4. 初戦闘

Side 護衛の冒険者



オレ達は、各地を流離う冒険者。


この世界では、基本的に長男に問題がなければ、家督は男の第一子に受け継がれる。

別に強ち、どこにでもある風景だ。どんなに裕福な貴族や王族でも、この文化は当然のように見られる。


オレ達もその例に漏れず、同じ何もない小さな村から出てきた農民の次男坊や三男坊である。

今は同じ村を出たもの同士で、パーティを組んでいる。


冒険者は危険な仕事だ。いつ死ぬかわからない。

ただ、生きていくためにはこの仕事をやっていくしかもう術がない。


故郷から出て、この仕事を始め、もう10年になる。

何気にパリッシュの冒険者ギルドの中では、オレ達は我ながら、上位に引けを取らないほどの活躍ができていると思っている。


ただここ最近、壁にぶち当たっているような気がする。


依頼は成功しているものの、何故か実力が上がらない。


もっと上に上がりたい、強くなりたい。

男なら、いいや冒険者ならきっと多くの者が思っているだろう。


冒険者のトップランカーに名を連ね、いずれはS級冒険者になる事を。


そんなこんなで、今回受けた仕事は、とある商人ハルマンの護衛任務であった。


彼はパリッシュの商人ギルドのギルドマスターをしているが、珍しく焦臭い噂がなく、オレ達のような冒険者でも丁寧に接してくれるいい商人だ。

今回は、パリッシュの外に商売をしに行っており、その帰りだという。


「いやー今回は、助かりました。行きは別の冒険者の方がやってくれたのですが、中々パリッシュまでの護衛を引き受けてくれる方が見つからなくて...。」


「そりゃあ災難だったな。でも時期が悪いな。あんたが滞在していた町の近くに、セニッサタートルが大量に現れるからな。あの亀は手こずるが、甲羅は防具になるし、鍋の材料になるからな。特に子を成したい貴族には、もってこいだ。」


「そうなんですよね。私ももう少し残って商売をしようかと思っていたのですが、ちょっと急遽帰らなければいけない理由ができましてですね。」


「ああ成る程。それで今回、商機になるチャンスをみすみす見逃して帰るのか。」


「おっしゃる通りで...。」


どうやら今一彼の様子が落ち着いていない。これは明らかに何かあったな。

おそらくここからは、プライベートのものだろう。関わってはいけないな。



そして、別の町からの護衛を始めてから、2日経った。

相変わらず、ハルマン殿が落ち着いていない。どこか上の空だ。


彼についてよく聞く話では、なかなかのやり手で、抜け目がない人物だと聞いているし、何しろ以前一緒に仕事をした際にはこのような様子ではなかった。


恐らく数日前に述べた、パリッシュに今すぐ帰らなければいけない理由によるものだろう。


「なあゲルマンよお。ハルマンさん大丈夫か?」

と尋ねてきたのは、同じ村から出てきた斥候役のラッセルだ。


「...いや良くないな。あの人にしては珍しく、上の空だ。」


「そうだよなあ。...確かあの人奥さんと娘さんいたよなあ。もしかして...。」


「いや余計な詮索はよそうぜ。ラッセル。心配だが、オレ達にできる事はない。

それよりもパリッシュまでもう少しだ。引き続き、警戒してくれ。」


あいよと言った彼に、哨戒にもどらせる。

あまり現を抜かしてはいけない。パリッシュの商人ギルドに彼を送り届けるのが、俺たちの任務だ。


と思っていたその時、突然目の前にナイフが飛んできて、ザクッと足元に刺さった。


「...は?」


投げられた方を見ると、ゴブリンが立っており、周囲はすでに囲まれていた。


「グギッ、グギギギッ」

「おいおいこいつらどこから現れやがった!」

「全員臨戦態勢用意!囲まれているぞ!」


可笑しい。普段ならこのような引けは取らないし、そもそも斥候役として優秀なラッセルが囲まれるまで、気づいてないというのも尋常じゃない。


そもそもゴブリンだ。こんな近くまでいて、襲うために潜む知能すらない。


冒険者としての勘が言っている。このゴブリンどもは、尋常じゃない。

嫌な予感がする。


それでもオレ達は護衛として、ハルマン殿を護りながら、戦うしかなかった。


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あれからおそらく20分くらいかかっただろうか。今だに数が減らない。

それどころか、むしろ増えている気がする。


「一体こいつら、どこから来ているんだ...。しかもグリーンウルフまで現れやがった!」


「やばいぜ、ゲルマン。なんでこんなに多いんだ!その上、この草原地帯では現れないベロシダードバットまで...。」


「知らん! とにかくハルマン殿を守れ!」


普段、このペイン草原では出現せず森を住処にしているグリーンウルフや、洞窟を寝床とするベロシダードバットまで出て来た時点で、もうこれは異常事態が発生していると確信できた。


それでも、オレ達は必死に戦うしかなかった。


けれどいつまでも耐えられるとは限らない。限界はもうすでに訪れていた。

そして


「うわああああ!」


叫び声を見てみると、仲間のヒーラーがウルフの攻撃を食らって、倒れてしまった。


とてもまずい。ヒーラーがいなくなるだけで、回復できる手段が限られてしまう。


その上さほど多くのポーションも手元にないし、この連続攻撃が続くなら回復すら行えない。


そしてその隙を狙われて、オレはゴブリンに棍棒で吹っ飛ばされた。

まずい動けねえ。打ち所が悪かったみたいだ。


「...オレ達が...こんなところで...。しかもゴブリンどもに...。」


オレを棍棒でぶっ飛ばしたゴブリンが、とどめを刺そうとした。


「もうダメか...。」


「ギュガアーーー!!!」と奴が叫んだ次の瞬間、なんとゴブリンの首が離れ地面にぽとりと落ちたのだ。


「...な!?」


そして気がつくと、ゴブリンの後ろには、黒いローブを着た男が立っていた。

その男は、顔が見えないくらいフードを深く被っていた。

おそらくゴブリンを斬った剣を、右手に持っている。


「...大丈夫か?」


男は低い声で聞いてきた。


「あ...。」


「む。どうやらが少し動けないようだな。まあ休んでろ。」


そして男はこう言ったのである。


「『あと任せろ』というやつだ。」


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Side ミツマサ




危ねーーーー――!

少し準備をしていたら、危うくこのリーダー的な人死にかけてんじゃん!


しかもなんだよ。「『あと任せろ』というやつだ。」って!


変に格好つけるような事すんなよ!俺!


...まあともかく、俺がどのような準備をしていたのかというと。

「ネットダイバー」で、変装用の服を購入。それだけ。

どんな風がいいのか分からなかった為、とりあえずおすすめに出てきたものを購入。

で買ったものを見て、驚愕した。


...これハリー・○ッターじゃねえか。誰がダニエル・ラド○○フだよ。

これに丸メガネかければ、まんまじゃねえか。

しかも購入した奴が何気に、テーマパークで売られている公式の奴だった。おい。


つまりそれに衝撃を受けて、戸惑っていた為、加入が少し遅れてしまったのである。

...今度から購入するときは、よく見よう。


「まあでもこれでもいいよな。使うの魔法じゃねーけど。」


と俺は剣を持ち直して、ローブなのに剣を持つという矛盾な格好をしながら、

改めてモンスター達を倒すために駆けた。


リーダーのやつの周辺のモンスターを倒した俺は、すぐさま倒れているヒーラーらしきやつのところに援助に向かい、ナイフを持ったやつと共闘しながら、モンスターを倒していく。


緑の狼が爪で攻撃をしてきたが、とっさに剣で弾き返し、すぐさまそいつの喉元を掻っ切った。


間合いがイマイチ分からない俺だったが、適正のおかげか次々と相手の弱点を剣で斬っていく。

勘に近いものではあるものの、なぜか弱点がわかる。どうやらそれはスキル「鑑定」のおかげらしい。


「鑑定」はその名の通り、アイテムやモンスター、人のステータスまで判別する事が出来、モンスターに至っては種族、生息地、特徴がわかる。


今回のゴブリン、緑の狼、蝙蝠はこのような感じだ。


モンスター名: ゴブリン(強化)

生息地: ペイン平原

特徴: どこにでもいるモンスター。知能は低いものの、集団で襲う。

何者かによって強化された。


モンスター名: グリーンウルフ(強化)

生息地: 獣の森

特徴: 基本的に森に生息。集団で襲う。爪に麻痺状態にさせる毒あり。この毒では、死なせるほどの効果はない。

何者かによって強化された。


モンスター名: ベロシダードバット(強化)

生息地: パラダイシア各地の洞窟

特徴: 洞窟に生息。移動が素早く、生物の生き血を吸って、毒状態にする。高音波で相手をびびらせる。

何者かによって強化された。


なるほど先ほどのリーダー的なやつは、このグリーンウルフの麻痺性の毒を受けていたんだな。

おそらく動いているうちに、毒が回ってしまったんだろう。

死なないらしいし、一旦彼は放置だな。


しかし気になるのは、共通してある「何者かに強化された」という文だな。

どうやら誰かにより、差し向けられたらしい。余計に、きな臭い事になってきたぞ。


まあともかくこのように、スキル「鑑定」によって軽く解析する事ができる。

激しく動きながらも、我ながらかなり落ち着いているなと思っていたら、


「ピィーーーーーーーーーー!!」


うるさ!


突然ハスキー音が鳴り出した。

どうやらベロシダードバットが、高音で俺たちを動けさせないようにしている。


「っ!蝙蝠なのに生意気だな!」


すかさず俺は、ハスキー音を出しているベロシダードバットに向かって、その場にあったナイフを投げる。

だがベロシダードバットも避け、狙いは外れた。

やはり先ほどの「鑑定」スキルの説明の通り、かなりのスピードで動けるらしい。


「む。どうするかな。」


こういうモンスターが出てきた時、どうしてったっけ?

アニメの場面を、必死に思い出して、一つの結論に落ち着いた。


「...そっか。まあよくある方法だがこれしかないな。」


俺は、すぐさま「ネットダイバー」を使用すると、とあるものを購入し、

そしてすぐさま、それを


すると

「ピィ………。」


なんと突然、すべてのベロシダードバット達がふらつき、地面に落ちていった。

混乱した状態らしく、生きたまま気絶しているようだ。

しかもなんと残りのゴブリン、グリーンウルフも気絶してしまった。


そう俺が購入したのは、超音波発生機である。

これは本来、一時的にしか対処する事が出来ないとされているが、今回はむしろこれがいいだろうと判断し、即時購入し、使ったのだ。


だが少し気になるのは、効果だ。


「これ...。撃退の効果しかないんじゃないか。追い払うどころか、気絶まで追いやる代物ではないよな?」


そこで、「鑑定」を使用してみると、が書かれていた。


アイテム名: 超音波発生機(強化)

特徴: 異世界の技術で作られた。元々は超音波を発し、蝙蝠退治に使用。

だが、女神の加護により強化された。

効果: モンスター達の嫌な音を発し、近寄らせないようにする。

直に聞かせたモンスターには、


なんと女神の加護により強化されてしまっていたのだった。


「おいおい。...まじか。」


すぐさまステータス画面を開き、知識神の加護のスキルの詳細を見て見た。


知識神の加護(小)

知識神の加護。これを受けている者は、LVが上がりやすくなり、成長率も上がる。また魔法、スキルの習得もしやすくし、


これかあーー。

サヴィルディアさんや...。そういう事なら早くいってくれよ。

でも小なのにも関わらず、この強化の施し用は加護の力が大きいという事か?

これもやはり街に着くときには、「隠蔽」で隠さないと...。


こうして、色々とトラブルのあったものの、初めての戦闘が終了した。


護衛の冒険者達と、護衛されていた人が驚いた拍子で俺を見ている。


「さあ、どう説明するかなあ...。」

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