第十七話 魔女裁判
斜面を駆け降りる騎士たち。
全身を覆う板金の鎧を着ていても足取り確かに地を踏み締め、剣と盾を構えて迫りくる。
小柄なフュリスにとっては、まるで鉄の壁が押し寄せてくるようだ。
「止まりなさい。ここはガルトルード伯爵家の領地よ。
勝手な真似は許さないわ!」
「無視しなさい。
アニタさんは魔女に魅入られているのです。
話はフュリスを捕らえてからですわ」
アニタは喉が裂けんばかりに叫ぶが、それはディアナの言葉に打ち消され、騎士たちの勢いは止まることを知らない。
(どうしてディアナの声はあんなにも……)
人の心を揺さぶるのだろう? という思いを、アニタは頭を振って打ち消した。
自分自身がディアナの言葉を信じかけているように感じられたからだ。
それはアニタの思い違いなどではなく、実際にディアナはその言葉にその姿に法力を働かせ、存在感を周りの者たちの心に刻み込んでいた。
神学校では教えられていないその技は、ディアナが処分を受けた日に銀之聖者たるバーソロミューが見せた力であり、彼女はわずかな間にそれを学び取っていたのだ。
しかも、彼女自身は自覚することなく。
故に騎士たちを止める術は無く、彼らはフュリスに殺到した。
「きゃあああっ」
襲いかかる騎士たちに悲鳴を上げフュリスは呆気なく捕まり、地面に引き倒され固い靴底で手足を、2本の剣で首を押さえ込まれた。
「何するのよ。離しなさい!」
アニタもまた2人がかりで腕を固められ、身動きができずにいる。
抵抗の余地なく取り押さえられたフュリスは、ゆっくりと歩み寄ってくるディアナとエミリーを見上げた。
「ディアナ様、やめてください。
私は魔女ではありません」
「魔女は正体が暴かれようとする時に、必ずそう言うと聞きますわ。
王都でもハンプニー村でも、あなたが魔女だと証言なさる方はたくさんいらっしゃるのよ」
フュリスは身の潔白を訴えたが、容易く言い返されてしまった。
「あの娘、噂通りの魔女だったのね」
「ロディ、お前の責任だからな」
「ネリーやレベッカだって、あの子を庇っていたわ」
遠巻きに眺めている村人たちの会話が感じ取られ、ディアナの言葉が真実となりつつある。
しかも、それは彼女を受け入れてくれた人たちにも飛び火していた。
それがフュリスの心を締め上げて、喉を詰まらせる。
「そんな必要はないわ。
ディアナ、王都もハンプニー村も、あなたが囲っていた商人が噂を流してフュリスを魔女に仕立てていたのよ。
それは銀之聖者様が確かめていたわ」
代わりに反論したのはアニタだが、その声には普段の毅然とした力強さがない。
「それもまた、魔女の力を使って惑わせたのでしょう。
銀之聖者様も人の子でございますから、御自身が見つけた才能には目が曇られたのですわ」
ディアナは噂を流した件を認めつつ、それをフュリスと銀之聖者の責任にすり替えた。
「この国を守る聖人の学び舎は国民のみならず北方大陸に住まう人々の心の拠り所。
その信用を損なうことができたなら、彼女と契りを結んだ魔族はこの地を攻め落とすのも容易となって、さぞ誇らしいことでしょう。
アニタさん、あなたにはこの者が魔族と契約を結んではいないと、そう明らかにできる証拠はございまして?」
さらにディアナは巧妙に、アニタがガルトルード家の娘として身につけてきた国の守り手としての心と、彼女の手紙が国の窮地を招いたというディアナの指摘を思い出させた。
そのため、アニタは話のすり替えにもフュリスが魔女であるという証拠をディアナが示していない事実にも気付かず、口を閉ざしてしまう。
ディアナはその隙をついた。
「フュリスさん、あなたが魔女でないとおっしゃるのでしたら、それを証明しなければなりませんわ」
「ど、どうすれば?
証明しろって言われても、何をすれば良いんですか?
聖別した聖印を握ってみせれば良いですか?」
すんなりと誘導に乗ったフュリスに、ディアナは優しげな微笑みを浮かべる。
「フュリスさん、わたくしも、同じ学び舎で学んだあなたが魔女だと決めつけたくはないのです。
ですから、あなたが証を立ててくださるなら、わたくしはあなたを魔女として断罪せずに済ませることができます。
協力していただけますわね?」
「どうすれば良いのかおっしゃってください。
やります」
「良い心がけですわ」
ディアナが口元を手で隠し、隣に控えるエミリーに目配せした。
「はい。ディアナ様の仰せのままに」
エミリーは大仰に頭を下げ、肩にかけた鞄の蓋を開く。
その動きに全員の注目が集まった。
だから、ディアナが右手で覆ったその下でいかような笑みを浮かべたか。
それを見た者はいなかった。
聖女の軍装を纏った少女が、騎士たちに取り押さえられた少女に歩み寄る。
その情景を、遠間の森の中から眺めている者がいた。
背の高い木の梢に立っているのは、七色の髪と目を持つ女性。魔族の軍勢にあって四天王と称される魔族が1人、七彩のライキーナである。
明らかに見通しの良い高さにいるにもかかわらず、彼女の姿に気付く者は1人もいない。それは人々が村で起きている事件に気を取られていること以上に、彼女の持つ魔導の力が働いていたからだ。
「急いで来て良かったわ。
あの娘、私が村から追い立てなくても、今にも殺されてしまいそうじゃないの」
ライキーナは村での出来事をつぶさに観察していた。
彼女の両目は光を捉えることはできない。他の者たちのような視力は彼女には備わっていないのだ。
「あんなにも『黒い』のだから、殺さずにいられるはずがない」
代わりに、彼女の目は「色」を感じ取る。
光と言う媒体を通さずに色そのものを感じ取って、あらゆるものの像を「観る」のが、彼女に備わった魔導のひとつだ。その力は光や物の色だけでなく、概念的・心情的な意味での色にも及ぶ。
「あの聖女ども、本当に人間らしいわ」
その力で睨みつけたのは、筆頭聖女ディアナと付き人であるエミリーだ。
ライキーナの目には2人の姿形と、その身に帯びた法力の白さと、彼女たちの心の、その奥底に隠された色彩までもが映っていた。
「あのお方の命は『フュリスを村から追い立てろ』だったから、死なれたら都合が悪いわね。
あの2人、ちょうどいいわ」
フュリスの目の前に立ったエミリーを「観」つめて、ライキーナは暗い朱で彩った唇を歪めた。
ふゃーっ
物々しい連中がフュリスを捕らえたその近く、草むらの草の陰にいたルークは不満をささやかな鳴き声にして牙の隙間から漏らした。
(あれはなぜ逃げなかったのだろう。面倒ごとにしてもわざわざ自分で蜂の巣を暴いてから熊の前で踊らなくてもよかろうに)
不満の原因はもちろんフュリスだ。
ルークはそこそこ長い付き合いになりつつある人間の小娘が、あれほどの敵意を見せている同族どもの前に姿を晒した挙句、襲いかかられても逃げようともしなかったことに呆れかえっていた。
(あれはわしが見ていてやらんと、どうも危なっかしくていかん。
今までもどれほど肝を冷やしたことか。
しかし、あれには命を救われた。救われたからには、命を救ってやらねば貴族たる我らが誇りに反する)
ふにゃ~っ
不満は疲れた鳴き声になって再び漏れた。
(あの連中を相手にするのは、
ルークは生粋の狩人だ。彼我の戦力差を見極めるのは本能でできる。
異様な力を放つ2人の女と鉄の鎧と剣を持つ男どもに真正面から挑むのは、
だから彼は草むらに潜んで気配を隠し、にじり寄りながらチャンスを待った。
「それは?」
フュリスは、目の前に差し出されたガラス瓶を見つめながら尋ねた。
美しく彫刻されたガラス瓶の中には黄色味を帯びた透明な液体。
それを持っているエミリーはフュリスをまるで虫けらのように見下ろして、黙ったまま立ち上がると瓶の栓に手をかけた。
密封された捻じ込み式の栓をゆっくりと回す。
「それは、わたくしが聖別を行った聖水です。
筆頭聖女たる私の法力で聖別をしたものですから、わざわざ正規の聖印を使う必要はありません。
フュリス、あなたが魔女でないなら、この聖水を顔に浴びても何の影響もありません。
ですが、魔女であるならその顔は瘴気と共に焼かれて醜く爛れることになりますわ」
ディアナが良く響く声で高らかに告げた。
「自らこの聖水を、その禍々しいアザのある顔にかけなさい。
そうすれば、フュリス、あなたが魔女ではないと明らかになるでしょう」
優しい声で言い聞かせるように、ディアナはフュリスを促した。
「これを顔に浴びればいいんですね」
フュリスが応じると、ディアナは優雅に微笑み頷く。
「そうよ。エミリー、フュリスに渡してあげて」
「立たせなさい」
エミリーが騎士たちに冷たく命じると、フュリスは無理やり立たされた。首筋には相変わらず二本の剣が押し当てられていて、抵抗できる余地はない。
「さぁ、その手に瓶を取りなさい。フュリス」
ディアナの声にフュリスは震える両手を伸ばし、エミリーから瓶を受け取った。
(違う!)
持った途端に、彼女には瓶の中身が聖水ではないことがわかった。
瓶は強い法力に覆われていて触れるまではわからなかった。
だが瓶に触れると法力の妨げが薄くなり、中身に溶け込んでいるのはお世辞にも聖水など呼べない代物だと、灼熱感とともに「感じ取って」いた。
(これは、毒だわ。肌や肉を焼くような猛毒。どうしてディアナ様がこんなものを?)
驚きと不信を顕わにしてディアナを見れば、筆頭聖女を名乗る少女は微かに目を見開く。フュリスは、その変化を見逃さなかった。
思えば、違和感はあった。
フュリスが嫌がらせをされて仕事をしくじり、一人で始末をしていた時に現れたのは誰か? 思いやりを示しながらも彼女の後始末の手間を増やしたり、彼女が自らの行いを悔やむような優しい忠告を与えてきたりしたのは誰か。
(全部が全部じゃなかったけれど、この方は……本当に辛い目に遭った後には、それかその前に、この人が私の前に現れていたわ)
神学校では何度も感じながらも言葉と態度に表わされた優しさに自分自身を誤魔化してきた違和感を、フュリスは真っ向から自覚した。
「ディアナ様……いいえ、ディアナ、あなたは何をするために、ここに来たんですか?」
毒の入った瓶を固く握りしめ、フュリスはディアナに問いかける。
その一言が、手玉に取っていたはずの人形が発した人間らしい問いかけが、ディアナの心の底に穿たれた亀裂を押し広げる。
「この期に及んで言い逃れのつもり!?
そこの者、魔女が逃げる前に聖水を、その顔に浴びせてやりなさい!」
激高した声音に騎士たちがディアナを振り返り、指差された1人が慌ててフュリスの手から瓶を奪った。
「魔女め! 覚悟しろ!」
ほとんど反射的に叫び、騎士が瓶を振り上げる。首に剣を当てられたフュリスは黙って目を閉じた。
「ぎゃあああっ! 目が、目がああ!」
「手、手が! 熱いいい!」
叫びを上げたのは騎士の一人だ。次いで瓶を奪った騎士も叫びを上げる。
聖女の豹変に動揺したあまり奪おうとした拍子に中身がこぼれ、鎧兜の隙間から彼らの身体に付着したのだ。
「た、助けてくれ!」「うわぁぁ、俺の手があぁぁ」
兜を押さえた騎士はのたうち回り、慌てて小手を外した騎士は肌と肉が焼けて小手の内側に張り付き剝がれた自らの手を見て絶叫した。
「狼狽えるな!」
仲間の身に降りかかった悲劇に動揺する騎士たちを、ディアナが一喝した。
「それは魔女の力です。
その魔女はわたくしが聖別した聖水を、ひととき触れただけで魔女の毒薬に変じたのです。
騎士たちよ、近くにいては危険です。すぐに離れてそいつを殺しなさい!」
騎士たちがフュリスから飛びのいて剣を構えた。さらに彼らの身体に白い光が宿る。
「これで魔女の瘴気は防げます。早くそいつを倒してください」
騎士たちに法術をかけたエミリーが冷たく言い放ち、フュリスは完全に囲まれた。
「フュリス、嘘でしょう?」
呆然としたアニタの声に、フュリスは寂しげに微笑む。
村人もアニタも、彼女が魔女だと信じてしまっているようだ。
いかなる形であっても、ディアナはフュリスが魔女だと証明したのだ。
(だったら、私は自分の心のままに。そう、自分自身のために決めよう)
フュリスは、これまで隠していた力を使うと、決断した。
「あれは何? 緑の力? 法力でも瘴気でもないわ」
ライキーナはフュリスの内に現れた力に戸惑いの声を上げた。
魔族として生を受けてから一度も見たことが無い力だ。だが、その力の凄まじさは離れていてもありありと「観て」とれた。
「確かにあの力、人間どもの中には捨て置けないわ。
でも、あのままではあの娘は殺される。
殺されない程度に、村から追いやられる程度にするには……チャンスは一度ね」
ライキーナは素早く判断して作戦を立て、梢から飛び降りると戦場へと向かった。
「その人を癒します。動かないでください!」
緑の光が舞った。
「なんだこれは?」「瘴気じゃないぞ?」
フュリスを囲む騎士たちは未知の現象に守りを固め、光は柊の葉のように刺々しい形を成し群れとなって毒を浴びた騎士たちに纏わりつく。
「ひい! なんだこれは!?」「助けてくれ……え?」
叫びは一瞬の後に戸惑いに変わり、手に毒を浴びていた騎士は己の手から離れる緑の光を見送ってから、元通りになった手を3回、顔の前で回した。
「治った」
「い、痛みがない。目が見える!」
騎士たちに動揺が走った。
癒しの法術は聖女の技だ。魔女に使えるはずがない。
常識を覆されて、騎士たちの円陣が乱れる。
「騙されてはなりません! 今の術は魔女の技です。
法力は神々より賜りし清き力。御覧なさい!」
ディアナが叫び両手のひらを上げて天に向けた。
太陽よりも眩い光が空の一点に現れる。
「聖なる焔は天より降りて神敵を穿つ!」
「あの祈祷は大天使級の
ディアナがどうして聖者の技を!?」
「嗚呼、ディアナ様、素晴らしいお力です」
アニタが驚愕し、エミリーは歓喜の声を上げた。
ディアナが使った法術は聖者の技。
聖女には教えられることが無い、魔物を滅ぼすための法術だ。それも、最高位の聖者でなければ扱えないほど強力な。
だが、学生の身でありながら筆頭聖女となった天賦の才は、伊達ではない。
ディアナは教えられることのない法術までも見て学び取り、さらに自力で高めていたのだ。
「この白き輝きこそが法力の証。あなたの力は魔族の力よ!
わたくしの学び舎を穢した魔女め! 消し飛びなさい!!」
ディアナが手を振り下ろすと、白い輝きが流星と化しフュリスめがけて落ちた。
「いかん! 退避!」
法術の威力を知る騎士たちが一目散に走り去り、流星の行く先にはフュリスだけが残される。
みゃぁっ!
「痛っ」
突然右手に飛びかかってきた小さな乱入者にひっかかれ、ディアナが痛みと驚きに退いた。
集中が途切れ流星の輝きが弱まり、弱まった流星を緑の光が群れて盾と化し受け止める。
ふみゃああああ
フュリスの前に着地して、四本脚を踏ん張って威嚇の声を上げたのは、小柄な黒猫。
紅と翠の両目でディアナを睨み、その頭には緑の光。
短剣の形をした光はほどけて額にある宝石に吸い込まれ、七色の煌めきとなった。
「ルーク!」
突然現れた相棒にフュリスは驚きながらも感謝した。
法術を、それも最上位の聖者が使うような強力な法術をディアナが使うのは完全に想定外。
自分の力で身を守ろうとはしたが、受け止める自信はなかったのだ。
「なんと忌々しい!」
ディアナが声を荒げた。
「その力、黒い体。額の怪しげな宝石。
その猫は間違いなく使い魔です。これで言い逃れはできませんわね。
フュリス、あなたは魔女です。
このわたくしが直々に討伐して差し上げますわ」
決めつけられてもフュリスは動じなかった。
「ディアナ、どうぞご自由に。
私もはっきりわかりました。
あなたは法術の才能に恵まれていても、聖女に相応しくないって」
きっぱりと言い切って、両手をかざす。その周りに光の葉が渦を巻いた。
「黙りなさい! 黙りなさい! 黙りなさい!
この期に及んで何を戯言を……
エミリー!」
ディアナの叫びに侍女が素早く両手を組んだ。
エミリーもまた聖女だ。
ディアナの才能が明らかになると、彼女の親は派閥の中から聖女の才能を持つ娘を探し、いないとわかれば方々に手を尽くして漁り才能がある同じ年頃の娘を見つけて適当な家の養女とした。
そうして侍女として教育を受けディアナと引き合わされて以来、エミリーの心は常にディアナと共にあった。否、ディアナの写し身となるほどに己を無くして崇拝してきた。
故に、
「天使の剣は振るわれん。神に仇成す蒙昧の賊へ」
ディアナが学び取った聖者の法術を、一部ではあったがエミリーも学んでいた。
彼女の指先から白い光がルークへと放たれ、その隙に祈祷を唱えたディアナは再び流星をフュリスへと落とす。
騎士たちも村人たちもアニタもただ見守るだけの中、フュリスは一度顔を伏せた。これまでの出来事が脳裏に浮かび、掲げた両手に力がこもる。
「いい加減にして!」
フュリスが顔を上げてディアナを睨み、怒りに叫んだ。
緑の光が舞った。
刺々しい柊の葉を形作り、深緑の光は数を増す。
見る間にフュリスを覆った光の群れは白い輝きに向かって舞い、圧倒的な数でそれを引き裂いた。
「なんですって……」
ディアナが呆然と呟く。
筆頭聖女として比肩する者がなかった彼女の法術を、フュリスの力は打ち消したのだ。
それだけではない。
ふみゃあ!
「おのれ、逃げるな使い魔! なに? この光、ディアナ様!?」
フュリスはディアナの法術を打ち消しながら、エミリーの法術も防いでルークも守った。
ルークはフュリスの足元に戻り、エミリーはディアナの脇に控えて守りの体勢となる。
フュリスが一歩進んだ。
「あなたたちのせいで、私はあんな目に遭って、ううん。
ハンプニー村にもこの村にも、こんなにも迷惑をかけて。
いい加減にしてください」
怒りを顕わに歩み寄るフュリスの両目には、緑の光。
ディアナとエミリーが気圧されて下がる。
周囲を舞う光の葉は竜巻のようで、騎士たちが剣で払おうとしたが歯が立たず、それどころか鋼の剣が瞬く間に削られて折られ引き下がった。
(力が戻っているわ。これなら、ディアナには負けない)
怒りを覚えながらもフュリスは冷静に己の力を見定めていた。
この村で暮らしているうちに弱まっていた力は、王都で貧民の少年を救った時と同じ、いや、それ以上に強くなっていた。
最初の法術を受けてフュリスはそれを感じ取り、今の攻防で確かめ、確信した。
光の葉の群れを操り左右に広げた両手に集めて渦巻かせ、フュリスは無力化した騎士たちを一瞥してから、相対する聖女たちに告げる。
「ディアナ、エミリー、素直に帰ってください。
そうすれば、今までのことは見逃してあげます」
この2人には絶対に負けることはないと。
(もうこの村にはいられないのだから、それでいいでしょう)
筆頭聖女すら優に凌ぐ力を見せた以上は完璧に、居場所はなくなったのだと。
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