―幻影夢々中伝(げんえいむむちゅうでん)―統合失調症と発達障害を患った青年が一冊の本を読み、芸術に目覚めたが芸術の作り方がわからなくて大学に行き、勉強し、芸術家になるまで
澄ノ字 蒼
第一章
第1話
「君の病は……です」
説明を聞いている間にも耳に自分のことを罵倒する声が聞こえてくる。50代くらいの男の先生が僕の目をしっかりと見据えるとそう言った。坊主頭で黒縁の眼鏡をかけている。健康そうに日焼けしていた。
「少し親御さんとお話いいですか?」
僕は席を外し、また外来受付のところで一人待った。
周りの人が視界に入らないように目をしっかりとつぶって座って待った。
途中、トイレに行って用を足した。洗面所の鏡で自分自身の姿を見る。坊主頭に顔色はまるでムンクの作品の『叫び』の叫んでいる顔のように土色で不健康そうである。目の下に大きなクマができて目がぎょろぎょろとせわしなく動いている。青緑色のTシャツと青いジーパンが主人公の不健康そうな顔と悲しいほど清潔でアンバランスであった。
20~30分ほど待っただろうか。先生と母親は一緒に出てきた。母親の目は少し赤かった。母親は言う。
「何ヶ月か入院だって・・・・・・」
「うん。そのほうが僕もいい」
なにがなんだか分からなくなっている。常に脳にいろんな声が響き渡ってくる。
「●●君は息をしました」
「●●君はオナニーをしようとしています」
「●●君は水を飲もうとしています」
などしようとすること、なすことに対して実況する声が聞こえる。しかも声の主は中学校のときのいじめっ子の声である。声が寝る以外の全ての時間、響き渡っているので、どんどんと弱っていってしまう。何回も声に対して呼びかける。
「僕がなにをしたっていうのです。やめてください」
「僕がなにをしたっていうのです。やめてください」
しかし、声は一向に止まなかった。苦しかった。本当に苦しかった。
そんな時に母親に精神科の病院に連れてきてもらったのだった。僕は医療に救いを求めた。そうして精神科に入院となったのだった。
精神科病棟へと案内される。いくつかの廊下を歩き、そして重いドアを開けるとそこにはパジャマを着てイスに座ったりしていたり、ソファに寝そべっている若い男の人や女の人たちがいた。先生は言う。
「ここは思春期病棟と言って、29歳以下の人しか入院できない場所なので」
部屋に入ると、そこは4人部屋だった。カーテンでしきられて中は見えなかった。先生がひとつのベッドを指さす。
「ここが君の部屋だから」
「ありがとうございます」
そうしてベッドに体を横たえた。
母親はしばらくじっとしていたが、先生がすぐさま
「お母さん、入院手続きとかあるから。こっち来てください」
母親は、一言、
「必ずよくなるからね。また来るからね」
と言って、出て行った。
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