第188話 オークション
街を散歩をしていたら、裏道で揉め事があり、思わず介入してしまった。その絡まれていた相手というのがまさか、新日本政府の依頼で共に遠征した藤堂ミツキであったとは……
しかし、この程度の輩たちならば、藤堂一人で余裕に撃退できる筈だが……
疑問に思った俺は彼女に尋ねてみた。
「こいつら、大したことないだろう? なんで手を出さなかったんだ?」
「街中での戦闘行為をしてもいいのか、判断に迷いまして……」
「ふぅん。成程ね」
話を聞くと、藤堂たち“月花”のメンバーは全員、初めてエイルーン王国の街を訪れたようだ。どうやら、まだこちら側の常識をよく知らないのだろう。
「この程度のトラブル、派手な魔法や殺生さえ避ければ大事にはならないぞ」
「本当ですか!?」
「うん。というか、冒険者同士の喧嘩だと、余程の事が無い限り、街の兵士も介入して来ない。多分、探索者も同じ対応なんじゃないかな?」
「「「ええ!?」」」
新日本国のモラルとはだいぶかけ離れている実情に藤堂たちは驚いていた。
(冒険者は自衛が基本だからな)
例えギルド内での喧嘩でも拳だけならば介入して来ない。その程度のトラブルを回避できないようならば冒険者は務まらないからだ。
ギルド支部の方針にもよるらしいが、例え新人冒険者が絡まれていても職員はギリギリまで見て見ぬ振りをするそうだ。そこでめげるような性格や実力では、後で後悔するのは本人だからだ。
人の目の無い野外やダンジョン内では、襲われても誰も助けてはくれないのだ。冒険者に危機意識を持たせる為の、少し荒っぽい通過儀礼というやつだ。
藤堂たちも新日本国ではトップの探索者チームだ。その通過儀礼も既に終えているのだろう。彼女らは臆して手を出せなかったのではなく、手を出していいのか判断に困っていただけに過ぎなかった。
「しかし、こんな所で出会うとは……。最近、日本人探索者の姿もチラホラ見えるけれど、藤堂たち“月花”もエイルーンで活動するつもりなのか?」
俺が尋ねると藤堂は首を横に振るった。
「いえ……“月花”の方針では今のところ、新日本国内での活動のみとしております」
「ふむ?」
確か藤堂本人としては、新日本国内だけに留まらず、世界の色んな場所に回りたいのだと語っていた。
だが、外へ旅をしようにも女性の一人旅はかなり危険だ。
そこで藤堂は仲間を探していたが、それがなかなか見つからないと嘆いていた事を俺は思い出した。
(この二人が見つけた仲間じゃなかったのか?)
藤堂に同行している千田と三枝は“月花”のメンバーだと名乗っていた。
三人がこの場に居るという事は、クラン方針に逆らって街に来ているのか、はたまた……
「実はここにはオークションに参加する為に来たのです」
俺が疑問に思っていると藤堂が来訪の理由を教えてくれた。
「オークション?」
なんとも奇遇な。俺たちも丁度、明日開催されるブルタークのオークションに参加する予定であったのだ。
「はい。噂に聞いたのですが、そのオークションにはマジックアイテムも出品されるとか」
「ぜひ入手したいマジックアイテムがあるのよ」
「これを見逃す手はないよね!」
どうやら三人は“月花”を代表して、オークションに参加する為にブルタークまでわざわざ来たようだ。
「でも……オークションに参加する為には、どうやら街の有力者からの紹介が必要なようです」
「もう席も全て埋まってるんですって」
「折角ここまで来たのに……!」
藤堂たち三人は揃ってため息をついていた。
(これは……なんとも絶妙な……)
俺たちは主催者であるマルムロース侯爵から四人分の招待状を貰っている。元々は“白鹿の旅人”用にと頂いたものだ。
だが、今は名波とシグネが抜けており、代わりにケイヤが加わっている。
つまり、一枚分の招待状が余っていたのだ。
俺はマジックバッグから招待状を取り出し、その内容を確かめた。
(…………別に名前は記載されていないな)
これ……別に他の者を誘ってもOKって事なのか?
それを言うのなら、そもそもケイヤも本来、招待されていない側の人間だ。彼女が参加するのだから、もう今更だろう。
俺は取り出した招待状を藤堂たちに見せた。
「矢野君、これは……?」
首を傾げながらも、藤堂たちはその紹介状に目を通すと驚きの声を上げた。
「もしかして……!」
「「競売の紹介状!?」」
「ああ。一名で良かったら参加出来るけれど……どうする?」
俺の問いに藤堂たちは即答した。
「と、言うわけで急遽参加となった藤堂さんだ」
「藤堂ミツキです。宜しくお願いします」
「「…………」」
翌日、俺が藤堂を紹介すると、佐瀬とケイヤは何故か神妙な顔をした後、少し間を置いてから挨拶をした。
「佐瀬彩花よ。“白鹿の旅人”
「ケイヤ・ランニスだ。“白鹿の旅人”の中では新参者だが、イッシンとは凡そ二年前からの
「あ……はい。どうぞ、よろしく……」
なんか妙に自己主張の強い挨拶であったが……一体なんなの?
佐瀬とケイヤの圧に藤堂はたじたじであった。
紹介状は一枚しかない為、千田と三枝には悪いが二人はお留守番だ。
「リーダー! 私たちの分も頑張ってね!」
「あーあ。折角ドレスを用意してきたのに……」
「ごめんね、二人とも。先に宿の方で待っていてね」
紹介状の存在こそ知らなかったようだが、藤堂たちは事前にドレスを用意していたようだ。オークションンといえば、やはり正装だと思ったのだろう。
藤堂は和風の着物を着ていた。このファンタジー世界だと異国のドレス風で格好いい。大和撫子な黒髪の藤堂にはお似合いの衣装であった。
同じく黒髪の佐瀬は普段の魔法使いローブとは違い、露出が多めの大人びたドレスを身に纏っていた。正直、目のやり場に困るが眼福でもある。
ケイヤは彼女の髪色と同じ、青を基調としたドレスを見事に着こなしていた。その辺りは流石、貴族令嬢である。
俺は街中にある仕立て屋に大急ぎで作ってもらったタキシードを着ていた。この国ではフォーマルな衣装らしいが…………正直言って似合わない。
(くそぉ……せめて元の身体だったらなぁ……)
今の俺は中高生くらいまで顔や体が若返って幼く見えている。一見、貴族のボンボンといった装いであった。佐瀬たち美人三人と並び立つと、猶更そう見えてしまう。
競売会場はブルタークの貴族街地区にある大きな催事場だ。そこには既に多くの参加者が訪れていた。侯爵は主催側で忙しいらしく、当日の挨拶は不要だと事前に通達があった。
衛兵に紹介状を見せ、俺たちは会場内へと足を踏み入れる。
「ふふ。エスコート宜しくね」
「これじゃあ、お嬢様を案内する若造従者の構図だな……」
渋々と俺は佐瀬の手を取って腕を組んだ。
「イッシン。私の方はエスコート無しか?」
「へいへい」
空いたもう片方の腕をケイヤに差し出した。
「も、モテモテですね……」
その俺たちの背後を藤堂が苦笑いを浮かべながら付いてきた。
「……そう思う?」
「ええ。とっても仲が良さそうで……お似合いです」
これには佐瀬とケイヤも満足そうにしていた。
「藤堂さんだっけ? 貴方、いい子ね」
「ミツキ。今日は宜しく頼む」
「はい!」
競売が始まるまで、三人は女子トークに花を咲かせていた。
だが、そのトーク内容は主に野外活動やダンジョン探索での女性特有の悩み、それと剣や魔法の扱いに関してであった。そこは女子とは言え、彼女らは一流の冒険者や戦士、一般人とは少しズレた話題であった。
会場内の指定された席で待っていると、ようやく競売が開催された。司会進行役が壇上に上がり、挨拶を始めた。
この競売は合法な代物なので、参加者は顔を仮面で隠したりなどは一切していない。ただ、参加者全員に番号付きの木札が割り振られており、それを掲げながら金額を口頭で申告する仕組みのようだ。
金額の下限、上限は無しだが、一度申告した金額は、例え借金してでも支払うのが絶対のルールである。俺たちはしっかりと自分たちの予算を確認した。
火竜を王国領へと運ぶ際、俺たちは獣王国の関所で法外な関税を提示されてしまった。その際、有り金をほぼ全部使ってしまったのだ。
(まぁ、火竜の亡骸を白金貨500枚で王国に売ったけどね)
だが、白金貨500枚は国にとっても大金なので、一括送金は無理だと言われてしまった。そこで、まず最初に白金貨100枚分を頂き、残りは三ヵ月毎に白金貨100枚が指定の国内ギルド支部口座に振り込まれる。
丁度一年で白金貨500枚を得られる形だ。
更に先行して貰った白金貨100枚を火竜討伐の参加者全員に分けなければならない。参加人数は八名なので、単純計算で白金貨12枚と少しなのだが……面倒なので一人白金貨10枚とし、余りは“白鹿の旅人”の共同資金に充てて良いとディオーナから提案された。
今回、火竜討伐に関して俺たち“白鹿の旅人”が最も貢献したという事で、そういう話となったのだ。それにロイたちも快諾した。
よって、俺個人には白金貨10枚分、パーティ共同資金に白金貨20枚が振り込まれた。
更に競売の準備の為、不要なモノをギルドに売って資金調達も行った。
(俺個人の手持ち予算が白金貨11枚、パーティ共同資金が白金貨25枚分か……)
これだけあれば、欲しい物の一つや二つ、確実に落札出来るだろう。
競売の司会進行役が当たり障りない挨拶やルール説明を一通り終えると、いよいよ競売はスタートした。
『まずはこちら! 旧ガーデ王国朝の絵画! 鬼才、ダッフォルニー作の名画でございます!!』
「「「おおおおおおおおっ!!」」」
司会が拡声器の魔道具で品名を告げると会場内にどよめきが起こった。
(全然、分からん!)
一方、俺や佐瀬、藤堂は困惑の表情だ。
俺たち異世界の人間は、こちらの世界の芸術方面は無知に等しい。
一人、感心しているケイヤに佐瀬が尋ねた。
「ケイヤ。あれ、有名な絵画なの?」
「ああ。あまり教養の無い私でも知っている有名な画家だな。流石は侯爵だ。競売の最初の品としては相応しい代物だろう」
「ふ、ふぅん……」
あ、佐瀬の奴。自分で聞いておいて速攻で興味を失ったな。
今回の競売はマジックアイテムだけでなく、芸術品なんかも多く出品されるのだ。俺たちのように実用的なマジックアイテムを求める者より、骨董品を収集する好事家の参加者の方が人数は多い。
暫くの間、壺や名画、銅像などの出品が続く。その度に参加者から歓声が上がり、次々に大金が提示されていく。
(今までの最高落札価格は金貨70枚か……)
想定していたより価格は随分と低めだ。
それでも、あんな絵にそれ程の価値があるのか甚だ疑問だが……モノの価値感は人ぞれぞれである。
競売は後半戦へと突入し、ここからはいよいよ実用的な物、魔道具や武具、マジックアイテムが出品され始めた。
すると、競売の参加人数は減ってきたが、それに反比例する形で落札価格が高騰し始めた。
奇妙な現象に俺が疑問に思っていると隣に座っているケイヤが解説してくれた。
「ここに参加している連中の多くは、競売自体を娯楽として楽しんでいる者たちが殆どだ。だから落札価格が比較的低い趣味の方に人は集まる」
「成程な」
落札が目的では無く、競ったりする行為の方が重要なようだ。
確かに俺も芸術品はちんぷんかんぷんだが、競売自体は見ていて楽しかった。まだまだ娯楽の少ないこの世界でのオークションは貴族にとって貴重な社交場や遊び場なのだろう。
「つまり、ここからが本気の競売ってわけね?」
「ああ。娯楽目的の参加者は減るだろう。一方で、商人などは本気で品を狙ってくるぞ」
「ふむ……」
もしかしたら芸術品の競売は商人も貴族たちに遠慮して控え目に提示していたのかもしれないな。ここからが正真正銘の競りというわけか。
『はい! 73番の方! ドワーフ名工、幻のミスリル剣、金貨90枚で落札です!』
「「「おおおおおおおおっ!!」」」
ミスリル製の美しい剣があっという間に最高落札価格を抜いた。やはり実用的な武具の方が価格も高くなるようだ。
「しかし……遠目に見ただけじゃあ、剣の良し悪しが分からないなぁ」
失敗した。鑑定持ちのシグネには是が非でも参加してもらうべきだっただろうか?
「これでは……マジックアイテムの詳細も分からないですね……」
藤堂が心配そうにしているとケイヤがその不安を払拭してくれた。
「案ずるな、ミツキ。マジックアイテムに関してはしっかりと効果の説明がある筈だ。こういう場では腕の良い鑑定士を雇っているものだからな」
ケイヤの予言通り、マジックアイテムの出品になると、その雇われ鑑定士が姿を見せた。
「あ! イッシン、あの人……!」
佐瀬の指差した方を見ると、そこには見た事のある女性が壇上に立っていた。
「あいつは……アルテメ町のポンコツ鑑定士!?」
腕は立つが、勤務態度に問題ありでアルテメの田舎町に左遷された経歴を持つ女鑑定士がそこに立っていた。
彼女は確か、鑑定バトルでシグネに完膚無きまでに敗北し、ギルド出張所を飛び出た筈だが……
(確か、修行の旅に出るとか捨て台詞を吐いていたような……)
まさか侯爵に雇われているとは思わなかった。今回限りの臨時だろうか?
ポンコツ鑑定士がマジックアイテムの説明を始めた。
『こ、こちらのアイテムは【小型マジックポーチ】と言いまして、
「「「おお…………っ!!」」」
「凄い! 矢野君、
藤堂も興奮して俺に話し掛けてきた。
「あ、ああ。す、凄いな……」
すまん。俺のマジックバッグ、3ランク上の
これには佐瀬とケイヤも表情を引きつらせていた。やはり伝説級は規格外なようだ。出品したら、一体幾らの値が付くのやら…………
続いて出品されたのはイヤリングであった。
『こ、このイヤリングは【マジックイヤリング】と言いまして、基本五属性の魔法の威力を微増させます。と、特に放出系の魔法に効果があります』
これに興味を示したのは佐瀬であった。
「デザインはギリギリ及第点だけど……欲しいわね!」
魔法使いにとっては垂涎の的だろう。
上昇効果は僅からしいが、イヤリング一つで魔法の威力が少しでも上がるのなら付けない手はない。
装飾類の見た目を重要視する佐瀬のお眼鏡にも適ったようで、商人たちと競いながらも金貨65枚でキッチリ落札してみせた。
「ふふん!」
「佐瀬さん。お金持ちですね……!」
こちらの資金力に藤堂が驚いていた。
(白金貨10枚以上あるって告げたら腰抜かすかな?)
どうやら藤堂は俺たちが火竜を討伐し、報奨金を得た事を知らないようだ。
お次は俺たちの見知ったアイテムが登場した。
「あれは……【相愛の鎖】か!?」
二つ一組のアイテムで、鎖の先の鏃が互いの位置を指し示す効果がある。
『――――このように、互いの位置が分かるので、大切なお子様や伴侶の方のご動向を探ることも可能です』
女鑑定士が鑑定結果を告げていく。
これには少数の貴族も関心を示したが、その真価はもっと別にあると俺は思っている。
(あれ、船やエアロカーなどの乗り物に便利なんだよなぁ)
海や空だと現在地が分かりにくくなる為、常に一定の方向を指し示す【相愛の鎖】はコンパス代わりに有効となるのだ。
競りが始まり、比較的安い価格帯で推移していく。
エイルーン王国領は海に面しているが、港町と呼べるのは現在鹿江エリアしかなく、まだまだ遠海に出るだけの技術力が無かった。その為、このアイテムの可能性に気付いていないのだ。
「金貨25枚!!」
俺は咄嗟に声を上げた。
【相愛の鎖】はまだ一組持っているが、このアイテムは多いに越したことがない。設置すればするだけ、遠くの正確な行先場所が増えるからだ。
俺の金貨25枚より高額提示が無かったので、無事に落札出来た。
「そのアイテム、そんなに良い物なんですか?」
興味津々に尋ねてきた藤堂に俺は正直に答えた。
「これ、船の往来が激しい土地だと金貨50枚くらいが相場だぜ。海上や上空でコンパス代わりに利用出来るんだ」
「――っ!? そ、そんな利用方法が……!」
藤堂は「しまった!」と分かり易い表情を浮かべた。
彼女もエアロカーでの空の旅を経験しているので、場所の正確な位置を知る重要性を身に染みているのだろう。
その後も貴重なポーションや防具のマジックアイテムが続き、競売はいよいよ終盤に差し掛かった。
『お次はこちら! 【魔法の黒球】です!!』
「「「――――っ!?」」」
司会の声に競売参加者の一部が息を呑んだ。
そのアイテムは俺たちも熟知していた。なにせエアロカーの動力源に使われているのだから……
「来た!」
藤堂も思わず前のめりになる。
(そうか。それがお目当てだったのか……)
エアロカーの大体の構造はエイルーン王国の上層部や新日本政府にも既に教えてある。
俺は初対面時の藤堂にせがまれ、宇野やCIAのエージェントたちの前で【魔法の黒球】がエアロカーの動力源である事を教えたのだ。
どうやら藤堂たち“月花”はまだ【魔法の黒球】を入手していないらしく、オークションに一縷の望みを賭けてここまで来たようだ。
だが、結果は無情であった。
「金貨60枚!」
「金貨80枚!」
「金貨90枚!」
「あぅ……」
あっという間に値が上がってしまった。
どうやら会場内にいる商人たちも【魔法の黒球】の価値に気付いているようだ。
俺はフローリア王女やマルムロース侯爵といった王国上層部にしか話していないが、何処かから話が漏れたのだろう。商人の中には貴族お抱えの商会もあるだろうし、もしかしたら貴族から【魔法の黒球】を入手するよう言われているのかもしれない。
(……もしかして侯爵は既に持っているのか?)
侯爵主催の競売なので、当然出品される品を彼は事前にチェック出来た筈だ。これは……俺たち以外のエアロカーが飛ぶ日も近いかもしれない。
ただし、【魔法の黒球】を動かすには相当量の魔力が必要となる。遠出をするのなら、往復で最低でも魔力1万くらいは欲しいところだ。
その点を考慮すると、空に魔法の車が行き交う光景を見るのは、まだまだ先だと思われる。そもそも満足に飛ばせられる魔法使いが少ないからだ。
『はい! 【魔法の黒球】、白金貨3枚と金貨50枚で落札です!!』
「「「うおおおおおおおおおおっ!?」」」
本日の最高額に会場中が沸いた。
会場の熱狂とは裏腹に、藤堂はがっくりと首を垂れていた。
「た、高すぎます…………」
「えっとぉ…………ちなみに予算は幾らほど?」
「…………金貨40枚です」
「あー…………どんまい」
そりゃあ無理だ。
恐らくエアロカーの存在が知れ渡る前ならば楽勝で購入出来ただろう。
それまでの【魔法の黒球】は大量の魔力を消費して相手に投げ飛ばす投擲武器に過ぎなかった。
当時の俺たちも投擲武器として試したが、そんな無駄な魔力を使うくらいなら、直接魔法をぶち込めばいいという結論に至ったのだ。
同じシリーズで【魔法の小黒球】という劣化版も存在する。以前に、ルルノア大陸からやって来た冒険者と交渉して手に入れたアイテムだ。今はもう一つの乗り物、エアーバイクの動力に利用している。
そちらは出力が少ない分、消費魔力量も抑え目なので、魔法を扱えない剣士が投擲武器として利用していたが…………威力は微妙だ。
元は
競売はその後も続いた。
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