だった冒険者ギルドマスターの席に座る事となった。


あの時と違い、裏方に回ったものの、それなりに充実した生活を送っていた。


けどどうも満足できない。けれど嫌にでも、納得するしかなかった。

もう戦えなくなってしまったのだから。


そんな冒険者ギルドマスターになってから、三年の月日がたったある日、

突然ある報告が上がって来た。


「...何? それは本当か?」


「はい。自由防衛団のラッセルさんから報告が上がりました。」


「テイマーとかならともかく、強化された魔物だと。その上...。」


「はい。ゴブリンに加えて、普段ペイン平原には現れる事がないグリーンウルフ、

明るい所では活動できないはずのベロシダードバットまで襲って来たのは驚きます。一瞬、私達を騙しているのかと...。」


「よりによって、報告して来たのが、Bランクパーティーの自由防衛団だからな。

真面目で名を通っている彼らだ。それはないだろう。」


なんとペイン平原で昼間に、ゴブリンに加え、普段現れないグリーンウルフ、

ベロシダードバットの大群に襲われたとの報告が上がって来た。


しかもそのモンスター達は互いに協力しながら、一斉に襲って来たのだ。

同じ種だったらともかく、他種族と協力するモンスターなんて聞いたことがない。


それこそテイマーとかならあり得るのだが、

今テイマーのジョブを持つものはほとんどおらず、

持っていたとしても、王国とは別の国に匿われていると聞いている。


しかも報告の中に、そのモンスター達が強化されていた事が発覚しているらしく、

加えてそれを判別したのは、「自由防衛団」のメンバーではなく、

冒険者登録をしていない無名の人物。


名をテルと言い、他国から流れて来た人物であるらしい。

黒いローブを着ているにも関わらず、剣でゴブリンを斬ったかと思ったら、

怪しげなアイテムでモンスター達を気絶させたという。


そのような人物がいるのか?


「マスター。「自由防衛団」の皆さんとテルさんという方がいらっしゃいました。」

「通してくれ。」


会って確かめればならない。どのような人物なのかを。


謎めいた人物に、興味を持った私は久しぶりに動揺を隠しきれなかった。


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Side テルマサ



冒険者ギルドについた俺たちは、すぐさまギルドマスターと面会する事になった。


全く見ず知らずの人物を入れていいのかと思ったが、

ギルドマスターが直々に判断したいとの事で、彼女の部屋に通してもらえた。


受付嬢に案内され、ゲルマンが扉にノックする。


「ギルドマスター。「自由防衛団」リーダーゲルマンです。

先の件でお話ししたい事があります。」

「入れ。」


扉の奥から、女性の声が聞こえた。

そしてゲルマンが扉を開け、中に入るとそこは広い部屋であった。


両脇には、本棚がびっしりと佇み、

部屋の中央には、奥と手前に来客用のソファとテーブルが置いてある。


そして奥の机の側に、長い銀髪でマントを羽織り、銀の鎧を着た女性が立っていた。

右目に眼帯をしている事から、

どうやら彼女がギルドマスターであり、『氷の槍姫』らしい。

...鋭い目つきや雰囲気から、やっぱり只者では無い。


「「自由防衛団」の諸君よく帰還してくれた。そして君がテルだな?」


「...ああ。あとそれは偽名だ。本当はテルマサ=ヨシミと言う。

ゲルマンやラッセル達に頼んで、一旦偽名で名乗らせてくれと俺が頼んだ。」


「そうか。私がこのパリッシュの冒険者ギルドマスター、グルーシアだ。

早速だがこちらに来て座ってくれ。」


促されたので、手前の来客用のソファに座る。

その後、受付嬢の方が紅茶を運んで来てくれた。一応持て成してくれるらしい。


グルーシアが反対側のソファに座り、受付嬢が彼女の背に立つと、言葉を発した。


「早速だが、テルマサに聞きたい事がある。いいか?」


「...ああ。」


「君が数多のゴブリンだけでなく、グリーンウルフ、ベロシダードバットの大群を倒したのは本当か?」


「ああ。証明できるものとして、今、奴らの骸を出せるが出したほうがいいか?」


「...お願いする。」


彼女の許可が出たので、遠慮なしに「アイテムボックス」からゴブリンの耳、グリーンウルフの皮、ベロシダードバットの羽を床に大量に出してやった。


目の前に突然出て来たので、グルーシアと受付嬢は驚いて、口をあんぐりと開けていた。


「「...。」」


困惑していたグルーシアが受付嬢をみると、彼女が首を横に降っていた。

む?もしかして、異世界ものによくある嘘を判別できる能力を持っているのか?


「...どうやら本当らしいな。」


「余計かもしれないが、隣のゲルマン達も、

そして護衛対象だったハロルドさんも証人になってくれるはずだ。

聞きたければ、聞いてくれ。」


と隣に座っているゲルマン達に顔を向けると、頷いてくれた。


「俺たち「自由防衛団」が彼の実力を証明します。彼の言っている事は本当です。」


「...分かった。倒した事は認める。

次に聞きたいのは、このモンスター達は何者かに強化されていたとの事だが、

どのように君は判別した?」


「...俺のスキルによるものだ。

持っているスキルに、モンスターやアイテム等の詳細を調べるスキルがある。

それで判別できた。」


「「鑑定」スキルか?」


「似たようなものだ。他人と比較した事がないので、よく分からんが。」


またグルーシアが受付嬢を見る。

彼女は首を縦に振った。嘘はついていないという事だろう。

どうやら、彼女は嘘を判別できるスキルの持ち主のようだ。


「...分かった。次の質問だ。

ラッセルからは、ある道具を使って、モンスター達を気絶させたという報告が上がっている。

そのアイテムを見せてもらえるか?」


「...ああ。」


やはり見せてくれと来たか。

あんまり見せたくないが、仕方がない。


渋々俺は、超音波発生機を「アイテムボックス」から取り出し、机の上に置いた。


「...手にとってみても?」


「ああ。」


グルーシアは、まじまじと超音波発生機を手にとって、注意深く眺める。

そして訊ねて来た。


「これはどういった用途に使用するのだ?」


「...本来は蝙蝠系統の害獣を撃退するものだ。俺の故郷で使用されている。

ただ俺のスキルによって強化され、気絶にまで追いやる事ができるようになった。」


「...これは、失われた文明の遺産科学技術によるものではないのか?」


としか。」


だってスキルで強化されて、

本来の効果以上の効果を発揮してしまったんだから、仕方がないしな。

ある意味改造されたとしか、言えない。


その説明を受けて、ただ嘘はついていないかと再び受付嬢の方を見たグルーシア。

受付嬢はただ首を横に降って、肯定するしかなかった。


「...。本当のようだから、あえて提言しておく。君のスキルは強力だ。」


「あまり見せびらかさない方がいい。そうだろ?」


「ああ。分かっていてくれて助かる。」


「俺だって、本当は見せたくない。今回は緊急だった為に、使用しただけ。」


「その言葉を聞いて安心した。…今回の件は事実とし、至急対策と調査を行おう。

それで報告した礼を出したいのだが、何がいいか?」


お礼か...。といってもなあ。特段に求めている事は...。いやあったわ。


「じゃあ冒険者登録がしたい。登録料とかかかるだろうから、多少融通してくれると助かる。」


「ん?それだけでいいのか?」


「それじゃあ、もう一つ。俺のステータスについて今後追及するのはやめてくれ。

そしてその事を証明とするが欲しい。」


「...分かった。いいだろう。...シンセリー。契約魔法の書類を。」


グルーシアがシンセリーといった受付嬢に言うと、

彼女は何も無いところから紙をすぐに取り出し、グルーシアにそれを渡した。

どうやら彼女も「アイテムボックス」を持っているそうだ。


グルーシアは受け取ると、そのまま書き始め、書き終えると俺に渡して来た。


内容を見て、俺は驚いてしまった。内容にはこのように書かれていた。


一. パリッシュの冒険者ギルドは、テルマサ=ヨシミの情報について必要がない場合、追求せず、漏洩させない。

二. テルマサ=ヨシミについての情報を冒険者ギルドが漏らした場合、

パリッシュの冒険者ギルドマスター グルーシア=ソベルディアは即座にマスターを解任し、テルマサ=ヨシミのとなる。

三. この契約は、パリッシュの冒険者ギルドとテルマサ=ヨシミ間での契約とする。


「ちょっと待て! これはどう見ても重すぎる! 破ったらギルドマスター、あんたが奴隷になるって...。」


『なっ!?』


この内容については、どうやら「自由防衛団」にとっても驚愕の内容らしい。

シンセリーさんにも伝えられていなかったようで、驚いた顔をしている。


「...それぐらい私は本気だという事だ。」


彼女は真剣な眼差しで見ていた。

そもそも何が彼女をそこまで突き動かすのか?

...分からん。何か裏があるのか?


一旦、横にいたゲルマンに小声で訊ねる。

「ゲルマン。」

「な、なんだ?」

「この人嘘をつける人間では無いよな?」

「ああ。むしろそういうのは苦手な分類の人だ。結構冒険者時代に騙された事もあるらしい。」


ゲルマンがこう言うのだから、おそらく覚悟を持っているのだろう。

けれどどうして、どうしてこのような事をするんだ。


「...取り敢えず、納得がいかん。何故そこまで、俺に肩入れする?」


「...簡単な事だ。私は君に対して、恐れを抱いている。

しかし、...同時にとも思っている。」


恐れと期待?どういう事だ。しかもそれを簡単なことって。


彼女は相変わらず、真剣な目で俺を見ている。

どうやらこれ以上何いっても、理由を述べてくれないし、

それに意見を変える積もりも無いようだ。


...すげえよ。あんた。これが元トップランク冒険者の覚悟ってやつか。

やっぱり俺は冒険者を舐めていた。

いいだろう。その覚悟に乗ってやるよ。


「...あい、分かった!その覚悟受けとった!」


そして俺は、その契約書を持つとびりっと破り捨てた。


『!?』


「形にこだわるのはもういい!いらん!

だがあんたたちには、俺のことについては黙っててもらう!

だがあんたらに何かあったら、俺に出来る範疇内でだが、

進んで協力させてもらう!」


そこにいた者たちは皆、驚いていた。

だが、気にせず話を続ける。


「それに...簡単に自分の身を差し出そうとするな。

そこの受付嬢さんはめっちゃ心配していたぞ。

他人の気持ちをもっと考慮してやれ。

それに...、せっかく別嬪さんなんだから、

、本当に好きな人が現れた場合の時にとっておけよ。」


「な!?」

グルーシアは、顔を赤くしていた。


こうして俺は、ギルドでの用事を済ませる事となった。


そしてこの出来事が、王国だけでなく、パラダイシアにある全ての国を巻き込む事になるのを後から知る事になるのだった。

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